ウイルス迅速検査①

- 検査は何を目的に行うのか? -

こんばんは。全国的にもRSウイルスの感染が流行し、私のクリニック周辺の幼稚園・保育園のこども達もRSウイルス感染症で困っている方が大勢いましたがようやく少し落ち着いてきました。
受診されたこどもの親御さんからRSの迅速検査は行わないのですか?とよく聞かれることがありますが、私は重症化リスクのあるこどもにしか検査は行っていません。
なぜなのでしょう。今回からは順をおって、ウイルス迅速検査の検査結果をどう評価するべきなのか?そもそも診断ってなんのためにつけるのか?について記事にしていきたいと思います。

□ 検査の目的
血液検査(針をさす)や、ウイルス迅速検査検査(鼻やのどをゴリゴリぬぐう)、どの検査もやられるこどもに負担がかかる以上、検査をやるからには意味のある目的がなければいけません。
検査を行う目的は、


診断をより確からしいものにし、
・診断をつけることでマネージメント(治療法や経過観察の方法)が変わる


にあります。
例えば、基礎疾患のない幼稚園のこども達にRSウイルスの迅速検査を行い「陽性」の検査結果がでたとします。RSウイルス感染症には特効薬があるわけではなく自分の免疫の力で治っていくのを待つしかありません。重症化するリスクもほぼありませんから、一般小児外来では、無投薬・解熱剤のみ処方・あわせて鎮咳去痰剤を処方の治療法の選択となり、迅速検査を行わない場合と治療法が変わりません。
逆に3か月未満の乳児や、心不全を伴う先天性心疾患、先天性の気道呼吸器疾患などをもつこどもたちがRSウイルスの迅速検査で「陽性」がでたとします。この場合は、急速に呼吸障害が進行し、入院の上で酸素投与や場合によっては人工呼吸サポートを要する事態になることがあるので、一般小児外来では綿密な経過観察・呼吸状態のフォローを行います。重症化した場合には時期を逸せず2次・3次医療機関に繋げるような経過観察方法がとれますので、検査を行う意味が十分にあります。
なので、マネージメントが変わらない患者さんには“負担をかけてまで検査を行う必要はありませんし、検査結果によりマネージメントが変わる患者さんには“負担をかけても”検査をする意味があります。

当たり前のことですね。

□ 所かわれば検査の目的は変わることもある
上記は一般小児外来を行っているクリニックの立場での検査目的になりますが、所が変われば検査の目的も少し変わる場合があります。

例えば、私が以前働いていたこども病院の小児集中治療室(PICU)ではRSウイルスなどのウイルス迅速検査はバンバン行っていました。PICUに入室してくるこども達は重度の呼吸障害があり人工呼吸サポートを受けなければ呼吸が成り立ちません。約1週間前後の人工呼吸サポートを受けることになりますが、RSウイルスの診断がついていることで、クリニカルコースを先読みできる・それに合わせた呼吸サポート条件の変更ができる・結果として少しでも早期に人工呼吸サポートの離脱を試みることができるといったメリットを得ることができます。RSウイルスに特効薬があるわけではありませんが、こういった重症例には診断をつけることで治療期間の短縮や治療に伴う合併症の軽減を図ることができます。

では、一般病棟での入院症例ではどうでしょうか?
診断をつけておく意味は十分にあります。入院を要している以上、こどもは呼吸障害や経口摂取不良など何かしらも問題を抱えています。診断をつけておくことで、重症化の先読みができますし、また入院病棟にはその他疾患のこども達がいるわけなので病棟全体の感染防御の面でも情報としては役立ちます。

次に医療機関ではない幼稚園や保育園、学校の立場から考えるとどうでしょうか?
結論から言うとウイルス迅速検査で診断をつけることに大きな意味はありません。診断がつけばRSウイルス感染が流行していますのでみなさん気をつけましょうというアナウンスをなんとなく行うことはできます。アデノウイルス感染や手足口病、ヘルパンギーナなども同様です。しかし、集団生活の中での感冒の原因となるこれらのウイルスの予防策はみな同じで「接触・飛沫感染対策」だけです。つまり手洗い・アルコール手指衛生・マスク・うがいです。やることが何も変わりません。普段からの接触・飛沫感染対策の精度をあげておくことの方がはるかに重要な事項になります。


ウイルス迅速検査の目的について記事しました。親御さん・教育機関・医療機関、種々の立場で検査の目的は変わることもありますが、忘れてはいけないことは、中心にいるのはこども(患者)です。患者に負担のかかる検査を行う以上は意味のある目的をもたなければいけません。皆が各々の立場でリテラシーをきちんと持ってこどもたちをみていける医療が展開されることを切に願います。

次回は、ウイルス迅速検査をどう評価するか?検査は100%ではない。感度・特異度・検査前確率・陽性的中率と陰性的中率(流行期と非流行期)など少し専門的な話を交えながら解説し、やっぱり検査って意味のある目的をもってやらなければいけないことの裏付けをします。

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