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摺りたい者の疼き

小林精志

『人は人生の節目になると不意に何かを摺りたくなる』

そんな奇説を耳にした事はあるでしょうか?

僕は一回もない。全然ない。

しかし『何かを摺る』というのはどこか精進的な佇まいを匂わせる。

そう、これは真の大人へのステップ!その確かな疼(うず)きなのだ。

手始めに僕は黒いすり鉢と、純国産の山椒すりこぎ棒を買って帰り、いつもの駅を降りる。

中国産のすりこぎ棒に比べると国産のすりこぎ棒は4倍の価格。ここは一生もの!国産の方を握る。

駅前広場では、いつの間にか出馬を決意した往年のアイドル生稲晃子さんが街頭演説をしていた。

黒いすり鉢にサインしてもらおうとしている男がいる事を生稲さんは知らない。

僕は思わず、すり鉢にサインしてもらおうか迷いながらも彼女の輝かしい経歴を隣のオッチャンに優しく言い含める。くれぐれも優しく。

その様子を見た選挙スタッフが、僕に生稲さんのチラシを5枚くれた。

黒すり鉢にサインするには白いインクペンが必要だったので諦めたが結果的にこれでよかった。

家に帰ってから、ナイフのように尖っては摺れるものみな擦り続けた。

大人へのステップを『おニャン子のサイン』で危うく踏み外すところだったのだから。

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