青崎有吾・著『早朝始発の殺風景』の感想
第一話『早朝始発の殺風景』
早朝の始発電車(正しくは初電だろう)、その7両目の中で偶然居合わせた主人公と、クラスメイトの女子『殺風景(さっぷうけい)』さん――なんと名前である。
名は体を表すこの殺風景さんが主人公に対して会話の中で興味を持ち、あるいは持たせ、お互い早朝の始発で何処へ行って何をするのか――その事情を推理しあって当てに行くお話。
最後の1行で「この作者うまいな」って思った。
第二話『メロンソーダ・ファクトリー』
ファミレスの中、文化祭を前にした三人がクラスTシャツのデザインについて、ドリンクバーとスイーツを愉しみながら「AとB、どれにしようか」と話し合っている。しかし、意見は「A案」「B案」「保留」とばらけてしまう。
A案をデザインした子は「A案」。
いつもメロンソーダを飲む子は「B案――Aはちょっとわかりにくい」と。
わかりにくいことがわかった子は、ここで「保留」を選ぶ。
会話の中での違和感と、いつも飲むメロンソーダからひとつの謎を明らかにし、さらなる案を導き出すお話。
第三話『夢の国には観覧車がない』
高校部活の引退追い出しコンパで遊園地に遊びに来たものの、なぜか先輩後輩、男同士で狭い観覧車にふたり乗る状況。先輩は初恋の君と乗りたかったが、この追いコンの幹事である後輩は手練手管を使い、この状況へと持ち込んだ。
後輩曰く「どうしても観覧車に乗りたかった」――それは何故かを探っていくお話。
浦安の夢の国には、園内から絶対に外の世界の物は見えないようにするデザインがされている。だから高いところから遠くまで見えたり、バックヤードが見下ろせる可能性のある観覧車はない。近所のそれなりの遊園地でなければならないと。
夢を夢のまま終わらせる夢の国と、現実に返す観覧車。
そこからあるひとつの謎が明らかになる……というお話。
第四話『捨て猫と兄弟喧嘩』
離婚した両親のもとに、それぞれ付いていった兄と妹。妹が公園で捨て猫を拾ってしまい、飼い主を見つけようとするも困り果てて兄を呼ぶところから始まる。
妹は兄に猫を飼うことを頼むが、兄はいい返事をしない。その説得と譲歩の中で、とある秘密に気が付いてしまう……というお話。
第五話『三月四日、午後二時半の密室』
卒業式当日に病欠した子へ、お見舞いを兼ねて卒業証書を届けに行く委員長。病気の子は「ポストに入れといて」とインターホンで伝えるが、卒業証書は入りきらない。そこで委員長はお見舞いの品もあるからと面会を望み、病気の子は渋々と了解する――が、ここから謎が生まれる。
指示された部屋に行き、さらに指示され施錠した室内で雑談をするうちに、さまざまな違和感からその謎の正体にたどりついたとき、ああなるほどなといった解決が提示される。
エピローグ
多くは語らないが、表題作『早朝始発の殺風景』の後日談である。
以下、感想注意。
表題作のエピローグに、各話のキャラがゲスト出演してその後が語られる。
全体的に上手くて1冊にまとめやすかったのもあるのだろうが、表題作の解決のヒントが各話にちりばめられていたらもの凄い名作になってた気はする。だが、それだと各話の繋がりがなければ単話自体の価値が……? ん~、難しい。
しかしあっさりといろいろ解決してるようなので、全てまあるく収まっている秀作だと思います。面白かった。
いいなあ、青春。
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