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レシピを作るのって結構難しい 琥珀糖を作り続けた1ヶ月

5月は琥珀糖の季節。今、そう決めました。
事の始まりは、4月の末に頂き物の琥珀糖を食べたこと。

私、元々、琥珀糖が好きなんです。あの、鉱物にもシーグラスにも例えたくなる見た目。噛むとカリッとした結晶の衣の抵抗があり、そのまま歯を動かすとぷるりとした食感。断面を見ればきらりと光を反射して、とにかく素敵な食べ物です。
それで、頂き物の琥珀糖はほんのり桜や桃の味がついていて、これがまたおいしかったんです。

時はちょうどステイホームが叫ばれる、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の最中。蘇を作ったり玉ねぎの皮で染物をした私は、ちょっと調子に乗っていました。

琥珀糖、自宅でも作れるんじゃない?

こんなに綺麗な見た目だけど、意外と材料はシンプル。
よし、作ろう。
早速私は材料をそろえて、台所に立ちました。それが5月1日、せっかくのゴールデンウィークなのに新緑は窓から楽しむしかない日のことでした。

1回目の挑戦

琥珀糖のレシピは、結構インターネットに転がっていますが、当然ながら微妙に違いはあります。
とりあえず目についたレシピのいくつかを参考に、分量を定めてみました。

グラニュー糖   250g
水        250㏄
粉寒天      4g
かき氷のシロップ お好み

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本当は糸寒天のほうが透明度が高いという情報を得ましたが、私はずぼらなので扱いやすい粉寒天にしました。
色付けを食紅にするかかき氷のシロップにするかは、直前まで迷いました。けど、シロップのミニボトルのほうが食紅より安かった!
自分が持っている鉱石と同じような色味にしたかったので、青~紫のグラデーションを作るべく、ブルーハワイと苺のシロップを用意しました。

では、まず煮詰めていきましょう。

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グラニュー糖と水、寒天をひとつの鍋に入れ、ひたすら木杓子で混ぜながら煮ていきます。ちょっと、蘇を思い出しました。
次第に砂糖も寒天も溶けていきます。

そうそう、寒天って沸騰直前にならないと溶けなくて、その後常温まで下がると固まるんですよね。そして一度固まると、また70℃近くまで温度が上がらない限りは溶けません。冷やしていないとすぐにとろけてしまう、ゼラチンを使ったゼリーとはそこが違います。

砂糖と寒天のおかげで、煮詰めていくとだんだん粘り気が出てきます。火を止める目安は、糸が引くくらいまで。だいたい30~40分くらいかかりました。

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その状態になったらバットに移しましょう。水でぬらすか、クッキングシートを使うといいでしょう。

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うん、ネバネバしていますが、まさしく見た目は寒天ですね。輝いているのは、我が家の電灯です。
ここから色を入れていきます。
まずはブルーハワイ。

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ある程度色が広がったら、今度はイチゴを入れていきます。あくまで、目指すのは紫なので、青よりやや少なめ。

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入れたら面白い食感になるかな、とアザランも一部に仕込みます。今思えば、初回なのに冒険しすぎです。

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完全に固まったら切り分けです。鉱物感を出すためには手などで乱雑にちぎったほうがよいのですが、せっかくなので包丁を使って切り分けたものもいくつか確保することにしました。包丁を使う場合は、お湯で温めておくとよいです。

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切り分けたら、乾燥のお時間。私は、梅干を干すのに使うネットを流用しました。

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本当は風通しのいいところに陰干しするのが理想的なのですが、我が家は土ぼこりが舞いやすい立地なので、室内干しです。

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だいたい数日~1週間ほどすると、表面が結晶化してカチカチになり、完成です。

初めての琥珀糖、そのお味は?

約1週間後。私は困っていました。意外と表面が乾いてくれないのです。
側面や底面はまだ琥珀糖の装いをしているのに、肝心の表面がツルツルのピカピカ、ついでにちょいとばかしネバネバです。

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おかしい。確かに素人の勘で作った気はしますが、もうちょっとこう、都会の風にさらされた感が出てもいいのではないでしょうか。まあ、我が家の周辺は住宅地だけど。
というか、室内干しに都会がどうのなんて問題ではなかったですね。我が家の空気は、ちょっとウェットなのかもしれません。住んでいる人間が根暗だからでしょうか。

とりあえずもうかなり待ったし、毎日変化の状況確認で味見していたとはいえ、私は琥珀糖を食べたい。
諦めが肝心なので、さらっとした琥珀糖への未練は捨て、食べてみました。

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予想はしていたけど、美味しい。私は天才ではないか。まあ、砂糖と寒天、そしてシロップだけのシンプルな味つけとはいえ。私は超絶がつくほど甘党なので、いくらでも食べられます。

ここで得た知見は、シロップの味が好きではない人は素直に食紅を使うべきだということ。私には関係ありませんが。
しかし、悔しいものです。今まで愛でていた琥珀糖とちょっと違うのですから。
というわけで、レシピをちょっと変えて再挑戦してみました。

2回目の挑戦

乾き具合がイマイチだったのは、水分量ではないか。
そう仮説を立てた私は、水を減らし、ついでに寒天を増やした。固めの寒天が好きだから。

グラニュー糖   250g
水        200㏄
粉寒天      5g
かき氷のシロップ お好み

手順は前回とほぼ同じ。煮詰めてバットに流し込み、青と紫の色をつけて、いい感じのまだら模様にします。今回はシロップ少なめになりましたね。

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2回目ともなれば、もう慣れたものです。写真を撮る手つきも1回目よりどこか軽やかでした。

初回ではアザランなどを入れてみましたが、食べてみて「普通の琥珀寒のほうが好きだな」と思ったので、今回は入れません。やっぱり、やってみないとわからないってこと、ありますよね。

包丁を温めて切るのは結構手間なので、2回目では省略します。無造作に切ったほうが鉱石っぽいし。表面積も増えるし。
1回目の琥珀糖と2回目の琥珀糖を並べてみましたが、どうでしょう?

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切り分けたらまた乾燥させるわけですが、もちろん味見はします。厳密には琥珀糖ではないかもしれないけど、出来立てのウルウル感もなかなかいいものです。

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今度こそ、と願いを込めてネットを吊るしたら、また待ちます。

繰り返し作って気づいたこと

それから数日。やっぱり側面や底面は比較的早めに固まってくれるのですが、表面だけは相変わらず言うことを聞いてくれません。
でも、気づいたことがありました。バリエーションを出すために、シロップなしのエリアを作っているのですが、色がついていない琥珀糖は比較的乾燥が早いのです。前回も今回も。

もしかして……シロップが原因?

確かに、色と一緒に水分を追加しているわけだし、固まるのが遅いのは当然なのかもしれません。あと、ぱっと見の色味にこだわって、表面近くでかき混ぜてたわ。

ということは、やっぱり今からでも食紅を買いなおすべきなのか……。
いや、ミニボトルとはいえ、シロップはまだまだあるという。そして、我が家にかき氷機はなく、このシロップは琥珀糖のためだけに買ったものなのです。

「女の道は一本道。引き返すは恥にございます」と、昔の大河のセリフが脳裏をよぎります。
そうだ、今の私にとって為すべきことは、このシロップを使って琥珀糖づくりを成功させることではないか。
そうして私はもう一度、鍋を手に取ったのです。

3回目の挑戦

今度は水をさらに減らしてみよう、ということで、分量は以下のとおり。

グラニュー糖   250g
水        150㏄
粉寒天      5g
かき氷のシロップ お好み

シロップもちゃんと計るべきではと思わなくはないのですが、琥珀糖は食べ物であり、芸術でもあります。
今日の私の気分と偶然が作り出す色味こそが大事なので、ここを変えるつもりはありません。
そう、女の道は一本道なのだから。

手順は、依然として変わりません。違いと言えば、ちょっと長めに煮込んだのと、シロップを入れるときに底までしっかり混ぜることくらいでしょうか。
あと、ちょっと赤っぽい部分を増やしました。これはこれで綺麗。

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常温まで下げて固まったとき、確かな手ごたえを感じました。なにせ、切り分けるのに使っていた木のフォークが折れたのですから。

そうなんです。1回目の、シロップを混ぜている写真にも写っているあの子。ちょっと細身で、スイーツとの相性抜群の子。それが、琥珀糖を切り分けようとしたときに、見事にばっきり折れたんですね。
寒天の強さを、身をもって学びました。尊い犠牲を払って。

そんな悲しい出来事なんてなかったかのように、今回も出来立ての琥珀糖はとても美しかったのが皮肉です。

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あなたのその綺麗な微笑みの陰で、いったいどれだけの人間が涙を流してきたの。そう問いかけたくなる冷たい美人のような佇まい。
胸の痛みを感じつつ、今回も約1週間乾燥させていきます。

3度目の正直と、昔の人はよく言ったもので

結論から言うと、成功しました。やっぱりシロップ濃度が高い部分は乾きが遅かったんですよね。

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挑戦する→失敗する→仮説を立てる→検証のためもう一度挑戦→2回の実験結果を比較する→再度検証

このプロセスって、とても大事だなと思いました。一度や二度作っただけではわからないことってありますよね。
私はそもそもちょっと自己流で始めてしまったのですが、こうして試行錯誤を繰り返してみると、世の中のレシピと、それを考えた人のありがたさが身に沁みました。
料理は科学であり、適正な数値があります。それを探す大変さを実感したのでした。

おまけの話

3回作ったということは約3週間の出来事だったわけですが、実はもう1回作っています。
250g×4回で1kgの砂糖が消費されたわけですから、かなりのものですね。私も結構食べましたが、まあ寒天はノーカロリーで相殺されているはずです。ちょっと太ったのは気のせいです。

で、4回目ですが、作成過程の写真はありません。
シロップが原因だとわかった私はまたまた調子づいており、「バットに流し込むとき、まず寒天液を半分だけ入れて、シロップで混ぜて、それからまた寒天液を入れたらさらに改良できるのでは?」と仮説を立てたのです。
そして寒天液を半分ほど入れ、いつものように青・紫・白のグラデーションを作りました。

私ときたら、いつも美しく仕上がっちゃうんです。やっぱり天才なんだなと思いながら、残りの寒天液を流したところ、注ぐ勢いが強すぎて色味のついた部分が攪拌されてしまったのです。
繊細なグラデーションは焼失し、ほぼ紫一色。時は既に遅かった。女の道は一本道で、引き返せない。
それにふてくされて写真は撮らなかったというわけでした。

ただし、味は相変わらずよかったです。
下の写真は乾燥したあとのもの。一番色の違いが感じられる部分をピックアップしてみてはいますが、9割は紫色の琥珀糖でした。
まあ、紫だって綺麗なんですけどね。

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新緑の瑞々しさと琥珀糖と

5月は、琥珀糖と共にやってきて、琥珀糖と共に過ぎ去っていきました。気づけば、緊急事態宣言も解除され、6月はもう目の前。

ゴールデンウィーク前後はお花と美術鑑賞をしにいくはずだったのに、まさかの自宅生活を送る羽目になり、実を言うとかなりやさぐれていました。諸事情により、3月まであまり身動き取れず、春が来るのが待ち遠しかったのです。

日差しは眩しく、萌ゆる緑は日に日に濃くなっていく。こんな最高の季節に、じっとしていられない性分で、仕事もカフェに出かけて作業するような私が自宅生活を送るなんて耐えられないかもしれないと思っていました。

でも、そんな私に5月の間寄り添ってくれたのが琥珀糖です。イケメンや美少女のセリフ(+日本文化の記事)を書いて過ごすだけの日々に、潤いを与えてくれました。ちょっと頭を使いすぎて糖分が欲しいとき、ふと目を向ければそこに琥珀糖がある。もう、最高です。

自宅に生ハムの原木があると思うと強くなれるという人を以前見かけましたが、私にとってそれが琥珀糖でした。いつでも(乾燥していなくても)そこに琥珀糖があって食べられるという安心感がどれだけのものか。
そういうわけで、私にとって5月は琥珀糖の月。

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