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スティールヘッドが好む水温?

科学論文を釣り情報へ還元する第16回目の投稿です。
今週はスティールヘッドの特集で、今日はその5日目です。


今回のテーマ:スティールヘッドが好む水温?

今回ご紹介するのはこちらです。
Höök, T. O., Rutherford, E. S., Brines, S. J., Schwab, D. J., & McCormick, M. J. (2004). Relationship between surface water temperature and steelhead distributions in Lake Michigan. North American Journal of Fisheries Management, 24(1), 211-221.

衛星で記録された湖の表層水温と釣果からスティールヘッドの好む水温(最適水温)を明らかにした論文です。


スティールヘッドの最適水温は?

この論文では、アメリカのミシガン湖(五大湖の一つ)で表層水温と釣果データをもとにスティールヘッドがどのような水温を好み、移動しているのかを調べています。
この湖では5月~9月が釣りのメインになっていますので、サマーランのスティールヘッドがメインになっている感じでしょうか?

今回の研究をまとめると、
スティールヘッドの釣果は湖の表層水温が高まると低下し、水温変化の激しい場所で釣果が最高となった、ということでした。

当初の仮説では、スティールヘッドは、遡上後1年目は19℃くらいまで、それ以降は15℃を上限とした比較的暖かい場所を好むと考えていましたが、この研究結果では11~12℃を最も好むことがわかったそうです。

餌が限られていると、サカナは代謝や成長の観点から低水温を好むことが実証されていますので、そういったことが理由かもしれないと筆者は考えています。

つまり、水温が高いとその分代謝が上昇しエネルギー消費が高まる→餌を多く摂取する必要がある→餌がない時期なら低水温へ行こう・・・ということでしょうか。

湖の釣りに関してよく言われるのが、「夏場になるとサカナが深場に行ってしまい、水温が低下するまで釣りにならない」という話です。


これは単に熱いから避けるというよりは、餌摂取の機会とエネルギー消費のバランスを考えて深場へ行くのかもしれませんね。

以前の記事でも書きましたが、心肺機能から考察されたニジマスの最適水温は11~16℃だそうです。

また、ニジマスの持久力変化の境界は12℃付近となるので、今回のスティールヘッドもおおよそ大きな差はなさそうです。

また、水温変化が激しい場所を好むというのも面白い点です。


水温変化が激しい場合、その水域の栄養塩(植物プランクトンが増えるための栄養)やプランクトンの組成も著しく変化している可能性があり、餌となる生物の発生が起こりやすくなります。

また、気温の変化にも左右されやすいとも言えますので、陸生昆虫などが蝟集しやすい環境があった可能性も示唆しています。


湖の釣りで思い出したこと

私が以前通っていた湖では、釣行時に毎回欠かさず表層水温を調べていました。


数年通うと、その湖の表層水温のパターンが分かってくるようになり、水温(と風など)の状態から釣りをするかしないか決めていました。

5年目くらいからはこの目安がだいたいハマってくるようになり、その湖へハイシーズンに釣りに出た日はほとんど坊主がなかった覚えがあります。

私の知り合いで、表層だけでなく、投げ釣りのシステムと水温計を合体させた簡易な”中層&底層水温計”を開発し、釣行時毎回(しかもだいたい同じ時間)に水温を測っていた猛者もいました。

この湖のハイシーズンのニジマスの平均サイズは40~50cmですが、彼はかつて(約20年前)その湖で推定85cmのニジマスを釣り上げており、このニジマスがどうもサマーランのスティールヘッドではなかろうか?と言っていました。
(”推定85cm”なのは、その場で計測せず、ルアーと一緒に撮影した写真しか残っていなかったため)

彼は自宅&職場から湖が30分圏内ということもあり、ハイシーズンになると、釣りをする時間がなくても、水温だけ測りに釣り場へ出向き、釣り人へ状況を聞き込みし、気象庁の公開情報とともにデータ化する作業をしていました。彼はもともと理学部(数学科)出身だったこともあり、数理計算を駆使し、確率分布モデルを使ってその日の釣り場の選定をしていました。

彼のデータを詳しく見せてもらったことはないですが、彼の作成したモデルの期待値(理論上の釣果の確率)と実際の釣果は80%以上一致したそうです(ちなみに、彼は一昨年も72cmのニジマスを釣り上げていますので、このモデルの精度は十分ありそう)。

もちろん、釣りの技術や経験も加味されますし、多分このレベルになるにはとてもない”愛”が必要なので私にもついていけないレベルではあります。笑

最近会っていないけど、彼はまだ水温を測り続け、釣りを楽しんでいることでしょう。


ちなみに、日本近海の表層水温は、今回のようにNOAAの衛星データを利用することで私たちも観ることができます。
https://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/KAIYO/qboc/satellite/indexnoaa.html
(↑↑は海上保安庁の転載サイト)

日本の湖までは細かく見ることはできないですが、シーズン中の水温パターンと把握し、水温変化の激しいところを発見できれば釣果は上がるのかもしれませんね。

明日は、スティールヘッド特集の最終日ということで、スティールヘッドを含めたサケマスの仲間たちの遊泳能力を整理したいと思います。
また次回お会いしましょう。


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