ネオサイタマ百物語 #赤い部屋 【ニンジャスレイヤー二次創作】

都市伝説『赤い部屋』より

 とある男が、ネオサイタマ某所の支部に転属が決まり、マンションを借りることになりました。
 生活を続けるうち、彼は部屋に小さな穴があることに気がつきます。
 それは隣室との境となる壁に空いていて、彼は好奇心から、その穴を覗き込んでみました。すると、穴の向こうは真っ赤でした。
 
 奇妙な部屋だなと、彼は不気味な直感を覚えました。次の日も、また次の日も、彼は興味に誘われるままに、小さな穴を覗き続けました。穴の向こうは、いつでも真っ赤でした。
 
 ある日彼は、マンションの大家さんに聞いてみました。
「私の隣の部屋には、どういう人が住んでいるんですか?」
 大家さんは答えました。
「どうと言われても、別に特徴的なところのない、物腰柔らかな、サラリマン風の男性ですよ」
 大家さんは続けます。
「ああ、でも一つだけ。そういえば、真っ赤な目が印象的でした」


 「......ハアーッ!ハアーッ!」

 荒げた息を整えることすらままならない恐怖と焦燥の中、しかし静謐に、彼は自室をクリアリングした。彼の名はオブザーブド、非合法組織に属する邪悪なるニンジャだ。末端に過ぎぬ彼ですら、その『ウワサ』には聞き覚えがあった。

 それは、ネオサイタマの暗黒が映す、無数の都市伝説の一つ。赤い眼の男。闇に潜む猟犬。黄泉返りの悪鬼。ニンジャを殺す、ニンジャ。だが。
「死んだとばかりッ......!」

 オブザーブドは狭いワンルームの全ての開口部を、厳重にロックした。ベルトから引き抜いたクナイ・ダートを握りこむ。ひやりとした感触が指先に伝わった。止まらぬ手汗が、その表面を滑らせる。

 彼は努めて平静を保ち、いつものように壁の穴へと対した。気取られぬように。そして、慎重に、穴を覗き込んだ。
 
 穴の向こうには、同じ間取りの部屋が広がっていた。
「いない、のか......?」
 緊張の糸が切れ、彼は息を吐く。興奮状態のニューロンが幾分か冷却され、思考が戻ってくる。

 逃げるのであればここだ。今なら死神はいない。部屋は空っぽだ。いつもは、必ず赤かったのに。そうだ、いつもは。では、なぜ?

 再び、ニンジャ第六感がざわつき始める。彼は右頬に当たる、生ぬるい空気の流れを感じた。目線だけを移す。扉の錠前まわりが、溶けたように焼き切られている。彼はゆっくりと、部屋の中央へと振り返った。
 
 チャブの向こう側に、男の影が座り込んでいた。ジェットブラックの装束が、カーテン越しの曖昧な光に、滲むように溶け込んでいる。その顔は判然としないが、深紅の双眸だけは、はっきりと、薄闇の中に浮かび上がっていた。

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