空飛ぶストレート
「先生、どうですか?」
出版社の人がウチに来るのは、三日連続。締め切り日が近くても、こうなるのは珍しい。
「そろそろ新しい魔球を、ね」
「うーーん」
ウチの夫は唸るばかりだ。
確かに、魔球のお陰で、夫のマンガは人気が出た。
空飛ぶストレート
地を割るフォーク
嵐を呼ぶカーブ
どれも、アイデアを聞いた時は、打ち切りを覚悟した。
でも、それで人気が再燃するから分からないものだ。
投げたボールが、空高く飛び続け、バッターが打てない。
投げたボールが、地面につくと、球場が割れて試合がめちゃくちゃになる。
投げたボールが、竜巻を起こし、暴風雨となり、試合続行不可能となる。
何が、面白いの?
不思議だ。
「では、失礼します」
帰っていく出版社の人。
「魔球できた?」
夕飯の時に聞くと。
「締め切りをずらすスライダー」
うん
その魔球は打たれて、あなたは切られるは。
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