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コロナの時代を生きる~Part3 日販はその時、どう動いたか

出版流通は止めない! 休業店、雑誌の発売変更などに対応

1)日販全体の対策概要

新型コロナウイルス感染防止対策について、日販は3月2日、取引先との商談や会合などは先方と相談の上、当面の間は時期を延期してメールや電話などを中心とする対応に移行すると発表した。テレワークや時差出勤、リモート会議などを推進して会社への出社を抑制。出社時もマスクの着用とソーシャルディスタンシングの確保を義務付け、予防を徹底したことに加えて、社内相談窓口も設置した。対外的にコロナ対策を発表するのはこの時が初めて。

さらに、取引先などとの面談が必要な場合は、事前に検温して37.5度未満であることを確認した上で、マスクの着用を義務付けて、面談を許可した。
これらの対策と同時に、「パンのフェス2020春 in横浜赤レンガ」(3月6~8日)や「文具女子博petit仙台」(3月20~22日)といった日販関連のイベントのほか、新年度のスタートの際に日販施策を取引先幹部に説明する「日販懇話会」の延期・中止を決めた。

3月24、25日には小池都知事によるロックダウン発言や外出自粛の要請が出され、日本全国が一気に緊迫したムードに急変。その後の4月7日には政府が緊急事態宣言を発出し、商業施設や飲食店、小売店などの多くの経済活動が縮小・休止を余儀なくされた。緊急事態宣言中は延べ約650店舗の取引先が臨時休業に追い込まれた。

そうした中、日販の物流センターでは取引書店の営業状況に対応しつつ、業務の継続を宣言。今日まで出版物流を止めることなく安定供給を続けることに努めた。

緊急事態宣言解除後は、取引先や地域の状況に応じて、取引先と相談の上、順次面談を再開。今後も当面の間、マスク着用・アルコール消毒などの予防行為を徹底するとともに、在宅勤務・時差出勤・リモート会議などを引き続き活用している。

書籍業務② (1)

書籍送品の現場でも密集を避けて作業を継続

2)物流部門の対応

日販および日販グループの物流部門には送品・返品全体で約3千人もの従業員が働いている。出版流通を維持しつつ従業員の感染を防ぐために、緊急事態宣言の発出前となる3月から順次、入館者全員を対象とした検温の実施、マスク着用の義務化、密集を避けるための現場レイアウトの改善、事務所の分散化など、考えうる手立てを実行に移した。

また、4月に入ってからは、緊急事態宣言の発出で出版社からの搬入休止や新刊商品の減少、さらには取引書店の休業など、通常とは異なる状況が生じたものの、運送会社の協力も得て、柔軟に対応することができた。

その一方で、4月中旬からは巣ごもり需要としてあらゆる商材の通販需要が高まる中、出版物のネット販売も前年を大きく上回り、出荷作業や宅配便配送のキャパシティを超える業量が続き、現場はひっ迫していた。

このような不安定な供給・需要のバランスの中で、いかに「物流を止めずに出版流通を維持し続けるか」を迫られた。幸いにも今日まで、物流を止めることなく業務を継続できている。緊急事態宣言が解除された現在においては、第二波が到来しても、安定した供給を維持するために、今回の一連の対応を総括しているところである。

王子センター入り口検温

感染拡大防止のため、王子流通センター入口では検温を実施

王子現場⑦(マスク姿の作業者)

マスク着用を義務化し、出版流通を維持しつつ従業員の感染を防止

3)仕入部の対応

仕入部では3月31日、4月1日から順次対面での仕入受付を休止する案内を出版社にメールで配信。4月上旬には対面での受付はほぼ無くなった。出版社からは「来社に伴う移動時の感染リスクを防止できる」「お互いの感染リスクを考慮して、賛成・やむを得ない」との反応がほとんどだった。

また、日販の施策などで協力をいただいている出版社との「打ち合わせ」などにおいても、雑誌仕入に関しては3月31日に個別に出版社に連絡し、4月から休止。書籍仕入、コミック仕入においても3月から休止した。こうした対応にも出版社からは「致し方ない」と理解を得られた。

付録製作の遅延や編集業務の停滞による、雑誌の発売延期・中止などで発売点数が大きく減る中、注目銘柄の送品数を増やす「PremierM」のスポット展開、10ジャンルの上位3銘柄を週次で欠品発注する「ムックBest30」、基本在庫300位の商品の重版交渉を出版社と行う「ムック重版基本在庫300」の施策を推進して、店頭への商品供給に努めた。

緊急事態宣言解除後の6月22日現在では、雑誌とコミックの対面受付の再開は未定。書籍は基本的にメール・郵送での仕入受付を継続するものの、対面での交渉は一部再開する。ただし、感染リスクを抑制する観点から対面による仕入受付は減らしていく方向。出版社側でも郵送による受付を希望する声もあるため、コロナ以前の状態には戻さない考えだ。

日販施策に協力する出版社との「打ち合わせ」などについては、「新型コロナが落ち着いたら再開したい」という出版社の要望もあり、WEB会議やメールなどインターネットツールを活用した方法を両者で検討しながら、6月後半から徐々に再開していく。

4)営業部門の対応

各支社・支店(営業所)では、すでに3月からメールや電話などでの商品情報の提供や業務連絡といった営業活動に移行しており、緊急事態宣言発出後も、その対応を継続。

書店様に対しては各店舗の営業状況のほか、荷受可否の情報に応じて、商品の品止めや配送の継続などについて情報収集し、対処。営業を継続された書店様においては、巣ごもり需要によって客数・客単価が伸長、その中でリリーフAの導入店には在庫補充時の補充数を倍増する施策を実施し、店頭のバックアップに尽力した。

休業店に対しては、同一チェーン内の休業店の配本を営業継続店に配本修正するなど、要望に応じて対応。商品の配送後に止む無く休業となった場合は、商品を引き上げ、返品処理を行うなどケースバイケースで対処した。営業再開に向けては、開始日時を確認し、円滑に商品の出荷再開が行えるよう書店様と連携した。

このほか、書店様への支援策として、PARTNERS契約の条件緩和などを決めた。また、日本出版共済会では年会費を半額にし、全加入店舗に感染症対策支援金を給付した。

5)書店店頭の状況

書店店頭の影響については、緊急事態宣言中に多くの取引先が臨時休業を余儀なくされたため、特に4月期は店頭売上前年比調査が前年同期比6.1%減となった。しかし、2020年4月以降に休業せずに営業を継続した店舗では同15.3%増と大幅に前年を上回った。

5月期は多くの休業店が営業を再開し、調査対象店の内、休業店の割合は3%にまで減少。その結果、店頭売上は同11.2%増と大きく回復。2008年7月の集計開始以来、初めて2桁増となった。

ジャンル別にみると、コミックや児童書、学習参考書が好調だった。コミックは5月に最新巻が発売された「鬼滅の刃」、学習参考書は小中学校などの一斉休校に伴う学習ドリルなどの需要増が要因。児童書も、同様に在宅時間が増えた子どもに対する需要が増加したことが要因とみられる。

(構成 本誌編集部・諸山)

※本稿の内容は2020年6月22日現在です。



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