鰻重とお燗酒
鰻屋さんで、お燗酒が楽しめない。
先日、僕にとっての大切な人生の約束事、そして僕の歴史的な常識がひっくり返った。
僕は『鰻重』こそ、酒肴としての最高峰の1つだと考えている。
(もちろんお燗酒の。)
先日もたまのご褒美に鰻屋さんで『鰻重とお燗酒』を注文する。
ところがその店の女将は3秒の沈黙の後『あ、時間をくださればできます。』と少し動揺して答えた。
大将は『燗酒ねぇー』と苦笑いをしている。
『ひやしかないなら、ひやでお願いします』予想外過ぎる反応に僕は慌ててそう返す。
僕が言っているのはこのお店のサービスやお酒の質どうこうではない。
老舗の鰻屋さんではもう数年レベルでお燗酒のオーダーがない?そこを想像して震撼するのだ。
鰻屋さんでのお燗酒の注文が意外な事になりかけている?
それが一般的な事実ならもう終わりだ。徹底的に終わった。
僕のやろうとしている事も終わりだし、大好きな江戸の食文化はもはや博物館の展示に過ぎない。
いや、考え直そう。それはきっと僕、あるいは店側の早とちりなのだ。
きっと女将と大将は【お燗酒】を何かに聞き間違えたのだ。(例えば『コーンポタージュ』や『チョコレートサンデー』などに)
(そう言えば僕も一度だけ『タイムボカン』と『スリムドカン』を言い間違えた事がある)
だからもう一回、今日、その店で同じ注文をしてみよう。
わざわざ来日して僕のために引き裂かれた鰻への感謝を込めて、もう一度注文してみよう。
鰻重のために、寺尾聰さんのお父さん!見ていて下さいね。
(それは宇野重)