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【インタビュー】地域のネットワークを活かし、街と店舗を活性化:笹部書店 店主 笹部勝彦さん

大阪府豊中市の住宅街にあり、地域に根差した、アットホームな接客で知られる笹部書店。絵本の読み聞かせ会をはじめ、多くのイベントで集客を図り、地域の憩いの場となっている。外商や他店とのネットワークにも力を入れ、「街の書店」として奮闘する店主の笹部勝彦さんにお話を聞いた。

「輪・和・笑」がコンセプトの“地域の寄り合い所”

――店舗があるのは住宅地の中の商店街ですね。

北大阪急行南北線の千里中央駅より歩いて10分ほどの場所になります。周辺の千里ニュータウンは建設から50年が経ち、再開発が進んでいます。住民もようやく若い層が増えてきました。

――お店のコンセプトは「輪・和・笑(わ・わ・わ)」だそうですね。楽しそうな雰囲気が伝わってきます。

地元の寄り合い所みたいな、ちょっと変わった店です。

地域の輪の場所となり、和をもたらし、笑顔となる。街のたまり場となるような店を目指しており、品揃えも女性や子ども、高齢者向けに特化しています。店頭にない商品はNOCSで取り寄せますが、みなさん「新聞で見たこの本が欲しい」など気軽に注文してくれます。ただそれだけでは成り立たないので、外商にも力を入れています。

――早くからパンコーナーを設置した、カフェスペースのある書店として知られています。

昔は店舗の真ん中にも島什器を置いた普通の本屋でしたが、それを取っ払ってカフェスペースにしています。パンコーナーでは地元の手作りのお店から、無添加のパンを取り寄せて販売しています。

当店は敷地自体が17坪くらいしかないので、テーブルが3つ、椅子は6脚しかありません。来店されたお客様に私が声をかけていると「ほな、コーヒー淹れて」と腰を落ち着けてくれます。その間によそのグループにもまた声をかけて、今度はそのグループ同士がおしゃべりを始める。そうすると、地域の輪が広がっていきますね。

ママさんバンド

読み聞かせ会のあとにはママさんバンドの演奏を楽しむ企画も。
近くにある高校の吹奏楽部にも演奏会の場を提供している

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地産地消の取り組みとして、新鮮無農薬野菜の販売も行う

事業者共催イベントを開催し、知名度アップへ

――事業者同士でもネットワークを広げていらっしゃるそうですね。

meet-upとよなかという豊中市の事業者が集まる団体で、地域を盛り上げようと「まちゼミ」や交流イベントを開催しています。

「まちゼミ(得する街のゼミナール)」は愛知県岡崎市が発祥で、いまでは全国各地の市町村で行われているコミュニケーション事業です。meet-upとよなかは7、8年前に立ちあげましたが、発足時の代表を私がやり、いまは輪番で、毎年いろんな事業者の人に代表を務めてもらっています。

――どのような活動をしているのですか?

豊中市全域で「【まちゼミ】とよなか探店隊」を開催しています。参加店の店主やスタッフが講師となって、カメラ講座や美容セミナーなどプロの技を教えるようなワークショップを行うイベントです。

今年も9月15日から1か月間にわたって開催するのですが、新型コロナ感染拡大防止の観点から、ステイホームでも楽しめるオンライン中心の講座となっています。

――さまざまな店舗が集まることで、注目度も高まりそうですね。

イベントの告知には、図書館や商業施設にポスターを貼ったり、ポスティングやタウン誌に広告を出したりといろいろなツールを模索しています。しかし、口コミに勝るものはないというのが実感です。実際にアンケートを取ってみると、「ほかのお店からの紹介」という回答がもっとも多いのです。

市内に参加店が50店舗くらいあり、それぞれのお店が、例えば本を探しているお客様には「笹部書店に行ってみたら」と紹介してくれます。それが一番の宣伝になります。

――お客様に足を運んでもらう、大きなきっかけになりますね。

誰でも「初めてのお店は入りにくい」という気持ちがあると思いますが、1回入ってみれば様子がわかります。「まちゼミ」の開催には、その店や店主の人となりを知ってもらいたいという思いがあります。講座をきっかけにすることで「初めてのお店」という敷居が下がり、自店のファンになってもらえるかもしれない。そのためにもまずは一歩踏み入れてもらうことが大事かなと思っています。

おこずかい

2019年のまちゼミでは、「小学生のおこづかいちょう教室」を開催

――meet-upとよなかには、ほかの書店さんも参加されているのですか?

外商だけのお店が1軒参加しています。同業だからと敬遠するのではなく、仲間として一緒にやっていこうと。

関西日販会でもそういう取り組みができないかなと考えています。ちなみに私は関西日販会では「楽しもう会」という遊び担当なので、みんなで釣りに行ったり、レーシングカートの大会を開催したりしています。

カート大会では書店・取次・版元がそれぞれひとつのチームになって、耐久レースをしました。仕事では、自店の担当以外の人とはなかなか知り合うきっかけがないですが、わいわい言いながら一緒に遊ぶことであっという間に仲良くなれますし、いろいろな立場の人の多様な意見を聞くことができます。

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関西日販会で開催した耐久カートレースのようす

情報共有しやすい土壌を生かし、街と本屋を盛り上げたい

――外商のほか、薬局と本屋を融合させた店舗として注目を集めている「ページ薬局」など、他書店への商品手配もされているそうですね。

ほかにも絵本屋さん、絵本バー、古書店などにも卸しています。物量が少ない場合は、商品を当店留めにして、私が配達しています。

――書店が減ってきている中、書店以外の「本を置く店」が増えていることについてはどのようにお考えですか。

本を好きな人、読みたい人は本屋に来てくれますが、本に興味のない、本屋に足を運ばない人も増えているでしょう。そういう人もたまたま病院の横にある調剤薬局に本屋が併設されていることで、本を手に取るきっかけになっているという話は聞いています。本屋に来ていない層の掘り起しになっているのではないでしょうか。

先日も、ある患者さんのご家族が処方箋を取りに来られた際に、「(患者さんから)あの薬局には本が置いてあるから、孫たちに絵本を買ってくれ」と言われてたくさんお買い求めになられたそうです。その直後にその方は亡くなられてしまったので、「このお店のおかげで最後に孫にいいプレゼントができました」との言葉をもらったと、薬剤師さんたちから聞きました。

――「本を届ける場所」が形を変えることで、これまでとは違った読者にリーチできるということですね。

それがいま一番の課題です。逆に本屋も、本以外のもう少し利益を確保できる商材を入れていかないと難しいと思っています。

いわゆる昔ながらの街の本屋は少なくなってきていますが、一方で大型店に比べてフットワークは軽いので、挑戦はしやすいはず。コロナ禍のいまは、できることが限られるというのが目下の悩みです。

私は子どもの学校のPTA会長もやっているのですが、今年は行事や夏のお祭りもなくて、子どもたちも楽しみが少ない状況です。そこで、キャンドルナイトを校庭で実施しようと考えています。夢というキーワードを設けて、コメントを書いてもらったコップを校庭に並べて、ウォークスルー形式にしようと考えています。

――お店でもさまざまなイベントを開催されていますが、そういったアイデアはどこから?

キャンドルナイトは、隣の小学校にイベントが得意な会長がいて、その企画のパクリです(笑)。来月その小学校で開催されるので、「手伝いに行く」という名目でやり方を盗んできます。

本屋でも同じで、イベントも他所がやっているものをまるっとマネするのも一つの手。私もよくやります。ほかの本屋さんが当店を見学に来られて、同様のイベントをされていることもあります。

――包み隠さず、みなさんで情報を共有していると。

本屋はそれがしやすい土壌がありますよね。いろんなお客様がいらっしゃいますので、そこでネットワークを築いて、いろいろな方向に波及させることで、少しでも街や本の業界を盛り上げていければと思っています。

ミニ絵本をつくってみよう

「ミニ絵本を作ってみよう」など工作系のイベントは大盛況

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店舗入り口で「おしりたんてい」を手に取る笹部さんと子どもたち。
長年、読み聞かせ会を開催しており、子どもたちとの距離も近い

店舗外観

笹部書店
〒560-0083 大阪府豊中市新千里西町3-2-3  
TEL 06(6872)9385 
営業時間 10:00~20:00(定休日:日曜日) 
http://www.sasabe-shoten.net/ 

(8月4日取材 本誌編集部・猪越)






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