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スタチン療法の副作用について

<スタチンの副作用の頻度について>
スタチンの副作用は主に筋障害、肝障害、新規糖尿病。
また頻度に関しては下図1)

グラフィックス1

MVS:major vascular events (myocardial infarction, stroke, coronary, revascularization procedure).


<スタチン起因性ミオパチーについて>2)

スタチン起因性ミオパチーは、筋力低下と筋肉痛、CKが正常上限の10倍以上を特徴とする。横紋筋融解症は、より重篤な形態のミオパチーであり、ミオグロビン尿症と急性腎不全を誘発する可能性があるため、入院が必要になる。

スタチンの用量増加後、治療の最初の年になどにリスクが高くなり、横紋筋融解症を伴うのは若年者よりも高齢者で多い。

●ミオパチーの副作用の予測因子:高齢者、女性、肝不全、腎不全、既存の筋肉疾患、甲状腺機能低下症、糖尿病などの併存疾患と多剤併用

●スタチン起因性ミオパチーの症状:両側性で肩、腰、上胸、または腰痛などの近位に分布。


<スタチン開始時と開始後のフォローについて>3)

● 開始前に参照目的のベースラインCK値を測定することは有用である
● 定期的なCK測定は推奨しない。筋肉痛や筋力低下などの新たな発症に注意する。
● CKの測定時の注意:スポーツに従事する患者は、その日の運動前にCK測定を行うことをすすめる


<スタチン治療中の症状、CK上昇への対応>2)

1. ミオパシーは横紋筋融解症および急性腎不全に進行する可能性があるため、筋肉痛の患者のCKおよびASTをできるだけ早く測定する。

2. 筋力低下とCK増加に関連する甲状腺機能低下症との鑑別を行う必要があり、TSHとFreeT4を測定する。

3. CK>正常の10倍、または>5倍で症状が重度または状態を悪化させる関連疾患がある場合は、スタチンを直ちに停止する。

4. CKが正常の3〜4倍で、症状が軽度の場合、治療を継続できるが、CK値は数日後に再度測定する。

5. 患者は十分な水分補給によるhydrationについて説明する。

グラフィックス2

文献2)より


またUp To Date 3)では軽症例でのスタチンの変更も推奨されている

プラバスタチン、ピタバスタチン、およびフルバスタチンは、他のスタチンよりも関連する筋肉毒性が少ない。そのためプラバスタチン、ピタバスタチン、またはフルバスタチン以外のスタチンでスタチンミオパチー(横紋筋融解症を除く)を発症した患者では、スタチン療法で症状が解消されたらこれらの薬物療法の1つに切り替えることを勧める(グレード2B)。


<スタチン中止後も改善が見られない場合>

通常、スタチン誘発性ミオパチーは、治療が中断されると症状改善しCKは低下する。回復の時間は、筋肉損傷の重症度に依存しする。

症状が消えず、CKが減少しない場合は、ミトコンドリアミオパチー、リウマチ性多発筋痛などの他の疾患を考慮する。

非常にまれな疾患としてスタチン誘発性自己免疫性ミオパチー(免疫介在性壊死性ミオパチー)がある。スタチンを投与されている100,000人の2〜3人の患者に見られる。この疾患は、スタチン治療の中止により可逆的に回復するが免疫抑制療法を必要とする場合がある。2)

 患者が薬物治療を中止して2週間以内に改善せず、抗HMGCR抗体検査陽性であれば、免疫介在性壊死性ミオパシーの診断が支持され、免疫抑制療法を検討する必要がある。4)


<ステロイド関連 免疫介在性壊死性ミオパチー>5)

1987年に米国でスタチンが利用可能になったが、スタチンに関連する免疫介在性壊死性ミオパシーは2010年に初めて記載された。

スタチンを止めても持続し、免疫抑制剤で改善したが、ステロイドの停止または漸減で再発する特徴を示した。

スタチン薬の中止後も筋肉痛や痛み、またはCKの上昇が続く患者は、抗HMGCR自己抗体について検査し、抗HMGCR自己抗体が検出された場合は、静注免疫グロブリンで治療する必要がある。

スタチン暴露により壊死性ミオパチーを発症した患者は、スタチンによる治療を続けるべきではない。

<症例でさらに学ぶ>

Myopathy for the general internist: Statins and much more.5)
概要:ミオパチーの評価と、CKの結果の解釈、潜在的に危険なミオパチーを認識する方法のレビュー。スタチンに関しても含まれた6つのケースをもとに解説されている。

スタチン開始時のCK高値をどう取り扱うか?
<ケース2> 特発性高CK血症

● 特発性高CK血症は正常よりもCKが高いだけの状態
● ベースラインのCK値が基準上限の3~5倍のことがある
● 人種、性別に差があり黒人男性、黒人女性、白人男性、白人女性の順で多い。また運動や肉体労働でも上昇する。

つまり、筋力低下がなくCKのベースラインが基準上限の3~5倍であれば、筋電図や筋生検の必要はなく、スタチンを開始できる


スタチン起因性横紋筋融解症の症例
<ケース3> 免疫介在性壊死性ミオパチー

【症例】67歳の女性の筋力低下


6年前から脂質異常症のためにアトルバスタチンを開始。4年後、下肢筋力低下を発症したが、加齢に伴うものと診断された。その1年後、階段昇降と両上肢挙上が困難になった。

アトルバスタチンの服用をやめたが、筋力低下は改善しなかった。検査を行ったところCK 6,473 U / L。エラーと考えられたため、再度計測したが9,375 U / Lであった。

入院し、筋生検を受けたが、炎症や血管炎の所見はなく筋壊死を認めた。PSL60mg /日で治療され、CKレベルの上昇と筋力低下は改善した。

その後、筋炎センターに入院となった。当時のCKレベルは5,800 U / Lであり、PSL漸減するにつれてCKは増加し、筋力は寛解せず。MMTは三角筋4 + / 5、頸屈筋4/5、および腸腰筋3 + / 5。

メトトレキサートとアザチオプリンで治療を受けたが、効果なし。

次に静脈内免疫グロブリンで治療され、3ヶ月後、筋力は数年ぶりに正常化した。彼女のCKレベルは低下したが、正常化はしなかった。

抗HMGCR自己抗体検査が商業的に利用可能になったため、検査したところ陽性であった。



参考文献
1)Newman CB, Preiss D, Tobert JA, et al. Statin Safety and Associated Adverse Events: A Scientific Statement From the American Heart Association [published correction appears in Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2019 May;39(5):e158]. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2019;39(2):e38–e81.
2)Horodinschi RN, Stanescu AMA, Bratu OG, Pantea Stoian A, Radavoi DG, Diaconu CC. Treatment with Statins in Elderly Patients. Medicina (Kaunas). 2019;55(11):721. Published 2019 Oct 30. doi:10.3390/medicina55110721
3)Up To Date
4)Selva-O'Callaghan A, Alvarado-Cardenas M, Pinal-Fernández I, et al. Statin-induced myalgia and myositis: an update on pathogenesis and clinical recommendations. Expert Rev Clin Immunol. 2018;14(3):215–224.
5)Oddis CV. Myopathy for the general internist: Statins and much more. Cleve Clin J Med. 2019;86(10):656–664. doi:10.3949/ccjm.86gr.19001


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