海:2021/02/26

あたたかなねつをもらって、わたしはたゆたいゆるゆるとやわらかいままそんざいできるんだ。べつにそれでいいんだ。それでいいんだと胸を張ることもなく私たちはここで、ひざをかかえてプカリプカリと浮かんでいる。ここは緑色をしていて、たいようの幼い光が水の中をどこまでも広がっている。こんなところから生まれたのだろう。私はそうぞうする。それで良いんだ。それで良いんだと胸を張ることもなく私たちはここで、ひざをかかえてぷかぷかと浮かんでいる。ここは海。あたたかい暖かいせかいにわたしはいたいんだ。ずっとずっとやわらかに私は痛いんだ。

大昔の一滴の水を拾った。その中には記憶の欠片というか言葉のようなものが情報として含まれていた。私たちはその言葉に対してぼんやりとしたことおもわない。

海。通っている。白い。光。こたつの中。広がっている。何度も通った道。始まりは同じ。曇った光。白い光。満ちていく光。いつも同じ道。始まりは同じ。海。広がっている。青く灰色に広がっている。風が吹けば波が進んでいく。遠くに遠くに進んでいく。いつも風というものは見えないものだけれど、海のそばでは風が見える。波が進んでいく方向に、私は風をみる。だから私は風といっしょになって、ゆっくりゆっくり歩いていく。目を閉じてもいい。それだけゆっくりになることができる。目を開けていてもいい。空が遠くまで広がっていることがわかる。雲がどっさりと平たく伸びていくのがわかる。それだけで、それだけで海の言葉は淡々と私の体に染み付いていく。それだけで、それだけで、私は言葉に押し出されてゆっくりと進んでいく。ある。ある場所に行った時の海。ある時のあなたと一緒に行った時の海。それだけで、私はゆっくりと進んでいく。ぽつりぽつりと歩いている人がいる。海どりは水に使ってゆっくりと進んでいく。人が行けない遠くに飛んでいく。鳥になりたいと思う人もいる。松が香る。風から人を守るための松である。松の林の奥には、眠っている魂がある。いくつもの魂が眠っている。刻々と眠っている。私もいつかそこに帰るのかな。想像もつかないのに、言葉だけでそうやって考える。

一人きりで考えている時が一番楽しいんだ。君はそう言った。そうだけれども、君の気持ちはわかる。一人きりで考えている時が一番楽しいんだ。人の心の中の世界は外の世界よりもはるかに大きい。人の心の中の世界は、外の世界に縛られない。そのことを、教えてくれた。大人は教えてくれなかったんだよ。外の世界でうまく生きることを教えてくれた。だから私は自分の心で思ったことと、外の世界がずれていることが怖かった。でも本当は、一人きりで考えている時が一番楽しいんだ。誰にも邪魔されずに。鳥は人間になりたいと思うかな。想像の宇宙を飛んでみたいと、鳥は思うだろうか。私たちは想像する。それが私たちに飛ぶことを許された空だから。鳥は飛んでみたいと思うだろうか。一人で考えている時が一番楽しいんだ。君はそう言った。それと同時に、誰かと話していることの方が楽しいんだ。君はそう言った。誰かと一緒に想像の空をとぶ。

もし、私たちが通じ合えるほど通じ合って。わかりあいすぎるほどわかり合ったら、想像することをやめてしまうだろうか。もし、神話の世界が科学の説明になって、心の世界が誰かの言葉で説明されたら。私たちは、想像することをやめてしまうだろうか。別にやめたって良いのだろうか。そうしたら、君は一番の楽しみを失うことになる。それはちょっと嫌だな。じゃあ、私は永遠にわからないままでいることにする。

最後までお読みくださりありがとうございます。書くことについて書くこと、とても楽しいので毎日続けていきたいと思います!