ウイルス迅速検査② - 算数を使って検査の仕組みを理解してみる -

- 算数を使って検査の仕組みを理解してみる -

前回、検査をするには意味のある目的がなければいけないという話をしました。今回は、いざ検査やった際にその検査の結果はどの程度の信憑性があるのか?の話をしていきます。
少し長い話になりますが、ゆっくり読んでみてください。

□ 感度と特異度
ウイルス迅速検査の精度を考える際、100%の確率で陽性・陰性を判定できる検査は存在しないもので、感度と特異度という言葉がでてきます。


感度:疾患ありのうち検査が陽性の割合
特異度:疾患なしのうち検査が陰性の割合


と定義されます。四分表で図示すると下のようになります。

図1

図2

ある疾患の可能性を除外したい場合は、感度の高い検査を使用し、ある疾患の可能性を高めたい場合は特異度の高い検査を使用します。

□ 検査前確率が重要
検査の感度特異度は、網の目の細かさで例えらることがあります。
「感度特異度が高い」=「網の目が細かい」

図3


水槽から網を使って金魚をすくうとき、網の目が細かい方がより多くの金魚がすくえそうです。簡単に想像ができます。

では、次の場合はどうでしょうか?

図4

左の水槽と右の水槽を比べた時、どちらのほうが多くの金魚がすくえるでしょうか?

右の水槽はどんなに細かな目の網を使ってもたくさんの金魚をすくうことはできなさそうです。そうです。金魚をたくさんすくうには、水槽に金魚がたくさんいること、網の目が細かいことが必要になります。
この金魚がどれくらいいるかという確率を「検査前確率」や「事前確率」といいます。
疾患の話にもどります。病気の人がいないところ(金魚のいないところ)で、いくら精度のよい(網の目の細かい)検査を行ってもその検査の結果は信用できません。
つまり、検査を行う前にどれだけその疾患をもっている可能性を高められるか(検査前確率を上げる)が検査結果の解釈にとても重要なことになり、検査前確率は、有病率・疫学情報・病歴・身体所見などを総合して高めます。

□ では本番!疾患の流行期と非流行期で具体的な数字を使って迅速検査について考えてみましょう。

対象患者:10万人
迅速検査の感度:70%、特異度:98%
流行期の有病率:50%
非流行期の有病率:0.1%
*有病率:集団のある一時点における疾病を有する数/集団の調査対象全員の数
*迅速検査の感度特異度はだいだいどの検査もこの程度です。

と仮定して考えてみます。

① 非流行期
まずはRSウイルス感染がまったく流行していない時期の迅速検査の意義を考えてみます。有病率0.1%で計算を進めます。
まずは、疾患のあるなしを表に埋めると下図のようになります。

有病率0.1%:100000×0.001=100(疾患ありの人数)

図5


さらに感度70%、特異度98%を当てはめると下図になります。

感度70%(疾患ありのうち検査が陽性の割合が70%):100×0.7=70                    

特異度98%(疾患なしのうち検査が陰性の割合が98%):99900×0.98=97902

図6


この表から
・陽性的中率(検査陽性の人のうち疾患ありの人の割合)
 70÷2068=0.03・・・ 「0.3%」
・陰性的中率(検査陰性の人のうち疾患なしの人割合)
 97902÷97932=0.99・・・「99.9%」
となります。陽性的中率0.3%・・・ 検査が陽性にでてもその疾患である可能性はこんなに低い値になります。非流行期にウイルス迅速検査を行うのはナンセンスなことがよくわかります。全く検査の意味がありません。

<非流行期>
・検査結果が陰性にでれば、よりその疾患である可能性は否定できる
・検査結果が陽性にでても、その疾患である可能性は0.3%しかない

② 流行期
次にRSウイルス感染が流行している時期の迅速検査の意義を考えてみます。
有病率50%で計算を進めます。
まずは、疾患のあるなしを前回と同じように表に埋めると下図のようになります。

図7


さらに感度70%、特異度98%を当てはめると下図になります。

図9


この表から
・陽性的中率(検査陽性の人のうち疾患ありの人の割合)
 35000÷36000=0.97・・・ 「97%」
・陰性的中率(検査陰性の人のうち疾患なしの人割合)
 49000÷64000=0.76・・・「76%」
となります。
陽性的中率97%は流行期には当然の結果です。診断をつけることに意味のある症例に対してはより確からしい診断に結びつけることができます。
陰性的中率76%・・・ 検査が陰性にでても正しく検査結果がでている人は76%であり、残りの24%の人は疾患ありでも検査が陰性にでてしまうことになります。これ、流行期にウイルス迅速検査を行って、明らかにRSウイルス感染症の症状があるにも関わらず検査結果が陰性にでた場合、検査結果を信用できますか?検査結果が「陰性」であっても症状からはRS感染である可能性が高いと考え「疾患あり」としてフォローする、検査結果の「陰性」をうのみにして「疾患なし」とする・・・検査結果だけしかみていないとわけのわからない診療マネージメントになりそうです。流行期における迅速検査の意義は診断をより確からしいものにしたい症例に対する確認検査にとどまります。検査陰性=疾患なしと早合点するのはとても危険ですね。ふと気づくと症状経過からその疾患(RSウイルス感染症)である可能性が高いと考えた場合、検査の陽性陰性結果にかかわらずRSウイルス感染として対応をします。診療マネージメントの変わらない症例については本当に検査の意義はほとんどないことがわかります。

<流行期>
・検査結果が陽性にでれば診断はより確からしいものになる
・一方で陰性の結果がでても24%の人は見逃している

上記の検査の仕組みと、その検査結果をもって診療マネージメントを患者さんのためによりよいものに変更することができるか?を十分に考えて検査は行わなくてはいけません。この考え方はここ1・2年世界を脅かせている新型コロナのPCR検査や、冬場に流行するインフルエンザの迅速検査にも同様に考えることができます。
インフルエンザに関しては、迅速検査と症状臨床経過のみからインフルエンザを診断した際の陽性陰性的中率を比較した研究が多々ありますが、流行期においては陽性陰性的中率ともに迅速検査と症状診断とで確率が変わらないことがわかっています。それならば患者さんに負担のかかる検査をやってもやらなくても診断の確率が変わらなければ検査はやらなくてよい、またさらにそこに診療マネージメントを変える要素がない場合はなおさらのことになるかと思います。

今回は少し専門用語、算数も交えながらウイルス迅速検査の仕組み、解釈の話をしました。少し複雑な話かもしれませんが、小さなお子様をお持ちのお父さんお母さんもしっかり理解しておいて損はありません。
返す返す大事なことは、

・どんな検査でも患者(こども)には負担がかかる。
・検査結果は100%信用できるものではない。
・検査には意味のある目的が必要である。
・ただ知りたいだけで行う検査には意味はない。
・目的とは診療マネージメントを変え患者さんによりよい医療を提供できるかである。

以上。

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