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老人の家

愛媛県松山市にある、妻の祖父が晩年を過ごしたという家に、滞在している。古い小さな家で壁が薄いせいか、雨音や虫の鳴く声など外の音がよく聞こえる。家の中なのにまるで外にいるような気がしてくる、中が外の家。

その昔、スズムシとかキリギリスなんかの虫を売り歩く虫売りという職業があったという。もちろん、妻の祖父は虫売りではなかった。一年に一度、五木ひろしのコンサートに行くのを楽しみに、ひとり静かに生きる老人であったらしい。

だが本当は虫売りだったのではないか。朝方、虫の声に囲まれながら便座に座ってると、ふとそんな気がしてくる。一度も会ったことのない、謎の、今は亡き老人の確かな気配を感じながら暮らす。

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