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坂本の骨折離脱で甦った2008年の記憶と、巨人ファンとして持っておきたい矜持の話

 坂本勇人選手、衝撃の離脱――。

 5月9日対東京ヤクルトスワローズ戦の5回裏、四球で出塁した坂本選手が牽制で頭から塁に戻った際、苦悶の表情を浮かべ手袋を外しました。

 観た瞬間にやばそうだとわかる顔をしていたのですが、ベンチに下がらずプレー続行。一時は安心しましたが次の守りで退き、そのまま病院へ向かって親指の骨折と診断されました。

 ベースに手を突いた際の骨折というのはたまに起こる事でして、記憶に残っている限りでは2018年に吉川尚輝選手が一塁へヘッドスライディングで手首を折り、2013年にはジョン・ボウカー選手が三塁ベースへ帰塁した際にこれまた指を骨折と、起こり得ない事故ではないんですよ。

 とはいえ今回は読売ジャイアンツのキャプテンにして主力打者であり不動の遊撃手であった坂本選手の離脱でありますから、ショックも人一倍なわけです。

 巨人は現在首位の阪神タイガースに3.0ゲーム差の2位。まだ3ゲーム差といえど今季の阪神はとても強く、またやっている野球も正直巨人とは比べ物にならないほど上手い。ゲーム差以上の実力を感じているんですよ。

 しかし坂本選手離脱から3試合、巨人はまだ一度も負けていません。もちろん3試合なのでこれから坂本選手不在の影響は出てくるでしょうが、離脱した試合では岡本和真選手が自身初の逆転サヨナラホームラン、翌週火曜にはこれまた9回に若林晃弘選手が決勝ホームラン、本日はまたまた9回に岡本選手が9回表ツーアウトから起死回生の同点ツーランホームランを放り込むなど粘り強い戦いを続けている。

岡本和真


 こういった20代選手達の活躍を見てると、なんだか昔の事を思い出しちゃいまして、今回はその話をさせていただきたいなと思っているんですけれども。

 メークレジェンド、またはVやねん!と聞けば思い出す方も多いでしょう。

 今から13年前の2008年、巨人は阪神相手に最大13.5ゲーム差をひっくり返す大逆転劇を成し遂げました。

 …と言えば皆様終盤の事を思い出すと思うのですが、最大13.5ゲーム差付いていたわけですから、当然シーズン中頃までチームの調子は良くなかった。

 何せ開幕から5連敗して借金を返せたのが6月の中頃、オフにヤクルトからアレックス・ラミレス選手とセス・グライシンガー投手、横浜ベイスターズからマーク・クルーン投手を補強したにも関わらずこの低迷ぶりでしたから、当時は他球団ファンからバカにされたのを覚えています(笑)

 まあそりゃあ補強した以上勝つのは当然であって、勝てなければ笑われる宿命にあるチーム…なのですが当時は若く、他球団ファンからの煽りにはすぐカッカしてましたね~(笑)

 しかも当時巨人は前年に5年振りの優勝をしたもののポストシーズンで中日ドラゴンズに負け日本シリーズにも行けず、「補強しても勝てない」というイメージが付きまとっていた。

 更に若手の育成というのも全然できていなくてですね、今も言われるっちゃ言われるんですが岡本選手が昨年ホームラン王を獲ったりしていて反論できる余地がある。でも当時はガチのマジで若手がいなかったんですよ。

 当時の生え抜きの主力といえば阿部慎之助選手、高橋由伸選手、上原浩治投手、二岡智宏選手。いずれも00年代の巨人を支えてきた名選手達でありますが、2008年当時は4人とも既にベテランの域に差し掛かっていた。

 阿部選手が唯一の20代の29歳だったわけですが早生まれなので実質30歳、二岡選手が32歳で高橋選手と上原投手は同学年なので33歳。これより下の世代がほとんど育っていなかったわけです。

 唯一当時26歳の内海哲也投手が頭角を表していたのですが、野手となると本当に全滅状態でして。矢野謙次選手が若手と呼ばれながら既に28歳、脇谷亮太選手が27歳、亀井義行(現善行)選手が26歳。でこの3人も伸び悩んでいたわけでありまして、選手層の空洞化が深刻化していました。

 やはりいかに補強しても、サブ戦力、若手戦力もバランス良く活躍しなければなかなか勝ってはいけないんですよ。主力選手がトータルでは打てても不調な時がありますし、長年出続けていれば故障を抱え長期離脱してしまう事だってある。

 そんな時、いかに下の世代が穴を埋め、レギュラーを奪うくらいの頑張りを見せるかが重要なんですね。

 2008年シーズンはこの問題が顕著に出たシーズンでもありまして、オープン戦で阿部選手が負傷し、開幕戦には戻れたのですがしばらく不調。

 更に開幕戦で二岡選手が肉離れを起こし早々に離脱し、前年1番打者として大活躍した高橋選手も持病の腰痛が悪化して夏場から長期間戦線離脱…。

 上原投手は開幕から絶不調に陥り二軍落ちするなど、これまでの主力が相次いで戦線離脱する緊急事態だったんですよ。

 今シーズンも似たような状況ですよね。なにせエースの菅野智之投手と坂本選手が両方怪我をして離脱しているわけですから。

 今季も2008年も、補強したとはいえ主力が離脱している状況では優勝できる戦力とは到底言えません。

 しかし逆に、巨人ではこういう状況をチャンスに変える若手が求められる。

 2008年開幕戦、怪我で離脱した二岡選手の代わりにショートを守ったのが、当時19歳の坂本選手でございました。

坂本勇人(2008年)


 以前にもお話ししたかもしれませんが、当時の坂本選手はセカンドで先発出場していました。

 前年二軍で高卒ルーキーながらそこそこの結果を残したのと一軍で初安打となる決勝タイムリーを放ったのが評価され、坂本選手はキャンプから一軍に帯同していました。

 当時の坂本選手は内角打ちがとても上手かった一方で外角はからっきし打てず、守備面でも範囲の広さは良かったものの送球技術に難点があり、更には体の線も細くてまだまだ発展途上の若手という感じ。

 オープン戦ではルイス・ゴンザレス選手、脇谷選手、木村拓哉選手とセカンド争いを演じて見事開幕スタメンを獲得。しかし当時はいつまでスタメンでいられるか…というような評価だったんですよね。

 実際坂本選手が打率3割を記録していたのは4月までで(まあ年齢を考えるとそれでも凄いんですが)、5月以降は確か.230台まで低迷。守備でも1試合2エラーを記録した試合などがあり、当時よく見ていた2ちゃんねる野球実況chの巨専スレでも叩かれまくっていた記憶があります。

 まあ2ちゃんってのはそういうとこですし、坂本選手も若かったとはいえ勝ち取ったというよりは使ってもらっていた感じだったので今となっては叩かれていたのもわかるのですが、当時は巨人では珍しい若さでスタメンを張っていたのもあって、僕としては絶対に悪口を言わないぞと誓っておりました。

 とは言え、いつ外されるかもわからない内容だったのは事実。

 ではなぜ坂本選手はこの年、シーズンCS日本シリーズ含めて全試合出場できたのか?

・練習の虫、坂本勇人

 原辰徳監督はこの年毎日のように「明日は坂本を外そう」と考えていたようなのですが、翌日坂本選手の練習を見ているとその日もまた使いたくなったと後に語っております。

 坂本選手って夜遊びが派手なイメージだったりわりとヤンチャなイメージがあると思うんですが、それと同時に彼ってかなり練習をする男でもあるみたいなんですよ。

 キャンプの時には途中高熱を出した日もあったようなのですが、ここで休んでは使ってもらえないと考えたのか隠して練習に参加したり、シーズン中は試合後でも誰よりも長く練習し帰るのはいつも最後。

 更に阿部選手や小笠原道大選手、オールスターでは井端弘和選手に技術論を聞きに行くなど積極的に取り入れようという姿勢を見せていた。当時19の若者が球界の名だたる選手に自分から教えを請いにいけただけでも凄いと思いますね。

 もちろん坂本選手が出続けられたのは他に対した対抗馬がいなかったのもあるんですが、なんつーかこういう練習熱心な若手がいたら気持ちが良いじゃないですか。原監督が外すのを躊躇ったのもわかりますよ。

 坂本選手は当時優勝の中心にいたわけではありません。なにせずっと8番打者でしたから。

 でも若手が1人でも一軍のレギュラーに食らいついてると、絶対に周りにも波及していくと思うんですよね。

 実際この年台頭したのは坂本選手だけではありませんでした。後に絶対的リリーフエースになる山口鉄也投手、越智大祐投手が頭角を表したのもこの年です。山口投手なんかこの年先発のピンチを火消ししまくったり中継ぎなのに二桁勝利を挙げて新人王にもなりましたからね。

山口鉄也


越智大祐


 更には若手だけではなく長年燻っていた鈴木尚広選手がシーズン途中から1番センターとして定着し活躍。真田裕貴とのトレードでやってきた鶴岡一成選手が二番手キャッチャーとして、阿部選手が五輪に召集された時や日本シリーズで肩を怪我した阿部選手が出れなかった時にマスクを被って活躍するなど良い働きを見せてくれたり。

鈴木尚広


鶴岡一成(巨人時代)


 他にも思い出したらキリないですが(笑)しかし2008年というシーズンはもちろんラミレス選手が打ってくれたりグライシンガー投手が勝ちまくってくれたりと補強が成功した面も大きいのですが、こういった若手や伏兵がいなければ阪神に追い付き追い越す事はおそらく不可能だったのかなと。

 前年の2007年は高橋選手が1番打者としてホームラン王争いしていましたし、二岡選手は5番打者として活躍。上原投手は守護神で完璧なピッチングを披露していました。それにイ・スンヨプ選手が4番打者として活躍していたり、木佐貫洋投手がローテに定着したり。この2人だって2008年には不調で一軍にいなくなってましたから、離脱が痛くないわけなかったんですよ。

 この穴を補強3選手で埋められるわけなかったので、やはりいろんな選手の活躍は当然ながら大事なんですよね。

 それを踏まえて、今巨人に必要なのは何かという話ですよ。

・今の巨人に必要な事

 坂本選手も、菅野投手も現在一軍にいません。しかしいないからといって優勝を諦めていいわけではないですよね。

 もちろん相手がいるスポーツですし、今年の阪神は強いので優勝できるとは限りません。それでも優勝を狙うのであれば、かつて坂本選手が二岡選手からレギュラーを奪ったように、その座を脅かすくらいの選手の台頭が必要なわけであります。

 幸いにも今の巨人は2008年よりも20代の有望選手が豊富です。現在坂本選手の代わりにショートを守っている吉川尚輝選手は火曜に若林選手に続く二者連続ホームランを放ちました。

 ヤクルトからトレード移籍した廣岡大志選手もショートのレギュラーを狙う若手選手の1人でありまして、今季既に2度決勝打を放つなど勝負強さが光っています。

吉川尚輝


廣岡大志


 ピッチャーでは高橋優貴投手が既に5勝を挙げるなど頑張っていますし、わかりやすい結果がなくても頑張ってる選手がたくさんいます。

 今の状況であれば本来絶望しかないはずなのですが、そんな中でも若手や20代後半の選手がちゃんと活躍してくれているのは凄く嬉しいですよね。

 やっぱ野球ってなんだかんだメンタルが大事なんですよ。もちろん技術やデータがあってこそのメンタルだとは思うのですが、主力が怪我などでいなくなってもサブの選手が頑張る。結果を出せなくても下を向かずにプレーするという一瞬一瞬の積み重ねが、やがて良いチームを作っていく。

 そういう光景を目にする年も、目にしない年もあるわけですが、少なくとも今年は20代選手の目は死んじゃあおりませんし、本当にレベルの高いチームになってるなあと、日本シリーズで荒みきった僕ですら(笑)そう思うくらいにはチームとして熟成されてきてるなという気がいたしますね。

 もちろん不満もたくさんありますし挙げていったらキリがないんですが(笑)しかし大きく負けていく事はないんじゃないかというぐらいには安定して戦えていますし、坂本菅野両選手が戻ってくるまで阪神に食らいついていってくれるだろうと信じております。

 2008年のように逆転できるかはわかりません。

 しかし、可能ではあると。そのぐらいには良いチームであると確信しておる次第です。

 そして、そうあってほしいという思いもある。

 坂本選手が怪我した時、Twitterでは阪神ファンの方々が大喜びされておりました。これに関して僕は批判するつもりはありません。諌めようという気持ちもありません。

 なぜなら巨人は主力の怪我程度では動じない、強いチームであると思いたいからです。僕も経験あるんですけど、煽られて怒るのは図星だからなんですよ。そりゃ坂本選手がいなかった不安ですし、そこを突かれたら怒る気持ちもわかる。

 僕だって坂本選手がいなくても大丈夫!なんてまったく思ってないですよ。しかし巨人ファンとして巨人というチームを信じたいですし、こういう時こそ余裕でいさせてほしい。

 読売巨人軍は日本で一番多く優勝しているチームであり、一番多く日本一になっているチームであります。

 そりゃバカな事もいっぱいしますし、失敗だって数えきれないほど見てきましたが(笑)最後にはちゃんと勝ってくれる。

 まあ2年連続で日本シリーズ4連敗してるんですが(笑)それでも選手達の目は死んでませんし、それどころかギラギラと目を輝かせながらプレーしているように見える。

 そういうチームだからこそ応援したくなる。

 だからこそ僕は、坂本選手の怪我で絶望したくない。したくないというか、見栄を張っていたい。それが巨人ファンの矜持であると思いますし、その見栄を現実の結果で見栄じゃなくしてくれる期待を巨人に持ち続けます。

 巨人軍の皆様、これからも頑張ってください。

 というところで今回は終わります。無観客期間も終わり、京セラ以外はまた観客が入れるようになりました。とはいえいつまた無観客、シーズン中止になるかわかりません。

 その難局でさえ乗りきってくれると信じたいものです。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。それではまた。


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