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制限と放題【奥の階段#12アトレ川崎】

わたくしは商業施設の奥の方にひっそりとある、階段が好きである。
今回は、アトレ川崎の奥の階段

少しだけあがるための階段
美しいラインの<
低い位置の階表示

京急には大師線という路線がある(アトレはJRグループだが京急の話である)。川崎大師へ参拝する路線として開通した京急のルーツの路線である。しかし当時三浦半島の中学生であったわたくし達にとって大師線は、川崎大師に行くための路線ではなくスポッチャに行くための路線であった。

スポッチャなるものが登場したときには、とんでもない施設ができたらしいと、仲間内で噂になったものだが、車を使わずに行ける最寄りの店舗は川崎だということで、元々三浦半島から出ない習性からしてなかなか気軽に行ける場所ではなかった。しかも大師線というまったく馴染のない路線である。しかしこの簡単にたどり着けないという点もまた、憧れを増幅する要因となっていたのであった。

そしてついに友人がどうしても行ってみたいということで、意を決してスポッチャへでかけるのであった。

そもそも横浜まで出ていくのにハードルを感じるのに、ましてやその先にいくなど当時はとても長い道のりに思えた。そしてどこに向かっているのかよくわからない路線へ乗り換える。やっとの思いで到着したスポッチャは夢の施設のように思えた。

アーチェリーとか卓球とかビリヤードとか、遊べる種類が多いということももちろん喜んだわけだが、一番に感動したことといえば、アーケードゲームが遊び放題なことである。普段ゲームセンターで小遣いの残りを気にしながら遊んでいたゲームが、この施設内ではいくらでも遊ぶことができるわけである。これは我が家にたこ焼き機を初めて迎えた時のような、あのたこ焼きを無限に食べることができるぞ!というのに似た興奮であった。

この一回一回課金をしなければいけなかったものが、利用し放題になるということは、少ない小遣いでやりくりしていた学生にとっては、とんでもなく素晴らしいサービスのように思えた。今でこそサブスクで音楽は定額聴き放題が当たり前であるが、当時は着メロや着うたでさえ、月額を払っているにも関わらず、ダウンロードできる曲数に限界があり、それを超えるためには追加の料金が必要であった。そのうち着うた取り放題(着メロや着うたを”取る”という言い回しも懐かしい)なるサービスが始まり、それに加入している者はヒーロー的であった。

今も”ギガ数”を気にしてスマホを使っている人は多いと思うが、当時は”パケット”を気にしていた。そのうちパケ放題というプランが登場し、早くからパケ放題にしていた者もまた羨ましがられた。
思い出すとパケットを節約するために、パソコンでダウンロードしたものを携帯のSDカード移したらよいのではないかとか、自分で音楽を切り取って着うたを作ることはできないのかなど、いろいろと試行錯誤したというのも、あまり今役に立っているとは思えないが、パソコン自体や自分で検索してやってみることに慣れ親したしむことにはつながったかもしれない。

そう思うと何か制限があるなかでなんとか工夫してみようということも、新しいものを生み出したり、知識を深めたりすることには必要なのかもしれない。遊具のない公園で楽しむにはどうしたらいいとか、親に隠れてゲームをするためにはどうしたらよいかとか、そんな経験は自覚はできなくてもきっと何かの能力につながっているのではないだろうか。


今自分の置かれている状況に不満足であったり、上手くいかないと感じていたとして、その状況がそんな”制限”のようなものだと考えられたらどうだろう。やり放題できるようになってしまう前に、あれこれ苦労するのもまた良いかもと思えないだろうか。




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