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童謡『故郷(ふるさと)』を弾き続ける意義を改めて文字起こし

今年の春先以降、ソロライブの最後に「ふるさと」を持ってきたステージが何度かあります。そしてその曲に行く前に毎回決まって同じ話をしています。

そのライブに居合わせていただいた方はよくご存知の話かもしれませんし、もう何度も同じ話を聞いた方もいらっしゃるかと思います。

そしてこれからも最後に『ふるさと』を弾く場合は同じ話を必ずし続けると思います。

ですが、皆が皆ライブに居合わせてくれるわけでもないので、改めてここにある意味でのMCの文字起こし的なスタンスで書いておこうと思います。
自分の中でしっかり刻み込んでおく事と、誰かしらがいつでもキャッチできるように。

時間に限りがあるライブのMCと違って文章を書く時間にそんなシビアな制限はないので、せっかくならもうちょっと加筆したりしながら。

というわけで『ふるさと』という曲がすっかり自分の中で唯一無二の特別な曲になった2024年。
自分が人前でピアノを弾き続ける限りは大切に演奏し続けたい一曲。
(う〜さ〜ぎ〜お〜いし〜ってやつね)

おらが故郷の石川県七尾市では毎日12時と17時(夏季は18時)の2回、市中にチャイムが響き渡ります。

12時のチャイムは曲名は知りませんが子供の頃からずっと同じ曲が流れてて、思い起こせば授業中にそのチャイムが聴こえてきたら「あ〜そろそろ給食の時間だ」なんて思ってたもんです。

で、17時に流れるのが『ふるさと』です。
(もちろんインストゥルメンタルでね)

七尾に暮らす人たちは毎日この『ふるさと』を必ず耳にしていて、それが聞こえたら公園だったり路地だったりで遊んでる子どもたちは「そろそろ家に帰らなきゃ」って感じのスイッチが入ります。

片や家事を切り盛りしているお母さん(お父さんの場合もある)は「そろそろ晩御飯の準備しなきゃ〜」みたいなスイッチが入るのかと思います。

なんせ毎日ハッキリと聴こえてくる音楽ですから、その17時の『ふるさと』を聴いて「もうそんな時間か」とか「帰らなきゃ」みたいな風習は骨の髄まで染み付いています。

あまりにも日常の音楽なので、耳には入ってくるものの特に気にも留めてない当たり前の音楽だった『ふるさと』という曲。

それが今年の1月1日は流れませんでした。

いや…ちゃんと確認は取ってないので"流れた気がしていない"っていう言い方に訂正します。もしかしたら自動で流れてたのかもしれないけど、耳に入ってこなかっただけかもなので。
(いやでも絶対流れてないと思うけど)

長く七尾というところに居て、記憶の限りでは初めて『ふるさと』を17時に聴かなかった日です。

なんせ震災が起きたのは16時10分です。

その日の夕方、市役所から鳴り続けたのは『ふるさと』ではなく、実に無機質で怖い「地震です」の声とサイレンの音です。

震度4~5クラスの地震が数時間もの間ひっきりなしにやって来るので当然です。

その時は「ふるさと聴けなかった云々」なんて事は別に考えてませんし、曲に対しての感慨深さも別になかったんですが、その気持ちがググッと湧いたのが、避難所で『ふるさと』を聴いた時です。

あれが2日だったのか3日だったのかちょっと忘れましたけど、なんせ避難している小学校で市役所から『ふるさと』が流れてきた時に、もうどう表現したらいいか分からないなんとも言えない気持ちになったのです。

今までまったく気にも留めてなかった、当たり前のように17時に垂れ流れてくる音楽がとてもとても愛しかったのです。

夏休みの時とかは『ふるさと』の音楽と共に「よい子はおうちに帰りましょう」みたいなアナウンスも添えられていた記憶があります。
子どもにとっては一日の終わりの合図のような音楽です。

大人になって初めて母校の小学校で暮らしながら聴きました。

この市役所からのチャイム『ふるさと』を当たり前のように聴けるという尊さに感謝しました。そして地震警報の連発じゃなくていつものように『ふるさと』が流れる時間に多少心が落ち着きました。

気付けば七尾に居た時間を離れてからの時間が追い越しました。

文字通り故郷の七尾で、今まであんまり気にした事なかったけど今回の事で改めて思い知ったというか気付いたというか…

魚が美味いとか食祭市場はいいぞとか和倉温泉最高だよとか、そういう部分で故郷アピールをいろんな人にしてきましたが、それはそれとして僕にとっての一番の地元感は「17時に『ふるさと』が聴こえてくる」という部分なのでした。

それは1日だけその当たり前を失ったあとに聴こえてきて初めて実感した部分で。

途端にこの『ふるさと』という曲がたまらなく愛おしくなり、とても大切な曲になりました。
幼稚園の頃から知ってて何十年も特に好きでも嫌いでもない曲だったのに。

そんな事を思ったのでその数日後の音楽室での演奏の時も最後にふるさとを弾きました(その時もまったく同じ話をした気がします)。

当然ながら地元民の集まりであるその場はみんな同じ気持ちで、改めてこの『ふるさと』という曲の素晴らしさを、市役所から日常的に流れてくる尊さをみんなで実感したのでした。
(ドキュメンタリーでもその辺りを切り取っていただいてました)

だから僕はこの曲を弾き続けていこうと思ったのです。
背景込みで。

ですがいきなり童謡『ふるさと』を弾き始めても経緯を知らなかったら「なんでや」とか、もしかしたら「ネタかな?」とすら思われかねないので、毎回丁寧にこの話はある程度掻い摘んで最初にしとかないといかんのです。

元来、ミュージシャンが曲を演る前に「今から演る曲はですね〜」って感じで曲説明みたいなのをタラタラする時間が僕は全然好きじゃないんですが(僕はね)、ちょっとこの曲に関してはそうもいかんので、これからも今日書き起こした話をしつこくしつこくし続けていくと思いますが、どうか込みで「一曲」と捉えていただいて、お耳をいただければと思います。

その日のライブ終わりのエンドSEみたいなものです。もはや。

以上、僕が童謡『ふるさと』に拘るワケでした。
読んでいただいてありがとうございます。



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