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〜音楽で伏線を張る〜 ブレイブリーデフォルトサウンドトラック


「ブレイブリーデフォルト」というゲーム


「ブレイブリーデフォルト フライングフェアリー」は、2012年にスクウェア・エニックスより発売されたニンテンドー3DS用ロールプレイングゲームです。90年代のファイナルファンタジーシリーズをベースとしたバトルシーンや魔法、ジョブチェンジシステムなど、RPG好きにはたまらない要素がてんこ盛りの作品となっています。

モンクの「点穴」という技が好きでよく使っていました

特筆すべきはそのバトルシステム。ポイントを消費しターンを前借りできる「ブレイブ」と、防御しつつポイントを貯める「デフォルト」。これら2つの行動を組み合わせて、バトルを有利に進めていけるのがこのゲームの醍醐味です。

画像はフォーザシークウェルのものです
ポイントを消費して、1人で3~4回行動、なんて芸当も可能

この「ブレイブリーデフォルト」ならびにその音楽は私の中でも「ファイナルファンタジー6」に次ぐ伝説的作品のうちのひとつであり、音楽を観察・分析することの楽しさを教えてくれた作品でもあります。このサウンドトラックは全体を通してメロディやコード進行の引用・共有があちこちで見受けられ、またそれらを語るのに多くの材料が必要となるので、記事をシリーズ化し、いくつかに分けて投稿しようと思っています。

今回はそのうちから1つ、「クリスタルの精霊エアリーの目論み」をテーマに話を進めていきます。


「エアリー」って誰?

音楽の話をする前に、まずはゲームに登場する主要キャラクターと、ストーリーの概要を簡単に説明しましょう。
「ブレイブリーデフォルト」における主人公は以下の4人です。

ティズ・オーリア
羊飼いの青年。故郷である「ノルエンデ村」が突如として現れた大穴に飲み込まれ、自分一人を残して壊滅。弟ティルを亡くし悲しみと絶望の中で、風の巫女アニエスと出会う。

アニエス・オブリージュ
風のクリスタルに仕える巫女。大穴の前でクリスタルの精霊エアリーと出会い、世界に4つあるクリスタルから闇を払うべく旅を始める。

リングアベル
記憶喪失の青年。未来の出来事が予言されている「Dの手帳」を所持し、そこに彼らの名が記されていたことから、2人に同行するようになる。

イデア・リー
エタルニア公国元帥の一人娘。公国の、クリスタルの巫女を捕えようとする強引なやり方に反発し、彼らと行動を共にする。

個性的なキャラクターたち

エアリー」は、うち2人目の主人公「アニエス」に付くクリスタルの精霊です。

「Dの手帳」には事細かな記述がびっしりと書いてあります

大穴が空いてからというもの、クリスタルからは闇が溢れ、風は止んで海は腐り、火山が噴火し地殻変動が起こる。世界中で異変が起き始め、4人はエアリーの導きのもとに、世界を元に戻すためにクリスタルを解放しようと旅に出ることになります。物語の中心となるのは、「世界に平和をもたらすために、各地に点在するクリスタルを浄化・解放していく」こと。









※以下、ストーリーの重大なネタバレを含みます。























クリスタルの解放…?

いきなりですが、ストーリーの根幹部分へ切り込んでしまいましょう。冒頭に色々書きましたが、物語中、以上で説明した「クリスタルを浄化・解放する」ことで、世界へ平和をもたらすことはできませんでした。それどころか、主人公たちの手によって、さらなる悲劇を招いていたことが明らかになります。


4つのクリスタルを解放すると、海上に光の柱が立ち上る。これで闇を浄化できると言うエアリーに従い4人はそこへ突入を試みるが、目を開けるとそこは物語の初めにいた宿屋。また世界は元に戻っていなかった

ティズたちはその後もクリスタルを解放しては光の柱へ突入を繰り返すが、何度やっても世界が変化する様子はない。やがて4人は繰り返す世界、様々な人たちの話を聞いていく中で徐々に真相に近づいていく

繰り返す世界で、リングアベルは徐々に記憶を取り戻していく

その光の柱、通称「ホーリーピラー」が、ティズ達が生きる世界とは別の「平行世界」へ穴を空けてしまう原因だと判明する。オープニングでノルエンデ村が壊滅したのはこのためだった

そしてエアリーは、こうして幾度も世界を連結することで邪神復活を目論んでいた


物語中、それまで主人公たちを導いてきたエアリーはクリスタルの精霊などではありませんでした。初めからアニエスを欺き、「クリスタルの解放」と称して世界の境界を貫くように誘導していた、邪神の僕だったのです。

パッケージにでかでかと映っているくせに、悪者だったんですね


ようやく真実に辿り着いた一行。物語は最終局面へ向かい、私たちは以下2つの選択肢のうち、どちらかへ進むことになります。

エアリーの制止を無視し、祈りを込め続けることでクリスタルを破壊する

そのままクリスタルを解放し続け、エアリーの目論見通り事を進める

ゲーム上では前者が「通常エンディングルート」、後者が「真のエンディングルート」という位置付けで、それぞれ行動を取ると物語が分岐する仕組みです。


エアリーとの死闘、「邪悪なる〇〇」シリーズ


そして主人公たちは物語終盤、本性を曝け出したエアリーと対峙し、決戦に臨むことになります。このサウンドトラックでは「邪悪なるもの」「邪悪なる戦い」「邪悪なる飛翔」と、エアリーのバトル曲が3つもあります。その全てにおいて共通して使われている、ある特徴的なメロディがあります。

シ〜ファ#ラッファ#

今回はこれを「エアリーのモチーフ」と呼ぶことにします。

※以下、真のエンディングルートを前提とした内容で話を進めていきます。


邪悪なるもの[Disc2-14]

まさか妖精から太った芋虫になるとは…

なんともおどろおどろしい芋虫エアリーとのバトル曲です。
(通常エンディングルートでは負けイベントを挟む関係で、エアリーの形態と曲との関係が合わなくなります)

「邪悪なるもの」では前半と後半、2箇所でエアリーのモチーフが使われています。

1つ目は序盤の高音部。聞き取りづらいかもしれませんが、エレクトリックピアノのような音色が、物静かに淡々とモチーフを発しているのが分かります。

0:02~0:44 それとなく、しかし確実にそこにいる

対して2つ目は単純明快。続く7拍子へと変わるセクション、皆でユニゾンしている所ですね。ハモンドオルガンも混ざったそのサウンドはとても気色が悪く、4人を嘲笑うかのように躍動しています。

0:45~0:54 どこを取っても絶妙に気持ち悪い(褒め言葉)

またこの曲はモチーフについてだけでなく、ベースとバッキングギターによる悪魔的なリフ、その上でネジが外れたように暴れ狂うリードギター、気づいたら変わっている拍子などなど、その魅力を数えるとキリがないですね。大好きな作品です。


邪悪なる戦い[Disc2-16]

通常エンディングルートではラスボスという位置付けになる

芋虫からへと変態を遂げた(?)エアリーとのバトル曲。

「邪悪なるもの」と比べ、リズム感や後半での盛り上がりを見るとよりコテコテなバトル音楽、という印象を受けます。

イントロ終わりやAメロと並ぶ形で入るフレーズがまさにそれですね。リズムに乗り、エレキギターがノリノリでモチーフを歌っています。

0:14~0:42など 格好いい。後に7拍子へ変化する

さらに、後半の盛り上がる場面でもエアリーのモチーフが現れるのです。これまでは2小節単位でシンコペーション気味だったのが1小節で区切られ、また音符の配分も異なるので、意外に気づかないのではないでしょうか。

1:21~1:44など 蛹にふさわしい盛り上がり(?)


邪悪なる飛翔[Disc2-17]

通常エンディングルートではこの姿を目にすることはありません

闇のオーロラを抜け、最奥部で待ち構えているエアリーの最終形態は…?芋虫蛹とくれば、最後はもちろんです。
これまでの禍々しい形相を投影してきたギンギンでブイブイなサウンドは鳴りを潜め、各フレーズは伸びやかな旋律や細かいアルペジオなどにとって代わり、軽やかに空を舞う仇敵との最終決戦にふさわしい音楽になっています。

開幕から圧倒的疾走感で駆け抜けていき、その全能の姿にぴったりの、華やかなストリングスアンサンブルでエアリーのモチーフが奏されます。

0:21~0:31など シンプルに、ストレートに

曲の最後尾にもアレンジの加えられたメロディ群が置いてあり、一旦落ち着いてから最後の盛り上がりへ向かいます。

3:19~3:39 後2小節を変形。繰り返して上のフレーズへ繋げる


また小ネタとして、「邪悪なる戦い」「邪悪なる飛翔」では以下のような共通点があったりします。

・イントロの3連符リズムが一緒

・どちらも1ループまで長いが、
Intro→A→B→A'→B→C→A→B→C→D→Intro'
という、大雑把に見ると展開の流れが似ている。
AB→ABC→ABCDと段々増えていくのが面白い

戦い=「Fight」に対して飛翔=「Flight」


水晶の闇[Disc2-2]

さて、ここまで「邪悪なる〇〇」シリーズを通してエアリーのモチーフについて紹介してきましたが、この「水晶の闇」抜きではその本質は語れません。

サウンドトラックの中では一見、地味で、どんよりとした印象を受けるこの曲。各神殿の最奥で、これをバックにに4人がいざクリスタルを解放しようとするあのシーンは、真のエンディングへたどり着いた人であれば嫌と言うほど見せられたのではないでしょうか?実はこのシーンで彼女の企みを音楽に乗せ物語より先回りして私たちに教えてくれているんです…

何やら不穏な空気を醸し出しているが、動きは完全にエアリーのそれである

当時、私はこの不気味な雰囲気をオルトロスやルサルカなど、直後に相対するクリスタルの守護者たちと無意識に結びつけて納得し、ゲームをプレイしていました。この伏線が回収されるのは物語飛んで終盤。本性を現したエアリーとの死闘を描写する「邪悪なる〇〇」シリーズがかかり、「水晶の闇」で使われていた例のモチーフが堂々登場する。そういう流れになっているわけです。

レ〜ラド〜ラ〜


まとめ

物語の描写からも読み取れることはたくさんあるので、実際にゲームをプレイ中、勘の鋭い人からしたら「この、エアリーってやつ胡散臭いな。裏切り者なんじゃないか?」と早い段階で気づくかもしれません。しかし、この「ブレイブリーデフォルト」のサウンドトラックは、まだ何も知らないプレイヤーの傍でしれっと「コイツだよ、全ての元凶は」とその真実を示しているのです。「水晶の闇」が持つ意味は、物語を進めてみないと、サウンドトラックの最後まで聴いてみないと浮かび上がってこない、というのがとても面白いですね。また「邪悪なる〇〇」シリーズの音楽に関しても、もうめちゃくちゃに格好いいのでどれも大好きですが、やはり「水晶の闇」あってこそ音楽の旨味が出てくると思うので、私はそれも含めて大好きだ、と言うことにします。

以上、サウンドトラックから読み取れる「クリスタルの精霊エアリーの目論み」でした。




最後までお読みいただきありがとうございました。


使用した資料
「BRAVELY DEFAULT For the Sequel」
「BRAVELY DEFAULT Original Soundtrack」
「BRAVELY DEFAULT Design Works THE ART OF BRAVELY 2010-2013」

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