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さっぱりした方の苗字

【書けなかったこの2年間のこと③】

結局のところ、同じ環境に身を置けばまた同じことの繰り返し。

とにかく生活環境を変えなければ生きてはいけない。

そう考えて結局僕は、北海道から離れようと思った。

僕の弱い性格が、猛烈に周囲に迷惑をかけるのは『もうコリゴリ』だった。

1回目の手術後同様、頻繁に起こる逆流と低血糖とで不眠症になり、みるみる痩せていくのが怖かった。

違う生活環境で『とにかく変わりたい、逃げてでも変わりたい』
そう思った。

実際に、フェリーから津軽海峡の海を見ながら『僕は逃げたのだ』と思った。

北海道を離れる日の、津軽海峡。いったい、これからどうなるんだろう。寂しさが胸を突いた。

でもその反面『誰も知らない土地で生まれ変わるのかも知れない』とも思っていた。

僕は、ひとまず妻の実家に身を寄せて療養することにした。

生まれ変わる為に、わざわざ区役所で住民票を移す手続きをする。

妻の実家は、横浜の青葉区。よりによって、僕に最も相応しくない高級住宅街であった。

手続きの記入コーナーの隣に居合わせた人は『齋藤』という苗字だった。

僕が『齋藤さん』の家に生まれたら氏名欄の記入が生涯大変だろうなと思った。

『齋藤さん』や『齊藤さん』。
あるいは『渡邉さん』や『渡邊さん』は、さっぱりした苗字の方の【斉藤さん】や【渡辺さん】をどう思っているのだろう?

という訳で、僕は生まれ変わってもやっぱり苗字は『小林』が、さっぱりしていていいと思ったのだった。

『小林』という苗字の『さっぱり感』がこの時、有り難く感じた。

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