オリオン座をあおぐ

夜は基本的に、心地のいいものだと思う。色んなものからすっぽり包み隠してくれる。すべてを柔らかく照らす陽光も良いけれど、やっぱり静かに寄り添ってくれる月光の方が私は好きだった。その真っ黒なカーテンで覆われたなかにいるときなら、素直になれる気がした。

今日、日が落ちて、空が真っ黒に染まったころに散歩を兼ねた買い物に出かけた。ふと、久しぶりに見上げた空には幾つもの星々がぽつりぽつりと輝いていて美しい。肩を並べた三つの星の、左上に赤く輝く‪α‬星のベテルギウス、その対格の右下には青く輝くβ星のリゲル。以前に調べたことを心の中で唱えながら上ばかり見ていたら、危うく電柱にぶつかるところだった。あぶなかった。
そうしていると、この冬ですっかり見慣れた三連星が記憶よりずっと西側にある事に気がついて、意外なところで季節の移ろいを感じた。そりゃあ四季で見える星座は違うのだから、言われてみればそうなのだけれど。体感として。

一見何も無いように見える夜空を眺める楽しさを見出すようになったのはついこの前秋を迎えてからのことだったのに、もう季節は二つも迎えてしまっていたことに驚きを隠せない。
思えば、巷でウイルスの話が溢れるようになってからもう随分きちんと外に出ていなかった。自宅待機期間だからそうするのが当然なのだけれど、こうも外に出ていないと精神的に塞ぎ込んでしまうから。久しぶりに出かけた先で見た、美しく晴れた夜空とぷかぷか浮かぶ星が頭から離れないのは仕方の無いことだ。すこし、寂しいことではあるけれど。

なんとなく寝付けなくてスマホをいじっていると、友だちから「歌を作った」というラインが届いた。送られた音源をすぐに再生する。すると、柔らかなギターの音と、こちらも柔らかな彼女の声が聞こえた。どこか陰がありながらも明るくて、それでいて爽やか過ぎない曲調はとても私好みで、正直驚いた。彼女が私よりギターも歌も上手いのは知っていたけれど、だからってこんなに綺麗なものがつくれるものなのか。少しの嫉妬と、羨望が入り交じった感情のまま、彼女に感想を伝えた。褒めるのに慣れていないから上手く伝えられた気はしないけど。
負けたなぁ、と思いつつも、こんなに綺麗な歌がつくれる彼女を、好きだなと思った。

綺麗なものは共有したかったから、上に書いた星の話を友達にもした。彼女は、へぇ、とそこまで興味も無さそうに返していたけれど、きっと自分で星が見つけられないのだ、と思った。彼女はあれでいて結構負けず嫌いなところがある。だから、素直に見つけ方を簡単に教えてあげた。私は優しい女なのだ。すると、彼女は「今度一緒にみつけよう」と素直に返した。季節の匂いだって感じ取れてしまう彼女にそう言われて、若干の優越感に浸る。
早く教えてあげたいな、と思った。

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