コロナ前と以降でちょっと危惧している感覚の麻痺

昨日、ミュージカル「えんとつ町のプペル」の運営、キャスト、バンド、裏方チーム全員が居るグループラインに「チケットが完売しました!」という報告が入ってきました。

「やったね!」と喜んでいたのも束の間、一転して今日このようなアナウンスが流れたわけですが… (なかなかの長文なのに画像内のテキストが小さくて見にくいったらありゃしない)


まあ読むのめんどくさい人のために端的に要点だけピックアップすると…

・制度によって無料で子供達を招待できるという補助金の申請をしているので、招待分の枚数のチケットは一旦運営側でプールしている

・なので公演総席数のチケット枚数からその無料招待分のチケット枚数を引き算した分が今売り出している純粋なチケット枚数

・それが全部売れたので「完売」と打ち出した

・しかしながらその補助金制度の申請の可否がまだ通っていない

・なので「補助金おりません残念でした」とお国から言われてしまうと招待分のチケットがいきなり復活することになる(実際かなりの数です)。

・その間(今のこの瞬間も)、チケットの発売はストップせざるをえない

・申請が通ったところでそれだけの人数の子供達をどうやって集めるのか

・通らなかったら一気にチケットの売れ残りが発生するのでまた売るのに必死にならないといけないけど、そもそも申請の結果はいつ出るのか

…..

挙げればキリがないのでこれくらいにしておきますが。


今回、僕が書きたいことはこのプロデューサーの件を掘り下げたり責めたり嘆いたりということではなくて…(まあ僕も人なので「まじかよ」とは思ってはしまいましたが)

コロナ禍に突入してからの舞台(音楽ライブも含む)を作る人たちの「補助金制度」というものが現れたことに対する麻痺への危惧です。

今回のミュージカルの件は僕としては「完売」と聞いてた裏でそういう事情があったことは全く認識していなかったので「マジか」という驚きはあったものの、そもそもこういった事例はこの2年半、僕の業界周りでもたくさん見てきたので、その点については特に驚きがなかったのも事実です。

事実、僕の周りでもコロナ禍以降「補助金ありき」で公演を打つ人は全然珍しくなく、むしろほとんどの人たちがそうかもしれません。

フリーランスや個人事業主に対してコロナ禍以降突如としてスタンダードになった国からの「補助金」システムは確かに大変ありがたく、一斉にみなさんがそこに飛び付きました。

まあ飛び付いたという言い方はちょっと語弊があるかもしれませんが、それでも飛び付いたと言わせていただきます。

というのも、それまでは自分たちのお金で会場を借りて運営経費を払うのが当然でそのためにチケットやグッズを頑張って売ったりしてきたわけです。

それがあるタイミングから急に「ライブするならお金出してあげるよ」という鶴の一声が聞こえてきた。

ちょっと乱暴な言い方かもしれませんが、制度としてはノーリスクで大きな公演を打てるようになりました。

この2年半、僕がずっと危惧し続けているのはそこです。

なんかマヒしちゃってないかなみんな…って思うことが多かったのも事実です。

調べたらすぐ分かることなんで濁してもしょうがないんですが、2千万だの3千万だのというお金がお国から降りてきます。
(全て経費として健全に使い切るという前提です)


今日はアトリエ限定なので、僕がこの2年半の中で実際に本当に危惧していることが少しばかり分かってもらえそうな実例をお話すると…
(多少生々しいですが分かりやすいと思うので)



クライアント「今回のギャラは○○円はお支払いできそうです」
※普段のギャラの倍以上の提示

西村「(戸惑いながら)え...なんでそんな急に増えたんですか?」

クライアント「補助金が降りるので多めにお渡しできそうです」

西村「….補助金が降りなかったらどうなるんですか?」

クライアント「…..降りると思うんですけど」

西村「それでもし、もし申請通らなかったとしても同じ額約束できます?(僕の意図はお金が欲しいとかではなく責任感の確認です)」

クライアント「……頑張ります!」

西村「どうやって?」

クライアント「…..まあ補助金が」

(以下「もし通らなかったら」からループ)



みたいなニュアンスのやり取りが、コロナ禍以降一気に増えた現実があります。

そもそも公演のために補助金を申請するということ自体は、コロナ禍におけるエンターテイメントの世界を窮地から救うためのひとつのシステムで、そのルールに則って皆さん公演を打ってるわけですから、当然のことながら全くもって真っ当です。

僕が危惧し続けてきたのは、今回のミュージカルの件もそうですし先ほどのやり取りの一例もそうなんですが「通らなかった時にどうするの?」っていうリスクヘッジを考えてない(考えきれてない)人があまりにも多いっていう部分でして。

そりゃあ「2千万円支援しますから好きにライブやっちゃってください!」と言われたら大会場借りてとんでもない照明入れたり山ほどミュージシャンとかオーケストラとかそんなん呼んで、今までできなかったようなライブとかできるわけですけど、僕(たち)はやりませんでした(バンドね)。

それは補助金に頼ることがどういうという話ではなくて(むしろ制度なんだから堂々と申請すればいい)、それだけ息巻いて大会場とかミュージシャンとかオーケストラにお声がけしたりとんでもない照明のレンタル契約とか済ませたのちに「申請通りませんでした。自腹でお願いします」となった時にどう考えても死んでしまうからです。

もしかしたら今これを読みながら「え…そんなのリスク考えることくらい当たり前じゃないの?」と思ってる方もいらっしゃるかもしれませんが、実際のところはそのリスクをまったくといっていいほど考えずに周りを巻き込んで「補助金通るありき」で経費をかけまくっている人が一定数いらっしゃるのが現実です。

なので「飛び付いた」という表現をさせてもらいました。


ちなみにリスクヘッジもしっかり考えたうえで補助金申請してらっしゃる方もちゃんといらっしゃるので、決して総まとめにしている話ではないので誤解なきようお願いします。

「補助金申請」は前提として「通らなかった場合のリスクヘッジを考えたうえで申請してる派」と「通る前提で全ての話を進めてる派」が居て、正直に言うと後者の感覚が僕は全くもって理解できないので、静かに少しずつそういう感覚の現場からは足を抜いてきたんですね(笑)

なので、今回ミュージカル「えんとつ町のプペル」のリーダーが補助金通らなかった場合のリスクヘッジをあまり考えてなさそう感満載のこの現実を知って、ちょっと面食らってしまったのは事実でして。

まさかずっと自分が危惧してきたコロナ前と今での感覚の麻痺がここでも発揮されてしまうとは思いもしなかったので。

もしかしたら…

一旦、自分の中でもちゃんと気持ちを整理して改めてクリエイティブに全力を注ぐというひとつのマークポイントが欲しかったのかもしれません。
(書いてるうちにだんだん熱くなって、ここまで書くつもりなかったのにってことを書いてしまっている自分に気付いた今です)

最初のほうにも言いましたが、今回のことをやり玉に挙げてオンリーワン的に腐す気持ちは本当に本当になくて、やっぱり自分の周りだけに限らずエンタメ界全体として感覚が麻痺してるんじゃないかっていう危惧に拍車がかかってしまったという感じです。

まあ過ぎ去っていった事例は今さらどうこう言ってもしょうがないので、今はこのミュージカルの補助金ならびにリスクヘッジ面がこの先どうなっていくのかということが大事なんですが、どう考えても僕が気をとられることではなく、僕は昨日までと変わらず目の前の音にひたむきに、バンドをまとめ、演出陣とぶつかり合い、作品のクオリティを最高のものに高めていくという一点のみです。


「人事を尽くして天命を待つ」

めちゃくちゃ使い古された格言だと思いますが、昔の人ってすごいですね。
本当その通りだよねって思います。

ちょっと湿っぽい文章になってたら申し訳ないですが、たまにこういうゴリゴリ中のゴリゴリ話を書ける場所だったりも僕にとってはしますのでこのアトリエが。(倒置法)

さて、稽古に行ってきます(今日はゆったり出勤なのです)。


「最後に笑おう」

これです。

ではまた。

西村


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