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Day 12 : バッドモーニング

目を開けると、朝の空が広がっていた。草の匂いがする。隣を見ると光乃がうつ伏せに地面に転がっていた。

昨日ボールを投げあった彼らは、公園の芝生で力尽きて倒れていた。

舞はなにか重大なことをツッコみ忘れた気がした。しかしこんな風に夜を明かすのも珍しいことではない。

変なところで目が覚めたらどうするか?まずはトイレを探すこと。人間としての自然の摂理に従って動く。その際には善悪など関係がない。
舞はそこら辺に寝転がっている光乃たちを構わず公園のトイレを探した。

トイレをすませてからは、彼らが気になったもののどうすればよいのか分からない。光乃と一緒に銭湯にでも行こうかと思った。死体のように髪をぶちまけて仰向けに寝転がる着物の女体。このままにしたら別の意味で面倒くさいことが起こりそうだ。

「光乃さん。」舞は耳元にしゃがみこんで言う。
「朝やでー」

「うーん」
うめきながら生き返ったゾンビのように光乃が這い起きる。



「石田くーん」
仰向けになったままのスーツの男。光乃は木の枝で彼の股関を突く。
「ぬああ?」
間抜けな声を出して石田がムクリと起き上がる。

そのときにベートーベンの「歓喜の歌」が流れる。音源を探すと、ハルのPパッドのようだ。畳一畳より広い巨大なディスプレイが光を空に向かって放つ。
 ハルはその上で足と手を折りたたんで眠っていた。まずは音に気がついてPパッドに乗ったままアラームを止める。Pパッドから降りると、それを持ち上げて地面に立て掛けた。
『おはよう』と表示される。
「ハルちゃん、おはようー」と光乃も応える。いつの間にかボクも起きていて、ヘッドホンの位置を調節している。
「朝だ。」

三猿が目覚める。

「くあああ!」
カラスのように石田があくびをする。
「メシメシ」
「どこで食べるー?」
『腹減った。』
舞の横を歩くボクの腹もキュルルルと鳴る。
「店やってないやん。」
朝の駅前商店街は閑散としている。彼らは我が物顔で道の真ん中を歩く。かすかにカフェからコーヒーの匂いがする。日本の気だるい朝の象徴であるサラリーマンもまだいない。今頃、スマホのアラームで起きて、スマホを見ながらトイレに行き、ツイッターを巡回しながら「いいね」を無表情で押し、「朝飯なう」といいながら、栄養補給ゼリーでも胃に流し込んでいるのだろうか。

ちなみに私は訳あってスマホでこの記事を書いている。ああ、昨日、祝日なのに夜遅くまでnoteを書いたせいで腹が痛い。トラウマ的に「三猿書かなきゃ」と脳内で謎の声が響く。(筆者の「書かなきゃ」みたいな愚痴はほとんどネタであるから、読者諸兄は真面目に受け取らなくて良い。「書く人って変な人ね、アハッ」ぐらいに笑い飛ばすところである)
とにかくこの状態になったら打ちにくいスマホのキーをちょんちょんとタッチペンでつつきながらでも文字を打つしかない。通信料がかかるのをケチって、機内モードでオフラインで動くメモ帳に書き込んでいる。

何が言いたいのかというと、学生の頃とかに徹夜明けで仲間と「ああ~朝だ」と言いながら不健康で無計画な最悪の朝を迎えるのって最高だよな、ということ。

「あ、ウメヤだ。」
「もうええやんここで。」
石田と舞の意見が一致したら速い。
残りのメンツはただ状況に流されてふわふわと楽しんでいるか、二人のバカに巻き込まれないように遠巻きに観察しているかである。意見が定まったら全員バカになるのみである。
全国に安い値段で定食を提供するチェーン店の自動ドアをくぐる。
「いらっしゃい、まっ、せー、、、、」
石田が入り、舞が入り、光乃が入り、巨大なPパッドが目に入ると店員の声が不安げに揺れる。しかし彼らは気にせずに券売機を操作して食券を買う。なし崩し的に食券をカウンターに持っていくと、「5名、さまですね?!」とテーブル席に案内された。
それからは店員ができることといえば資本主義の最高の恩恵とも言える効率的な客回転率で、彼らの腹を効率的に満たし、効率的に店から追い出すしかない。
わたしの方も効率的に彼らの朝食のシーンを書くことにしよう。

「いただきま~す」
光乃だけ真面目に背筋を正して、手を合わせる。早朝の閑散とした定食屋に声が響く。
サバの味噌煮定食である。なんとなく光乃が「これ美味しそう!」とか言って選んでいるのを見ると、舞もそれに引きずられて同じものを注文してしまった。
石田は焼き肉、ハルは唐揚げ、ボクは牛丼である。

ここで定食を買う金は誰が出しているのかと少し気になる。「実力事務所」を構えているとはいえ、三猿はあまり潤っているとは思えない。舞の方も極貧の売れない芸人である。アルバイトを他にやっている様子はない。光乃だけがのんきにいつも笑っている。とはいえ光乃のスネをかじっていたら、いつ徳川家からなにか請求されるかも分からない。というわけで、光乃はハルとボクの分をごちそうして、舞と石田は各自の財布から出す形になるのが自然だろう。

「ごちそうさま。」

こうして書いているうちに昼になってしまった。朝の気分を忘れてしまったので、明日の朝早起きでもして続きを書こうと思う。

最後までお読みくださりありがとうございます。書くことについて書くこと、とても楽しいので毎日続けていきたいと思います!