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出版流通改革が目指す姿

安西副社長1

日販 取締役副社長 流通改革責任者 安西浩和

出版流通改革の必要性

まずは、いま出版流通で何が起きているのか、そのFACTを確認した上で、出版流通改革(図1)の必要性について説明させていただきます。その後に出版流通改革の具体的な内容として、「取次努力のコスト削減」の状況と、「サプライチェーン改革」、「取引構造改革」について述べさせていただきます。

01_奥村社長Part図2

いま出版業界では、雑誌の売上減が大きな打撃となり、取次会社は赤字に転落しています。さらに、市場の縮小により、流通効率は悪化し、本を全国へ届け続けることが難しくなってきています。流通量が減少し、書店様の店舗数も減っている中では、1店舗当たりの荷物は小さくなり、出版流通の効率が悪くなるからです。

弊社が毎年支払っている運賃実額の推移をみますと、2013年までは送品量の減少に連動して減っていました。しかし、2014年以降は横ばい、近年には上昇に転じています。2019年の1冊あたりの運賃は、2014年と比べて1.5倍になっているのです。この上昇傾向は今後も続いていきます。

02_②安西副社長Part図2(0925修正)

図2の日本地図のプロットは、運賃の構成比が高く、赤字になっている地区です。首都圏から遠い地区を中心に、運賃が高くなりますので、効率が悪くなっており、全国に本を届けることが難しくなっています。なぜ、このようなことが問題になっているのか、その背景を、もう少し詳しく説明します。

日本の物流業界全体は、①少子高齢化による労働力不足、②コンビニやECの定着・拡大による輸送上の小口化・多頻度化、③コンプライアンス遵守による働き方改革――の3つの課題を抱えています。また、他産業と比べて労働条件に恵まれていないため、ドライバー不足が深刻化している状況にあります。この事態を受けて国も動いています。国民生活や産業活動に必要な物流を安定的に確保するとともに経済の成長に寄与することを目的に、政府は「ホワイト物流」推進運動を展開しています。また、国土交通省と厚生労働省も連携して、ドライバーの処遇改善のための長時間労働の是正や、賃金アップを輸送業界に求めました。

出版流通の運賃はまだ安い

日本の全業種の物流のなかでも、出版流通の運賃は安いと言われています。書籍が35~36冊入る弊社の段ボール一箱を宅配便で首都圏から送る場合、全国平均で約2,000円かかります。しかし、我々の出版流通だと、全国平均460円です。宅配便もBtoBではボリュームディスカウントなどがありますので、仮にこの7掛けだったとしても、出版流通の運賃はその3分の1程度です。これだけ安いのは、取次会社が相乗りして構築した「共同配送」という物流の仕組みがあるからです。

その出版流通を下支えしてくれているのが運送会社様です。しかし、昨今は「ドライバーの処遇改善」という社会全体の動きと、市場縮小による「流通効率の悪化」が相まった結果、荷主へ運賃の値上げを要請せざるを得ない事態に陥っています。

こうした中、高知県ではコンビニエンスストア(CVS)様の配送から運送会社様が撤退されました。書店様への配送運賃も値上げがあり、CVS様への配送は宅配便に変更したことで、高知県は沖縄県よりも運賃効率が悪化しました。同じようなことが全国の至る所で起きる可能性があるということです。

出版流通改革の構造

(1)取次努力のコスト削減

ここから出版流通改革について、3つにわけてご説明します。1つ目は、取次会社の自助努力によるコスト削減です。弊社の売上高はピークから見ると半減していますが、ピーク時の流通センターなどの設備の大半は廃止することなく残っています。ここにメスを入れていくということです。この10月に弊社の雑誌の送品拠点を3拠点から2拠点へ集約します。主に週刊誌を取り扱っていた入谷営業所を廃止し、ねりま流通センターと浮間のCVS営業所の2拠点体制といたします。

02_②安西副社長Part入谷(0925修正)

取次会社同士もこれまでさまざまな共同事業を行ってきましたが、ついにトーハン様との協業が11月から始まります。2020年度中に、トーハン様の東京ロジスティックスセンターの雑誌返品作業を出版共同流通の蓮田センターに段階的に移管していきます。今後も競争領域に踏み込まない範囲で協業を進め、業界のコスト削減に努めてまいります。

(2)サプライチェーン改革

2つ目のサプライチェーン改革は、将来にわたって出版物を全国に届け続けるためのベースをつくり直すという話です。業界全体のコストを削減するために、さまざまなインフラ、ルール、慣習といったものを見直すことになりますので、一企業だけの話ではなく、業界全体のことと認識しています。

これを進める上で重要な観点は2つあります。ルールを変えること、そしてパートナーを広げることです。

出版業界の特徴的なルールとして、「発売日がある」、「店着時間が決まっている」、「首都圏から全国へ送っている」といったことが挙げられます。

02_②安西副社長Part図3(0925修正)

もう少し詳述したのが図3です。配送日数を減らすことで週休2日を実現するということです。それは同時に1日の荷物の量の凹凸をならしていくことでもあります。合わせて、荷物の到着時間に幅を持たせ余裕のある配送によってコストを落としていきたいと考えています。発売日、配送日数、発売時間に関わりがあることなので、書店様にもご協力をいただきながら進めたいと考えています。

続いて、休配日についてです。1992年の、2日間の土曜日休配がその始まりでした。それ以降は増えていませんが、2017年度から十数日に拡大し、2020年度には27日という所にまできました。コスト削減の面だけでなく、コンプライアンスの観点からも、皆様に御礼申し上げます。今後も出版社様のご協力をいただきながら、進めていきたいと思います。

パートナーを広げるという意味では、新聞輸送やCVSのチェーン便との共同配送にもチャレンジしています。すでに北海道においてセコマグループと取り組んでいますが、出版業界の特徴的なルールが足かせになって北海道全域の流通効率改善という所にまで辿りついていないのが現状です。ここについては、諦めずにチャレンジしていきます。

先ほどのルールの話の中で、「首都圏から全国へ配送する」という点に触れていませんでした。出版物の大半は首都圏でつくられ、全国へ送っています。首都圏から配送する距離が長くなると、運賃は上がります。それでも再販制度のもと、全国津々浦々に同じ価格で運び続けているというのが出版流通であります。見方を変えますと、全国同一価格という再販制度を陰から支えてきたのは、この出版流通です。これからは、その定価の設定についてどう考えるか、ということかもしれません。

(3)取引構造改革

最後に取引構造改革です。コストを公平に配分するという話です。何よりもまず取次会社は、流通コストの実態を明らかにし、それを皆様に納得していただいたうえでコスト配分へと話を進めるのが第一義だと考えます。これは毎年、業界三者が交渉して決めるのではなく、仕組み化・ルール化をして、流通コストを三者で公平に配分することが基本と考えます。さらに、コストそのものが変化する局面もあると思います。コストの上昇分を定価の見直しに反映していくような流れを構築することができればいいのではないかと思います。

業界三者のビジネスが成立する定価設定を

仮に1冊の本の流通を見た場合に、1冊の定価、すなわち売上よりも、今は業界三者のコストの合計が上回っているというのが実態だと思います(図4)。上昇コスト分をまかなうためにどのようにトップラインを上げるか、そこがビジネス成立の課題だと思っています。

02_②安西副社長Partzu4(0925修正)

運送会社様からの運賃値上げ要請は、取次会社のマージンでは抱えきれない水準にきています。一般的に、コストの上昇はメーカーが価格に転嫁して解決していくものです。すべてのプレーヤー、全点数、全冊数に、納得あるコストが配分されている状態を目指したいです。取次会社でできる自助努力はやり切ります。そのうえで、時代に合わないルールを変えることができないか、皆様と一緒に考えていきたいです。

それでもなお、カバーできない業界のコストについては、出版社様と、業界三者のビジネスが成立するよう議論していきます。今後、電子など、出版物のかたちが変わったり、ECや直取引などルートが多様化したりしても、そのコンテンツの重要性が損なわれることはありません。出版物が、さまざまな手段で流通されることが、出版文化の発展・繁栄につながると考えています。

その中でも、我々は、紙の本を書店様に届けることにこだわってまいります。我々の提供する新たな出版物の流通を選んでいただけるように、対価に見合う価値を創出してまいります。

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