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暴落の前に 天才がいる あの万有引力のニュートンも株式投資で大損?

 2021年8月現在、日米欧の中央銀行が金利を低く抑え、国債を買い入れる金融緩和を続けている。一方で米国では物価上昇の兆しも見られ、国債買い入れ金額を減額するテーパーリングの議論がいつ始まるか、皆が注意深く
見守っている。
今回は、ジョン.K.ガルブレイス著作の「バブルの物語 暴落の前に
天才がいる」
 鈴木哲太郎訳 ダイヤモンド社を紹介したい。


 オランダのチューリップ、ルイジアナの金、フロリダの不動産、
ロナルド・レーガンの素晴らしい経済設計、といった類の、一見新奇で
望ましい人為的事実や事態の展開は、金融の才のある人々の心を捉える。
投機の対象となった物の価格が上がる、証券、土地、美術品、その他の
資産は、今日買えば明日はもっと価値が高くなる。こうした価格上昇と
その見通しが、更に新しい買い手を惹きつける。新しい買い手が有れば、
一層の価格上昇が保証される。そこで更に多くの人が惹きつけられる。
より多くの人が買う。価格上昇が続く。
いわば投機に対する投機が盛り上がって、弾みがつく。
こうした投機の状況は、いずれは反落に転じざるを得ない。
また、その反落が、静かでなだらかに来ることはあり得ない。
反落に対しては早く逃げ出そうと一斉に動き始めるからである。
「投機のエピソードは常に、囁きによってでなく大音響によって終わる」
という一般論が成り立つのであって、これは、数世紀にわたる経験に裏付けされている。
この群集心理の圧力は非常に強いので、救われる人というのは、殆んど例外でしかない。
救われる為には、次の二つの強い力に抵抗しなくてはならない。
第一に、熱病的な信念が広まると、誰しも自分も儲けてやろうという気に
なるものであるが、そうした強い私利に抵抗すること。
第二に、この熱病的な信念を強めるのに効果的な力となっている世論や
一見優れた金融界の意見の圧力に抵抗すること。
これら二つの力は、
「群衆というものは、結構まともな個人をバカ者に変えてしまう」
というシラーの言葉を証明するものであって、シラーはまた、こうした狂気に対しては、「神々でさえ抗しがたい」と述べている。
「あらゆる人は、最も幸福な時に騙されやすい」とは、
ロンドン『エコノミスト』誌の金融担当記者、ウォルター・バジェットの
言葉である。



オランダのチューリップバブル

 チューリップは、ユリ科の植物で地中海東部の諸国、及び、それ以東の国々に野生する。
チューリップが最初に西欧へもたらされたのは、十六世紀。
まもなくこの花は、非常に高く評価される事になり、チューリップの
所有・栽培は大変な名声を博する事になる。チューリップの希な品種に
対する需要は1636年に非常に増大した。初めのうちは信頼感が最高の状態にあり、総ての人が儲けた。多くの個人が突然金持ちになった。人々は蜜の
壺に群がるハエの様に次から次へとチューリップの市場に殺到した。
そして、世界中のあらゆる所から金持ちがオランダへ注文を出し、どんな
言い値でも支払いをするだろうと考えた。貴族、市民、農民、職人、従僕、女中、更には煙突掃除夫や古着屋のおばさんまでがチューリップに手を
出した。あらゆる階層の人々がその財産を現金に換え、それをこの花に
投資した。土地・建物はとんでもない安値で売りに出され、或いはまた
チューリップ市場でなされた取引の支払いの為譲渡された。外国人も同じ
熱に襲われ、あらゆる所からオランダへ金が流入した。
1637年に終末が訪れた。賢明な人や神経質な人が手を引き始めた。彼らが
去っていくのが他の人々に分かった。殺到した売りはパニックとなった。
価格は断崖を滑り落ちる様に暴落した。それまで買っていた人は、その多くが資産を担保に借金していたのであるが、突然一文無しになり、または破産した。「裕福な商人が乞食同然となり、多くの貴族の家産が回復不能の破滅に陥った」。


ジョン・ローとルイジアナの金

 1716年にパリにやって来たローは、銀行を設立する権利を与えられた。
前年にルイ十四世が亡くなり、ローにとって後に重要となる二つの遺産を
残していた。その第一は、若いルイ十五世の摂政オルレアン候フィリップ
二世、彼は知性に欠けていた上に放縦極まりない男であった。その第二は
破産した国庫と多くの負債、これは、太陽王の絶え間ない戦争と贅沢な
生活、並びに租税徴収権を得て財政収入の確保の任に当たっていた農民の
間に汚職が蔓延していた事によるものであった。
これら二つの機会にローは目をつけた。設立された銀行はロワイヤル銀行といい、銀行券を発行する権利を与えられた。この銀行券は、政府の経常費の支払いおよび過去の国庫負債の引き受けの為に用いられた。この銀行券は、人が望めば硬貨と交換する事が出来る建前であり、評判が良かった。
銀行券が好評だったから、さらに多くの銀行券が発行された。銀行券発行の裏付けとなる収入を生み出す現金収入源は、理屈上はミシシッピ会社の設立によって得られた。この会社は北米大陸のルイジアナに存在すると考え
られる金鉱の探索を目的とするものであった。この金鉱が存在するという
証拠はなかったが、疑問を抱く人や疑ってみる人はいなかった。この会社の株が公開されると、爆発的な人気が盛り上がった。ミシシッピ会社の株式の売上代金は、これから発見されようという金鉱探査に充てられるのでは
なく、政府の負債の返済に充てられた。その銀行券は、ロワイヤル銀行に
ある硬貨によって裏打ちされていると想定されていたのであるが、その硬貨の量は、やがて銀行券の量に比べてわずかなものとなってしまった。
 1720年に終焉が訪れた。この崩壊のきっかけとなったのは、コンティ公が、株を買うことが出来ないのに苛立って、自分が持っている銀行券を
ロワイヤル銀行へ送って金と交換しようとした事であった。余り当にならぬ言い伝えによると、三台の馬車が金を積んでコンティ公の所に戻ったが、
ローの要請によって摂政が介入し、コンティ公に対し総ての金を返却する
よう命令した。他方、他の人々は銀行券より金の方が良いのではないかと
いう考えに取り付かれた。信頼感を回復する為に、そして金の供給が
間もなく十分に来るであろうことを銀行券所持人および投資者に対して保証する為に、何百人ものパリの乞食が動員された。彼らはルイジアナの金を
掘りに行こうとしているかのようにシャベルを持ってパリの街々を練り
歩いた。銀行は取り付けにあった。人々は銀行券をミシシッピ会社の株ではなく金と交換するよう求めたのである。
1720年7月の或る日、ロワイヤル銀行の前で衝突が起こり、十五人の人が
命を落とした。銀行券はもはや交換性を失ったとの宣言が出された。単に
ミシシッピ会社の株だけでなく、多くの価値が崩壊した。ほんの一週間前に百万長者だった市民は、今や貧困に陥った。この事件の後、フランスの経済は沈滞に陥り、経済・金融は概して秩序が乱れた。
その後一世紀に渡ってフランスでは銀行は疑惑の目で見られる事になる。

サウスシー・バブル

 サウスシー会社は1711年に生まれた。イギリスでは、スペイン継承戦争の時期に生じた政府債務が滞っていて、何とかしなければならない状況に
あった。サウスシー会社は、その設立免許と引き換えに、この多様な負債を引き受け、整理する事となった。会社は、政府から年六パーセントの利子の支払いを受け、株式発行の権利を与えられたほか、「1711年8月1日以降、
アラノカ川からティエラデルフエゴの南端に至るまでのアメリカ大陸の東岸とイギリスの間の貿易の独占」を与えられた。更にアメリカ大陸西岸との
貿易ならびに、「スペインの領土または今後発見されるものも含めてこの
地域にあるすべての国との貿易」が後に追加された。この広大な地域との
貿易については、スペインが独占権を主張していたのであるが、この事は
無視されていた。もっとも、その頃協定交渉が行われていて、その成り行き次第では、メキシコ、ペルーその他の地方の有名な金属の富にイギリスが
参入しうる希望が無いわけではなかった。
又、奴隷貿易の機会もありそうだった。
そしてついにその時がやって来た。スペインがこの会社に一年に一度だけ
航海する事を許可したのである。ただし、スペインがその利潤の分け前に
あずかるという条件付きであった。
政府債務の引き受け増額と引き換えに一層多くの株式が発行が許可され、
それが大衆へ提供された。そして1720年の初めには政府債務の全額をこの
会社が引き受ける所となった。イギリスの大衆は、南の海が提供する機会
らしきものに対して強い反応を示した。会社の株価は一月には約128ポンドであったのが、三月には、330ポンドとなり、五月には、550ポンド、六月
には、890ポンドへ値上がりし、夏には、約1000ポンドにまで上昇した。
イギリスにおいて、そしておそらくパリやオランダに於いてさえも、
これほど多くの人が突然これほど金持ちになった事は、それまでなかった。一部の人が努力する事なしに金持ちになっていくのを見るのにつけても、
この流れに参加しようと殺到する人が増え、それがまた株価上昇に一層の
拍車をかけた。
1720年七月になるとサウスシー会社の終焉が見えて来た。その株価は暴落に転じた。その原因の一部が社内の人や会社幹部の利口な利食い売りだった。九月になると株価は175ポンドに下がり、12月には、124ポンドとなった。
信頼感を維持・再生させるための涙ぐましい努力がなされた。政府の何某
かの支援もあり、株価は約140ポンドの水準で安定した。
これは高値の約7分の1である。
あの万有引力の法則を発見したアイザック・ニュートンもこの投機では散々な目にあっている。株価が上昇し始めた時に株を買い、一旦その株を売って7000ポンドの利益を得ている。しかし、売った後も、株価が上がり続けた為、再度株を購入し、バブルがはじけた時には、なんと20000ポンドの損失を出している。今の価値に直せば、4億円(日経ビジネス)に相当する
額だそうである。

投機に共通する要因

 第一は、金融上の大失態が有ってもすぐに忘れ去られてしまう事。
第二には金と知性とが一見密接に結びついているかのように思われてい事。そして、投機のエピソードの全てに共通しているのは、世の中に何か新しいものが現れたという考えがある事。しかしながら、金融上の操作はおよそ
革新にはなじまないものであり、何か新奇らしく見えるというだけの事で
ある。その新しいものとは、17世紀に於いてチューリップが西欧にもたらされた事であり、18世紀には、株式会社のすばらしく見える所であり、1980年代のアメリカでは、ロナルド・レーガンの自由企業観への市場の順応、それに伴って、租税、独禁法の適用、規制の面で経済が政府の縛りから解放された事であった。

金融界は新しい金融の手段が何度も何度も発明されるのを歓迎する。
 あらゆる金融上の革新は、何らかの形で現実の資産に拠って多かれ
少なかれ裏付けられた負債の創造を含んでいる。
銀行は、その金庫に置いてある現在の預金量以上の銀行券を印刷して借り手に発行した。すべての預金者が一時にやって来てその金を請求する事はないだろう、と考えられた訳である。
1920年代には、大きな持ち株会社が作られた。その所有者、則ち株主は、
他社の株式の購入に充てる為に社債や優先株を発行した。この他社の株式が高くなると、その増加した価値は所有者の物となった。
実のところは、少しばかり装いを変えた「てこ」であるに過ぎなかった。
1980年代には、M&Aマニア(企業合併・買収狂)が流行した。
則ち、企業乗っ取り屋、及び、その投資銀行の相棒は、買収予定の会社の
信用を当て込んで大量の債券を発行した。買収の危機に晒された企業の
経営者は、自社株を購入・償却して支配権を確保する為に同様の債券を
発行した。この様にして発行された債権は、リスクが大きいのでそれを
埋め合わせる為に高い金利が付けられた。こうした証券も、ジャンクボンドという良からぬ呼称を与えられたけれど、暫くの間は新しい大発見であると考えられていた。



さてさて、では、最近はというと、


世の中に何か新しいものが現れたという考えがある事?
 
 GAFAMに代表される最近のインターネット関連技術の登場? 
ネットを通じて様々な情報のやり取りがされ、誰もが情報の発信も
出来る、中には、他人をけなす事に精を出す人もいるようであるが。
そして、ネットで様々なものを注文し、そして配達してもらえる。
これって、新しい生活スタイル、新技術が現れたと皆が思っている事では? 



金融界は新しい金融の手段が何度も何度も発明されるのを歓迎する?

  日米欧の中央銀行による市場への資金供給も新しい金融手段と言える?「やれることは何でもする」が中央銀行の謳い文句となって久しい。
幾らでも紙幣を刷り、そのお金で国債を買い取り、市場に紙幣を供給する、日銀に至っては、その刷った紙幣で株まで買っている。
市場金利も史上最低水準に設定されている。ECBや日銀はマイナス金利まで導入して市場に資金を供給しようとしている。

 昨今話題のSPAC(設立者は自己資本を投入してSPACを立ち上げ、これが会社の資産となりSPACが上場。この際に株式を売り出し、投資家から資金を集める。その後、買収する企業を探し、買収を行い、SPACと買収された企業が合併することにより、事業を営む被買収企業が存続会社となり、上場会社となる。買収される企業には、資金調達ができる、SPACでのIPOは比較的早く済むというメリットがある。)も、中央銀行による金融緩和の落し子ではなかろうか? SPACそのものは、1980年代から存在していたらしいが、規制が緩く、不正が多い事が問題に。でも、最近は、投資家保護の様々なルールが設けられ、世の中で陽の目を見るようになってきた。
これも、「てこ」の原理を応用する投資手法に他ならない。
  
 暗号通貨? 金などの現物に拠る裏付けは無いものの、支払いの手軽さ、
国内外への送金の手軽さから、その価格の半端でないボラティリティの高さにも関わらず、ビットコインを買う方がいる。これも、近年、新しく発明された金融手段と言える。
私には、カネ余りの時代だからこそ、囃されている手法に見えてしまうが。


熱狂する大衆はいるの?

 上がり続ける米国の株価、GAFAMなどは、株価に見合った収益を上げて
おり、株価は割高ではないとの論調も経済番組や新聞紙上では見受け
られる。
エコノミストの中には、GAFAMの株価もまだまだ上がると囃す人もいる。
株式のポートフォリオには、必ずGAFAMを組み込みなさいとの助言もある。
”今日買えば明日はもっと価値が高くなる”は、ガルブレイス流に言えば、
バブルの入口なんだけど。


 救われる為には、我々は、次の二つの強い力に抵抗しなくてはならない。
第一に、熱病的な信念が広まると、誰しも自分も儲けてやろうという気に
なるものであるが、そうした強い私利に抵抗すること。
第二に、この熱病的な信念を強めるのに効果的な力となっている世論や
一見優れた金融界の意見の圧力に抵抗すること。

 今の私には、自信を以ってガルブレイスの意見に従うことは、出来そうに
ない。私も、やっぱり、愚かな大衆の一人に違いない!
心しておきたいのは、
「投機のエピソードは常に、囁きによってでなく大音響によって終わる」
ことである。


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