見出し画像

「印鑑レス」について考えてみたこと

GW明けくらいから「印鑑レス」について検討しろというお達しが偉い人から降ってきてしまい、日常業務と並行しながらひたすら二段の推定とか電子署名とかをひたすら調べまくってたので、このあたりで少し頭の整理をしようと思う。


1.二段の推定と電子署名法

よく電子署名と印鑑の違いとして、印鑑は判例と民訴法の組み合わせで二段の推定を働かせることができるが、電子署名には判例が存在しないため、電子署名法だけでは推定を働かせることはできないという指摘を見かける。

加えて、いくつかの団体から、クラウド型電子署名についても電子署名法の推定規定が適用されるように電子署名法を改正することの要望が出ているようである。

しかしながら、そもそも二段の推定は立証責任の転換もない推定であり、これだけで勝敗が決するほどの効果はないと考えられる。しかも、文書の成立の真正が争われるケースであれば、実際に文書の成立に疑義がある場合も多いだろうし、事実として本人が押していないのであれば、当然成立の真正は認められない。

一番大事なのは推定が働くかどうかじゃなくて、本当に第三者が冒用することを防げるシステムになっているかの方が大事だろう。

二段の推定が働かないというのは電子署名の導入を躊躇うほどの理由にはならない気がする。


2.商業登記法

印鑑といってもいろんな種類があり、実印とか認印とかいろいろあるのは知っていたが、これを機にちゃんと勉強しようと思い調べてみたところ、商業登記法にたどり着いた。

今まで真面目に読んだことはなかったが、商業登記法によれば、登記をするためには、①申請書類を書面で提出しなければならない②提出する書面には押印しなければならない③押印する印鑑は登記所に届け出なければならない④印鑑証明書の発行を請求することができると、完全に印鑑を前提としたシステムが構築されている。

そらみんな使うよね

個人的には商業登記に基づく電子認証制度に結構期待しているのだが、現実に利用されている気があまりしないのはやはり何らかの問題があるのだろうか

実印もそうだけど、行政機関が一元的に管理する認証制度がないと民間の認証機関が乱立して余計にコストがかかる気がする。

3.残された課題

利便性VS安全性

基本的には利便性と安全性はトレードオフの関係にあり、便利にするということは安全性を犠牲にすることにつながる。「印鑑よりも便利で同じくらい安全なものはありますか」と聞かれても「ない」と答えるしかない。

結局は、自分たちがどこまでリスクをとれるのかというスタンスを明らかにしないと印鑑をなくしていいかという問には答えられない。

契約前後のフロー

契約締結だけを電子化しても、その前後が電子化されていなければ効率化にはつながらない。例えば、契約前の交渉や営業を対面で行っているのに契約締結だけを電子化したところで大して効率化にはつながらない。

かといって、そこまでやろうとすると更に仕事が増えるので、どこまで風呂敷を広げるか悩ましいところである。

決裁ルール

法務をやっていると相手方が契約を反故にしてきたときにどうかということを考えがちなのだが、実際に電子署名を導入するのであれば、自分達も電子署名を利用することも考えなければならない。その時には、自社の決裁ルールを電子署名のフローに組み込めるかも検討しなければならない(法務の仕事じゃないかもしれないが)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?