『フタを開ける』 あとがき


あとがき


 春日大社の南、高円山(たかまどやま)の中腹に暮らし始めて四年目を迎えました。奈良は、緑滴る自然美と、静かで古い町並みが、おだやかに調和しています。私が、詩を書くようになったのは、そんな湖の水底のような奈良を発見したからです。
 ここでは、人だけでなく、鹿、猪、リスなどが、共生しています。どちらかというと、人間が自然の豊かさに負けているような場所です。土の道を歩いていると、樹齢五〇〇年以上と思われる巨樹に出会います。そんな木の下に立てば、人間の命の短さが思い知らされます。そして、生きていることの不思議に、戸惑いを覚えます。
 この詩集は、読まれることによって生き続けるでしょう。何十年も、いやそれ以上、生き続けてほしいと願っています。
 最後に、この詩集を生み出してくれた書肆山田の方々と印刷屋さん、いつも励ましてくれた老詩人、そして、家族に深く感謝します。

                 二〇一〇年二月五日   西尾勝彦




『フタを開ける』(書肆山田)収録

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