症例振り返り8 肋骨骨折に伴う外傷性血気胸
2日前に胸部打撲し肋骨骨折と診断されていた方が今朝から呼吸が苦しいとのことで受診。CTでは軽度の血気胸を認めました。
肋骨骨折の診療
肋骨骨折は病歴と身体所見であたりを付けて、エコーで診断するという流れが多いです。
肋骨上にピンポイントの圧痛と介達痛を認めるかどうか。
あればその場でエコーを当てれば骨の連続性が経たれて、出血にともなうlowの領域を見つけて診断に至ります。
レントゲンやCTでは、肋骨骨折は見逃されることが多いです。
それでも肋骨骨折を疑ったらレントゲンは撮影するのが基本です。それは骨折の診断ではなく、合併症としての血気胸がないか確認するために撮影します。
外傷性気胸ってどう見るの?
JATECでは、「外傷性血気胸は重症度によらず診断すれば全例ドレナージ」とされています。しかし軽症例では保存的加療でも多くは改善し、ドレナージによる合併症も懸念されるため適応については考える必要があります。
外傷性気胸のドレナージの適応は大まかに下記
ABCの安定のために必要
サイズ:Xpで20mm以上、CTで胸膜から35mm以上
増大傾向
両側性
保存的加療で見るなら6時間毎に画像フォローとする。
外傷性血胸ってどう見るの?
気胸は緊張性気胸となれば呼吸にも循環にも影響しますが、ドレナージさえできれば立て直せます。つまり内科医でもその場を凌げるということです。
血胸はというと、圧排による呼吸状態悪化はドレナージで乗り越えられるものの、大量出血による循環動態破綻には胸部外科での止血を必要とします。そのため、輸血の在庫を置いておらず胸部外科もない当院では血胸に、より注意を要します。
外傷性血胸は、心筋、大動脈、肋間動脈などの損傷または肺実質や表面の血管損傷によって起こります。
レントゲンで分かるのは300ml以上の貯留が必要で、その場合にはドレナージの適応について検討します。
ドレナージして保存的に止血されるのを待つか、呼吸器外科へ止血を依頼するかは
初回ドレナージ時点で1500ml以上の排液
持続的に多量に出る:3ml/kg/hr(ざっくり100ml/hr以上)
全身状態を保つのに必要
というような基準で判断されます。
今回経験した症例は軽症血気胸。さて当日どうするか?
どの病気でもそうですが、時間経過がとにかく大事です。
今回の症例では受傷3日目かつ、呼吸苦出現して半日程度経過しているにも関わらず、CTで確認できた気胸腔と胸水は大した量ありませんでした。出血源も肺実質や肺表面の小さな血管障害によるものと考えられました。
危ない経過ではないものの、今朝からの呼吸苦出現ということで注意が必要です。
経過観察目的に入院とし、入院後時間を時間を空けて当日再度画像フォローしました。
フォロー画像では増悪なし。時間をおいて再評価したことで、数時間の経過で横ばいであるというベクトルが分かりました。
緊急での処置はやはり必要ないものの、夜間に増悪した場合にどう対応するかが懸念されます。
当院には検査技師も放射線技師も当直体制がありません。そして輸血も院内に在庫がなく依頼して2時間後にやっと届くという状況です。
血胸が進行した場合に輸血をするとなると血液型判定のために検査技師を呼び出し、血液型判定後に輸血依頼をかけるという大きなタイムロスが生まれます。
最低限の日中にできることとして、血液型判定は行っておくこととしました。
それでは、もし血胸が増悪して輸血が必要になった場合にどう対応すべきでしょうか?
血胸の増悪時にはドレナージが必須?
血胸の増悪時の問題点は、圧排による呼吸状態増悪、大量出血による循環動態破綻の2つが考えられます。
圧排によるバイタルの崩れがある場合にはドレナージをする他ありませんが、ドレナージは出血にはどう働くでしょうか?
実は血胸の内部の凝血塊が止血に寄与しており、ドレナージを実施したことでその凝血塊がはがれて出血が助長される可能性もあります。
胸部外科での止血が必要になり得る出血源が、たまたま凝血塊により多少止血されている状況で、胸部外科のいない当院でドレナージをかけて大量出血を来たした場合には転院搬送も命がけになります。
ということで、夜間に血胸が増悪して輸血が必要になった場合には、呼吸状態が保たれているのであればできる限りドレナージはせずに転院搬送をして、止血術が緊急で実施できる場でのドレナージをするほうが無難であろうと考えました。
まとめ、場所ごとに違う臨床的最適解を求めて
今回の症例では翌日以降も落ち着いていました。よかったよかった。
リソースの少ない病院で働き始めると、治療・検査の時間間隔や夜間の体制も大きく違うので慣れるまで戸惑います。
それでも、その場でできうる最適解を模索していくことが求められるのでハラハラドキドキしつつも楽しくやらせてもらっております。
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