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コロナの時代を生きる~Part1 積文館書店① 新型コロナ対策本部事務局 松尾正太郎氏

積文館書店、滞在時間制限で店内の3密を解消 八女店で実証実験

積文館書店は4月25・26日の土日両日、店舗内の3密(密集・密接・密閉)状態を解消するために、時短営業に切り替えていた八女店(福岡県八女市)をモデル店として、店内への入場と滞在時間を制限する実証実験を行った。

新型コロナウイルスの感染拡大を防止し、お客様に安心して店舗を利用していただくことが目的だ。

緊急事態宣言発令以降、同店では土・日曜日の来店客数が倍増となるほどお客様が殺到。そのため、書籍・雑誌とレンタル売場においては顧客の3密状態が発生してしまっていたという。

実験では、店内の定員を120人に設定するのと同時に、滞在時間を30分以内と来店客に告知。結果、書籍・雑誌の売上は前週の土・日曜日とほぼ変わらない上、「安心して利用できる」などと、多くの来店客から好意的な声が寄せられたという。

同書店の新型コロナ対策本部事務局の松尾正太郎氏は「店内滞在時間を30分としたことで、お客様の滞在時間に対する意識が変わり、両日とも入店制限にまでは至らなかった。店内の3密状態もほぼ解消できた。お客様からのクレームもなく協力的で、この取り組みの成果は5月の大型連休前から他店にも広げている」と総括。

「BGMを中止して店内放送などで30分と具体的に滞在時間をお示ししたことが、3密解消につながったと理解している。新型コロナには長期的に取り組む必要がある。弊社でも終息までの期間を見据えて消毒液などを確保している。今後も、お客様に安全な場を提供できるよう、他の小売店の動向も見ながら継続的に対策を打ち出していきたい」と気を引き締める。

安全を最優先に、感染を発生させない・持ち込まない体制を構築

積文館書店(全33店)は、4月7日に政府が新型コロナウイルス感染拡大防止のために発出した緊急事態宣言を受けて、翌8日以降から順次、特定警戒地域の福岡県内の7店舗を休業し、さらに福岡・佐賀・山口の3県の11店舗で時短営業に移行した。

それに先立つ3月31日には、「お客様と従業員の安全を最優先に、感染を発生させない・持ち込まない体制を構築する」ことを目的として、
①レジ待ちのスペースの床に距離の目安となるサインを設置し、ソーシャルディスタンシングを確保
②レジカウンターで客と従業員の間に透明の間仕切りを設置
③カフェスペースの座席を間引きし、席の間隔を確保
④入口ドアを開放して換気
⑤現金の受け渡しは「コイントレー」を活用
⑥お客様用アルコール消毒液の設置
などの対策を次々と決定し、店舗に導入。

スタッフに対しても、
①出勤前に検温し、37.5度以上、または熱がなくとも体調不良・違和感がある時は出勤停止
②業務中はマスクを着用
③多頻度での手洗い・消毒、うがいの励行
④レジまわりなど手が触れる場所の小まめな消毒

といったルールを定め、徹底していった。

こうした数々の対応策は、周囲のスーパーマーケットなど他業種の取り組み状況も参考にし、最近では「従業員の手袋の着用」を加えるなど、日々、新たな対応策に取り組んでいるという。

その新たな対応策の一つとして取り組んだのが、今回の八女店での実証実験だ。

実験店は八女店、小田部店(福岡市早良区)、大野城店(福岡県大野城市)の3店舗を候補に検討していたが、レンタルや文具、カフェなどを複合し、広範囲からさまざまな客層が集まる八女店を対象に決めた。近隣の学校や商業施設の休業もあり通常よりも来店客が増えたことにより、従来の対策だけでは現場スタッフも心配するほどの3密状態だったという。

具体的な実施方法は、3か所ある入口の2つを封鎖して1か所に集中。店内定員は最大120人、店外の行列は最大100人と設定して入店制限に備えた。

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店内定員は売場全体(480坪)のうち50%を什器スペースとして、残りの坪数のうち一人当たり4メートル間隔のスペースを有すると仮定し、最大定員を109人と算出。これにカフェの収容人数を加えた120人を定員とした。

店外は入口近辺のスペースの制約により、1メートル間隔で1列約50メートルとして最大2列、合計100人までの行列を上限とした。

入店制限を告知するために、「入店制限実施中」と記した掲示物を、駐車場入口や店外壁面、店内などに掲出。さらに駐車場の警備や入口でのアナウンスと人数のカウントなど、お客様に対応する人員として1日に警備員4人とスタッフ5人の合計9人を用意。実験のため人数は多めに見積もったが、実際には入店制限に至らなかったため、1日合計3人で対応できたという。

加えて、店内ではBGMを中止し、「当店では新型コロナウイルス感染拡大防止の為、入店制限を実施しております。店内滞在時間30分を目安としてご協力をお願いいたします」といったアナウンスを、時間を空けて繰り返し流した。

入場規制を店外で告知

3密を解消しながらも売上は維持・増加

2日間にわたる実験の結果、25日(土)の全体売上は前週同日比で91.6%となったが、書籍・雑誌の売上は同103.2%と上回った。減少の要因はセルCD・DVDが振るわなかった上、レンタルおよび文具・雑貨が落ち込んだため。26日(日)は文具・雑貨やレンタルは減少したが、全体売上は同112.2%。書籍・雑誌も同124.5%となった。書籍・雑誌に関していえば、入場と滞在時間を制限して3密を解消しながら売上も維持・増加させており、今回の実験では確かな成果を上げたといえる。

レンタルにおいては、売上は市況トレンドと同様に減少してはいるが、現状では3密を解消できたことの方が顧客へのメリットは大きいといえるだろう。来店客からもこうした取り組みに「ここまでしてくれるなら、安心して利用できる」「他店がやっていないのにすごいね」などと評価する声が寄せられており、顧客の安心度を高めることができた。さらに、スタッフからも「3密が解消されて、不安もある程度軽減された」と安全な職場環境の確保も一歩ずつ前進している。

松尾氏は今回の実験について、「入店数や滞在時間を制限することで、お客様からお叱りを受けるかもしれないと懸念していた。しかし、蓋を開けると、ほとんどのお客様からは好意的なご意見をいただけた。今回は、お客様の滞在時間の減少により、店内は最大で90人くらいと定員に達することがなかった。厳密にいえば、入店制限は実施する必要はなかったのかもしれない。今は成果のあった滞在時間の制限を他店へ広げている。その手法として店内放送と告知の強化で効果が出るのかを検証している」と語る。

そのほかにも、八女店ではレジに行列する際に、一人ひとりの距離を確保できるスペースが十分ではなかったことも反省点とし、レジ周辺のフェア台などの什器を撤去して、距離を保って行列できるスペースを確保したという。

緊急事態宣言は5月末まで延長されたが、同宣言の解除後も小売店での3密回避の販売方法は継続されつつ、小売販売の「新常態」(ニューノーマル)に向けて変化していく可能性もある。そうした時代に生き残るためにも、多くの書店がこれらの対策を確実に実施して、書店と顧客との信頼関係をこれまで以上に強固なものにしていくことが大事なのではないだろうか。

(5月7日取材 本誌編集部・諸山)

その後の積文館書店の対応についてはこちら》

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