二酸化炭素排出量取引価格(EU-ETS)の中長期的なトレンド
EU-ETS(EECXM)は、年初の€32近辺から€60程度にまで価格が上昇した。ブルーンバーグ報道によれば、ヘッジファンド(Andurand Capital) は年内 €100の価格を予想しているという。
価格上昇には下記のような短期的要因があろう。
コモディティー市場、特に天然ガス価格は年初価格$2.58から8月末には$4.38まで高騰した。このガス価格高騰が石炭火力発電への再回帰を起こし、EU-ETSの需要が強まった。
また、ESG意識が高まりEU-ETS市場参加者が増え、投機的見込みも交えボラティリティーが増加した。これにより、価格高騰を見越した需要家が買い増したことも影響しているだろう。
2019年1月から導入されたMSR(市場安定化リザーブ)の影響もある。市場から余剰分がMSRとして吸収されるこの市場オペレーションによりタイト感が増し、価格上昇のセンチメントにつながった。
市場メカニズム的には、EU-ETS価格上昇やエネルギー価格高騰によって、企業の排出量抑制努力と再生可能エネルギーの開発に拍車がかかるはずである。しかし、中長期的には、2030年の削減目標がさらに厳しくなることが見込まれ、EU-ETSの需要は強含むことは必至である。
ちなみに、予想価格情報は以下のとおり。
International Emission Trading Association 予想平均価格 - Reuters報 (2021/7)
- 2021 - 2025: €47.25
- 2026 - 2030: €58.62
なお、2030年の予想価格は、ICIS (Independent Commodity Intelligence Services) は€90(2021/7)、Bloombergは€85(2021/6)。
価格メカニズムを利用した排出量削減の仕組みであるEU-ETSがボラティリティーに襲われることは望ましくない。自然自律的な市場秩序の維持が期待される。
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