人間とAIの共存のとってもとっても良い形を目にした昨日

度々書いているんですが当方十数年ほど将棋ファンをやっているので、AIという存在の認識とそのリテラシーに関してはかなり早い段階から高かった自負があるんです。

なのでここ数年の絵や音楽のクリエイティブ、はたまたチャットGPTの台頭も「まあそうなりますよね」という感じ。
(この話が結果論の後付けじゃないことは電王戦のponanzaの脅威を知ってる将棋ファンなら絶対に絶対に分かるはず)

将棋界で「AIにはどう抗っても勝てないからとっととAIを先生にしよう」という風潮が始まったのが4、5年前。

「ソフトなんかに…」と頑なにAIを認めなかった棋士たち(ほとんどが50代以上のベテラン勢)はそれまでに比べて嘘みたいに勝てなくなり、割り切ってAIを自分の教材、トレーニング相手に切り替えた若手棋士たちが一気にのし上がりました(棋士レーティングのTOP20くらいがものの1年で一気に入れ替わった)。

そしてそのAIをひたすら駆使して子供の頃から将棋を勉強してきたのが、AIの申し子「藤井聡太」先生です。

自分たちが長年かけて築き上げてきたものが一瞬で崩されたベテラン勢、築き上げてる途中でAIが現れたのでシフトチェンジした若手棋士、最初からAIと共に築いてきた藤井聡太(世代)といった縮図。

とにかく将棋はAIの示す指手通りに指せば勝てる競技になりました。

AIが秒で数億通りの手を読んで、最善手・次善手・緩手・疑問手…といった感じで推奨の手を出します。

将棋というものはAIによって「正解」を出されてしまったので、観てる側としては「AI通り指せるか?それともミスるのか?」という楽しみ方にすっかり変わってしまいました。

そんなわけで将棋界でAIは戦う相手ではなくて、共存する相手であるという一定の答えが出ました(大事なのは共存と最初に公の場で発言したのは、さすがの羽生善治先生です)。

もう5年ほど前の話です。

この話を踏まえて…
昨日ちょっととんでもないことが起こりました。

「叡王戦」というタイトル戦があるんですが、昨日はその叡王戦五番勝負の第四局が行われたんですね。

タイトルホルダーではる叡王はやはり藤井聡太先生(以下藤井叡王)。
挑戦者は菅井八段でした。

で、さすがの藤井叡王。
このまま順当に指し進めれば勝ちという形で終盤を迎えます。

その段階でAIの評価値は93-7で藤井叡王。
これが99-1になったら「詰み」があるという状態。
(詰みを逃さない限り絶対に勝てないという形です)

93-7の時点で絶体絶命。
現状に詰みはないものの、もうほどなくしたら(間違えずに数手進めば)詰むよというカウントダウン状態です。

そしてAIの申し子、藤井叡王はここで絶対に間違えません。
(そこが圧倒的な強さの秘訣です)

しかし事件が起きます。

あろうことか藤井叡王はAIが示す手の上から5選にすら入ってない手を指したんです。

AIがはじき出した最善手や次善手はおろか、緩手(その手ちょっとぬるいっすよって手)や疑問手(それ…ちょっとやばくない?みたいな手)にすら入ってない手。

生中継を見てた視聴者や現地の関係者たちも「あーやっちまったーーー!!!」といった感じ。

藤井叡王にあるまじき大ポカが発生したと、大事件です。
(まあだからこそ人間と人間の戦いはおもしろい)

当然、AIはお怒りモード。
藤井叡王の評価値は一気に暴落します。

AIの声としては「なんじゃその手。はいダメ、菅井八段が一気に有利になりました〜」って感じです。

しかしその数秒後…

AI「ごめん、22手詰めで藤井叡王の勝ち!」という画面に切り替わります。すなわち逆転どころか93-7を99-1にダメ押す一手だったということ。

この状況をまとめると…

AIが数億パターンの中から示した上位5選の手をどれも指さずに、まったくAIにかすってない手を指した。

それに対してAIは当然「それはダメ」と判断したのに数秒ぐるぐる考えて「ごめん、やっぱり君の通りだったわ」と指されてから訂正した。

すなわち間違いなくその瞬間だけは藤井叡王はAIを超えたわけです。

AIとずっと共存しながら学んできた結果、AIが一瞬テンパっちゃうほどの手を人間が指した。

これはとても大切なことで。
これこそが究極のAIとの共存ポイントなんじゃないかなぁ...と思ったわけです。

AIのクリエイティブが人間を超えるのはもう既定路線なわけで、だからこそAIを貪欲に取り入れてAIの発想をたくさん吸収して自分のクリエイティブ脳をどんどん鍛えていくうちに…もしかしたらAIでも生み出せない発想が生まれる可能性はあるよなぁと。

置き換えてみたらね。

昨日の藤井叡王の一手にそんなことを垣間見ました。

ただ、だからって藤井叡王がAIより強いということにはならないのがおもしろいところ。

なぜなら昨日の藤井叡王の一手をAIは学習したわけだから、またそれを取り入れて自動学習で強くなるという感じ。

この相乗効果もまた共存ポイントなんだと思います。

いや〜おもしろい。

AI分野に関しては将棋界が断トツで早かったので、既にプロの世界で藤井聡太という存在が他を蹴散らしていますが、他分野でも数年後にはAIの申し子的な存在が現れ始めるんでしょうね。

ちなみに50歳を過ぎてる羽生さん。
他の同世代棋士が軒並みAI世代にボコられている中、AIとの共存に踏み切って未だにトップ棋士としてタイトル戦に出たりしています(マジで異常)。

僕も未来のAIの申し子音楽クリエイターとそんな感じで競えたら楽しいだろうなぁと思うから、羽生さんのそのあくなき探究心、いくつになっても将棋少年のままの貪欲な姿勢を引き続き見習いたいと思います。

結局何が言いたいかって…
羽生さんやっぱすごいねって話。

以上です。



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