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フィクションは本来社会の文脈を読むためにある

Amazonプライムビデオで『ザ・ナイト・オブ』というアメリカの連続ドラマを見た。内容は、アメリカ・ニューヨーク生まれのパキスタン人二世で、大学生の青年が、とある殺人事件に巻き込まれる。その過程で、彼の置かれた逆境や、人間的な弱さが徐々に明らかになっていく……というものだ。

面白いのは、このドラマが「現代アメリカの矛盾」を大きなテーマとして描いているところである。その中心にあるのが「イスラム教徒差別」だ。

イスラム教徒は、911以降のアメリカ社会では半ば公然と差別対象となってきた。このドラマは、そういう環境の中で育った人間が主人公なのだ。

その主人公を演じたのは、リズ・アーメッドというパキスタン系イギリス人だ。彼は『ナイトクローラー』という映画で社会的に抑圧されたアラブ系アメリカ人を演じて好評を博したのだが、このドラマの制作者は、おそらく『ナイトクローラー』のリズ・アーメッドを見て、このドラマの内容を思いついたのではないか。それほど、『ナイトクローラー』のリズ・アーメット演じるイスラム教徒の虐げられた立場には、心打たれるものがあった。

ただ、そうしたテーマはあくまでもバックグラウンドのもので、前面には押し出されない。前面には、猟奇的な殺人事件の犯人を探すのというのが本筋としてある。

しかし、それだからこそ視聴者は、かえってそのバックグラウンドの「現代アメリカの矛盾」というものを、言い方は変だが「楽しめ」る。殺人事件という保険が本筋としてある分、バックグラウンドでは現代のアメリカの矛盾についてきわめて大胆に描かれているから、そこでいろいろと考える契機を得られるのだ。

このドラマには、イスラム教徒以外にもたくさんの社会的弱者が出てくる。例えば主人公を弁護する二人の弁護士は、一人は落ちぶれた皮膚病の中年男性で、もう一人はやっぱりパキスタン系の若い女性だ。さらに、事件を追うのは引退間近の孤独なベテラン刑事と、年老いた女性検事である。あるいは、刑務所の中で主人公を助けてくれるのは、頭はいいが貧民窟出身で悪の限りを尽くす黒人ギャングだ。

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