舌下免疫療法①(スギ花粉・ダニアレルギーの根本治療)

- 舌下免疫療法とは? 概要 -

5月10日より開院させていただき、まだまだ不慣れな点で来院された患者様にご不便をおかけしてしまっている状況ではありますが、日々改善させながら「こどもにやさしい」医療を展開していきたいと思っています。

さて、花粉の飛散期もおさまり、花粉症に悩まされてきた方々も少し楽になってきた今日この頃だと思います。6月から花粉症の根本治療である「舌下免疫療法」を当院でも開始致します。今回からはこの舌下免疫療法について記事にしていきたいと思います。

舌下免疫療法とはスギ花粉症(アレルギー性鼻炎)・ダニアレルギーの根本治療になります。
アレルギーの原因物質(アレルゲン)を少しずつ体に取り入れることにより、徐々に体をアレルゲンに慣らしていく治療のことを「減感作療法」と呼び、アレルゲンに対する免疫反応を根本的に抑え込み、治癒が期待できます。
減感作療法のうち、アレルゲンをアメのように舌の下で溶かして、少しずつ体に取り込んでいく治療を「舌下免疫療法」と呼びます。
他にも注射で行う治療もありますが、外来で患者さんの負担を少なくした治療ができるため、最近ではこの舌下免疫療法がよく行われるようになってきました。
治療が行えるのは「スギ」、「ダニ」に対するアレルギーのみで、残念ながらその他のアレルゲンに対する治療は行えません。

□ どのような治療か
舌下に薬剤を保持し、飲み込むという簡単な治療です。痛みがなく、重篤なアレルギー反応もほとんどありません。また、自宅で治療ができることが特徴になります。

□ 他の治療との違い
アレルギー性鼻炎(花粉症)の一般的な治療は、抗アレルギー薬を用いた薬物療法です。これはアレルゲンが原因となるくしゃみ、鼻水、目や皮膚のかゆみなどの症状を薬によって軽減する「対症療法」であり、アレルギーを根本的に治す治療ではありません。それに対して舌下免疫療法は、アレルゲンに体を徐々に慣らして体質改善を行い、根本的にアレルギー症状が起きない体を目指す治療になります。

□ 舌下免疫療法を行う前に行う検査など
スギ花粉症やダニアレルギーの診断確定のために、問診や特異的IgE検査、皮膚テスト、鼻汁好酸球検査などを行います。現在花粉症に対する舌下免疫療法が行えるのは「スギ」のみでその他ヒノキやブタクサなどによる花粉症の治療は行えません。当院では問診と特異的IgE検査(血液検査)を組み合わせて診断を行います。

□ 舌下免疫療法のやり方
シダキュア(スギ花粉舌下錠)やミティキュア(ダニ舌下錠)という薬品を、「1日1回1錠、舌下にて1分間保持した後、飲み込む」という簡単な治療法です。舌下に薬剤を保持できるお子さんであれば治療が可能で、5歳から治療を始めることができます。毎日自宅で行うため、治療や副反応に対する理解が重要となります。なお初回投与に関しましては必ずクリニック内で行い、アナフィラキシーが万が一起こった際の対応を早急にできるようにします。

□ 舌下免疫療法の効果について
舌下免疫療法は8割の方に効果があると報告されています。2割が治癒、残り6割が「治癒はしないが効果があった」、つまりスギ花粉症による睡眠障害やイライラ感、集中力の低下といった生活の質を改善させる効果が認められ、薬の使用量も減らすことができたという報告でした。小児に対する効果も成人と同等であるとされています。 舌下免疫療法を受けない人と比べて、今後別の花粉などに新たに感作される可能性が少なくなるという報告されています。

□ 舌下免疫療法を行うにあたっての注意点
アレルゲンを投与する治療なので、アレルギー反応を引き起こす可能性はあります。アナフィラキシーのような重篤な副反応は非常にまれでほとんど起こりません。一方で舌や口の中の腫れ、喉や耳のかゆみ、じんましん、下痢・嘔吐などの軽い副反応は高い確率ででます。特にはじめの1か月ほどは舌や口の中が腫れるような副反応を起こす方は多いですが、そのような症状は治療を続けているうちに自然に消失してきます。副反応は内服後30分以内、治療開始後1ヶ月以内、またスギ花粉が飛散している時期に起きやすいです。

□ 治療期間
治療期間は3~5年で、スギ花粉の飛散していない時期でも毎日行う必要があります。即効性は期待できず根気が必要な治療になります。また、効果が認められない方も2割程度いますので、この点は十分に理解した上で治療を開始することが重要です。

□ 治療の開始時期
スギ花粉が飛散している時期には治療を開始できません。この時期はスギ花粉に対する過敏性が高くなっており、副反応が起こりやすくなります。花粉非飛散期の6月から11月頃に治療を開始します。ダニアレルギーの治療は1年のうちいつでも開始することができますが、梅雨の季節や秋の時期はダニアレルギーが悪化することが多く、その季節は避けて治療を開始することが一般的です。

□ 効果が認められる時期
初めてのスギ花粉飛散シーズンから効果が期待でき、3~5年継続することで最大の効果が得られるとされています。治療終了後に再度症状が認められた場合は、舌下免疫療法を再開することで再び効果が期待できると言われています。

□ ダニによる通年性アレルギー性鼻炎と並行して治療の開始ができるか
スギ花粉以外にダニに対してもアレルギー性鼻炎がある方は、並行して治療が可能ですが、同時に治療は開始できません。まずはどちらかを開始して、症状が安定してからもう一方の治療を開始します。近年ではダニアレルギーに対し早期に治療介入することで喘息の発症を予防したり、喘息を軽症化することができるといった報告もあります。

□ 舌下免疫療法が勧められる方
・ 薬物療法(対症療法)で効果が不十分な方
・ 抗ヒスタミン剤などの副反応が強く(眠気など)、勉強や仕事に支障のある方
・ 少しでも薬を減らしたい方
・ 治療により生活の質の改善が期待される方
□ 舌下免疫療法を行う際に注意が必要な方
・ 喘息の方
・ 悪性腫瘍・自己免疫疾患・免疫不全などのある方
・ 重症心疾患・肺疾患・高血圧のある方
・ 薬を内服されている方(βブロッカー、三環系抗うつ薬、ステロイドなど)
□ 舌下免疫療法を受けられない方
・ シダキュアやミキティアでアナフィラキシーの既往のある方
・ 重症喘息の方
・ 妊婦の方
・ 5歳未満の小児

舌下免療法は、長期間に渡る治療で、根気がいる、副反応が起こりうる、必ずしも全ての人に効果がでるわけではないなどを十分に理解した上で治療を行うかを決める必要があります。一方で体質改善からの根本治療であり、約8割の方には効果が期待できる治療成績のよい治療であります。治療を継続する根気に関しては「習慣化」することが重要で、御両親も含めて「家族で一緒に治療する」などの工夫をすれば長く続けられることが多いです。食物アレルギーや喘息、アトピーなどを併発し、日々アレルギーに悩まされている患者様には是非行っていただきたい治療になります。

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