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アコギ回顧録 番外編 その③「アコースティックギターのフランケンシュタインをリトップ」

 ギターを道具(弾くもの、使うもの)として捉え、プレイヤーの視点から見た良いギターとはどのようなものか?その答えを追い求めて50年余り。所有したギター本数も3桁に届くぐらい?!
 その答えと言えるかどうかわかりませんが、過去~現在を振り返って自分なりの考え方をまとめてみようと思いました。アコギ好きの方、興味のある方にとって、少しでもお役に立つことができれば幸いです。


 エレキギターの世界ではよくある話ですが、アコギでは珍しいかなと思って書きました。アコースティックギターのフランケンシュタインの話です。ある程度アコギに詳しい方でないと、わかりにくいお話かもしれません。アコギオタクの方々には、面白いと思っていただけるのではないかと・・・。

Before
 問題のギターはMARTINのD-28、1968年~1969年製らしいです。(シリアルナンバーが消されていて読めませんでした。かろうじて最初の2文字だけ判別できたそうです。24XXXX。)バックも過去に外された形跡があったとのこと、それを再接着した際に何らかの不具合があり、このようなバインディングになったのではないか?とのことでした。トップはサンバーストにされていましたが、こちらは外された形跡もなかったので間違いなくオリジナルとのこと。ネックは18のもので、ペグはGROVERのゴールド。

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 楽器という観点で見たら、全体に大きなダメージはなく、このまま使おうと思えば使える状態でした。ネックの状態を含め、セッティングも悪くないしピッチもまあまあ使えるぐらい。しかし・・・音がイマイチでした。

 はてさてどうしたものか?いろいろ考えましたが、このままリペアやセットアップをしても、満足するような音になるとは考えられませんでした。そこで「ここは思い切って、大改造じゃ!」ということで、リトップして(トップとは表板のこと。アコースティックギターの音はほとんどこれで決まると言ってもよいぐらい重要なパーツです。リトップとは、表板を張り替えるということ。)全く別のギターに生まれ変わらせることにしました。すでにコンバージョン(Conversion)のギターを所有していたこともあり、リトップすることに抵抗はありませんでした。
 リトップをしようと考えた時点で、頭の中には「誰に依頼するのか?」がほとんど決まっていました。依頼したのは、エム・シオザキ弦楽器工房の塩﨑 雅亮さんです。以前から親交があり、塩﨑さんが手がけたコンバージョンのD―45をすでに持っていることもあってお願いすることにしました。

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塩﨑さんが手がけたコンバージョンのD―45(From D-28 1947)

 2019年の3月某日、西条市の塩﨑さんの工房へ。リトップをお願いし、仕様(ブレイシング等)についてはすべて塩﨑さんにお任せするということでギターをお預けしてきました。

塩﨑さんのプロフィール
塩﨑 雅亮 【エム・シオザキ弦楽器工房 / SEAGULL by M.Shiozaki】

塩﨑さんプロフィール用

 CSN&Yのマーティン・サウンドに魅了され、ギター製作に目覚めた塩﨑 雅亮氏は、1982年*シーガル弦楽器工房を設立。(*現、エム・シオザキ弦楽器工房)
 中島 馨さん (Kaoru Acoustic Craft)、日高 雅樹さん (HIDAKA GUITARS)、高崎 和義さん (Fellow)など、日本を代表するギター製作家が工房には門下生として名を連ねています。ギター製作における知識と技術は当時から既にトップ・クラスであり、現在も日本屈指の製作家として、非常に高い次元でのギターを輩出し続けています。
 ヴィンテージ・マーティンの研究にも余念がなく、その第一人者としても広く知られている。


After
 塩﨑さんとは年に数回程度連絡をとっていましたが、ギターがどうなっているか確認することもなく2年半の月日が流れて行きました。そして今年(2021年)の10月9日、ついに塩﨑さんから「ギター、完成しました。」との連絡をいただきました。翌日ギターを送っていただき、それ以来弾きまくっています。

 仕様の方ですが、トップの材はもちろんアディロンダックです。塩﨑さん曰く「ブレイシングは、フォワードシフテッドとリア・シフテッドのちょうど真ん中あたりを狙って製作しました。」とのこと。(かなりマニアックな領域です。マーチンを良く知っている方で無ければ意味が解らないと思います。マーチンが最も良かったと言われている時代、戦前の仕様です。)ヴィンテージマーチンのリペアの第一人者であり、マーチンの研究家としても日本で屈指の存在である塩﨑さんのオリジナルブレイシングと言ってもよいかもしれません。まさにフォワードシフテッドとリア・シフテッドのええとこ取り、塩﨑スペシャルです。塩﨑さんとしても、やってみたい実験だったのでしょう。(ある程度の自信・確信があってそうされたのだと思います。)近年の塩﨑さんの作品を何本か弾いていましたので、たぶん大丈夫だろう(良い音のギターになって戻ってくる)と思っていました。が、正直なところ実際にギターを手に取って弾いてみるまでは少し心配でした。(本体と改造費、なかなかの金額でしたので。)

  結果はバッチリOK、メッチャええギターになって戻ってきてくれました。さすがにプリウォーの音とは違いますが(そこまで枯れた感じではない)、プリウォーにはない若さがあります。スキャロップ特有の響きもメッチャええ感じ!スキャロップの響きは、どちらかというと高音域で感じることが多いのですが、このギターは全域でその独特な響きを感じさせてくれます。バランスも音量も文句なし!いやーマジでええギターです。
 今後塩﨑さんの製作されるギター(М.Shiozaki)でこのブレイシングの仕様が出て来たら、面白いことになるんじゃないかなと思います。
 ネック回り、サイド・バックは元のパーツをそのまま使っています。ボディのバインディングは、白にトーティスのラインが入ったちょっと珍しいものに変わりました。けっこうシブイと、自分では思っています。

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 話はそれますが、最近やたらと「サスティーナブル」とか「CDGs」という言葉を耳にします。世の中の流れとして、そういう方向に向いているんだなということなのでしょう。限りある資源を守り、出来るだけ長く使って行こう、そうなるような世界にして行こうという意味合いがあると思います。
 ギター用材も同じです。毎年毎年、相当な数の新品ギターが造られています。その分だけ木材やその他の資源を消費しているということです。ギター用材が枯渇してきているということは、何十年も前からずっと言われていました。今こそ、ユーズドやヴィンテージやコンバージョンを見直す時期(時代)になって来ているのではないでしょうか?

 自分は新品のギターにまったく興味がありません。新品はどうしても湿った音に感じてしまうのです。(最近のAGED加工された新品では例外もあります。)ですので、ユーズドかヴィンテージばかり見ています。弾かれているギターと弾かれていないギターでは、鳴りや反応、音の抜けなどがかなり違います。また、新品でもセットアップがイマイチというのもありますし、ヴィンテージでもバッチリというのがあります。音も弾きやすさも、きちんとリペアしセットアップすることでベストな状態にすることができます。

 ユーズド、ヴィンテージ、コンバージョン、今こそ見直す時かも?です!

 拙い文章をお読みいただき、誠に有難うございます。皆様の感想、ご意見をお聞かせください。
 またアコギに関する相談等がございましたら、どんなことでもOKです。遠慮なくお尋ねください。
宛先 e-mail:mail@acogian.com または twitter(@acogibucho)にお願いします。

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