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ゲームとことば#98「それとも私のおしりがそんなにみりょく的なのかしら?」

追いかけても追いかけても追いつけない、強くてかっこいい女性のセリフ。

スクウェア(現スクウェア・エニックス)の名作RPG『ファイナルファンタジー6』。
美麗なドット絵と14人のキャラクターが織りなすドラマティックな群像劇が特徴の本作は、メイン以外のキャラクターも魅力的だ。
ゲーム終盤、セリスが散り散りになった仲間を探す過程で、仲間の一人であるセッツァーとともに「ダリルの墓」へと向かう。
そこはセッツァーのかつての友「ダリル」と飛空艇「ファルコン」が眠る場所だ。

セッツァーの回想に現れるダリルは、強くて快活な女性。
二人はそれぞれ自分の飛空艇で速さを競い合っている。
だが、セッツァーはダリルに一度も競争で勝ったことがないようだ。
それでもなお、船の限界を超えて速さを求めるダリル。
その日もセッツァーの前を飛んでいたダリルは、心配する彼をよそに「くやしかったら私の前に出て見な」と煽るのであった。
そして彼女はそのあとに、表題のセリフを発する。
船はさらにスピードを上げる。
やがて、遠くにうち捨てられたファルコン号を残し、ダリルは帰らぬ人となった。

といったエピソードが『ファイナルファンタジー6』語られている。
その後に流れる名曲「仲間を求めて」の効果もあり、印象深いシーンだ。
本作のストーリーは、魔導の力で世界を征服しようとする帝国と、魔導によって狂わされたケフカが主人公サイドの敵として描かれる。
だがセッツァーとダリルのエピソードは、本作のメインストーリーには特に関係していない。
帝国やケフカがもたらす陰鬱で残酷な悲劇と違って、これらと一切関係のないダリルの死はベクトルの異なる悲しさを持っている。
悲しいと思うのと同時に、この物語は帝国とケフカだけが作っているのではないのだ、という安心感もある。
私は1本のゲーム内で、種類の異なるエピソードが語られているとなんだかうれしく感じてしまう。世界に奥行きが出るからだ。

表題のセリフに戻ると、ダリルはこの後「世界で一番近く星空を見る女になりたい」と言い、飛空艇のスピードを上げてセッツァーを振り切っている。
何ともロマンティック。
回想を終え、セッツァーはダリルの船で空を飛ぶ決心をする。
ダリルの粋な煽り文句が、いつまでも心に残っている。

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