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卵巣セラピー②:甲状腺ホルモンと妊活

甲状腺ホルモン、およびその分泌をつかさどる甲状腺刺激ホルモン(TSH)と、妊娠の関係についてお話ししたいと思います。


甲状腺ホルモンとは


甲状腺は首の喉仏(のどぼとけ)の下にある、チョウチョウのような形の臓器です。ここから分泌されるホルモンが、甲状腺ホルモンです。そしてこのホルモンは、脳下垂体から分泌されるTSHによってコントロールされています。

甲状腺ホルモンは、一言で言えば、「元気の源ホルモン」です。

このホルモンが過剰に分泌される状態が、バセドウ病に代表される甲状腺機能亢進症です。「元気の源ホルモン」がたくさん分泌されるわけですから、じっとしていても発汗したり、心拍数が速くなって動悸が起きたり、イライラしたりします。

反対に、このホルモンの分泌が減少するのが橋本病に代表される甲状腺機能低下症です。元気にさせるホルモンが出なくなるわけですから、無気力になり、疲れやすく、眠気がしたり、ひどい場合にはうつ病になったりします。

橋本病は、別名慢性甲状腺炎と言われるように、甲状腺の炎症です。

そしてその炎症の正体は、免疫細胞が自分の甲状腺組織・細胞を、他人と間違えて攻撃してしまう自己免疫疾患です。


甲状腺ホルモンと妊活の関係


甲状腺ホルモンは、妊活との関係でもとても大切です。

「元気の源ホルモン」なのですから、卵巣の卵胞・卵子の成熟にも関わります。甲状腺ホルモンの分泌がアップすると、卵胞の成熟が早まり、生理周期が短くなります。

逆にこのホルモンの分泌が減少すると、卵胞の成熟が遅れ、低温期が長くなり、ひどい場合には無月経になります。

甲状腺ホルモンの状態は、その司令塔とも言える脳下垂体から分泌されるTSHがセンサーともなります。

TSHの値を厳格にコントロールすることによって、妊娠率が向上し、流産率が低下することが近年明らかになってきました。


妊活との関係でとくに注目されているのは、潜在性甲状腺機能低下症です。

潜在性甲状腺機能低下症の原因は橋本病と同じですが、症状が出ていない状態です。わかりやすく言うと、甲状腺ホルモンの値は正常なのですが、TSHが上昇している状態を指します。

甲状腺は正常にホルモンを分泌していますが、無理をしているのです。そのまま放置すれば、将来橋本病に移行してしまう可能性があります。糖尿病予備軍のような状態です。

健康な女性の4%〜8.5%が、潜在性甲状腺機能低下症という指摘もあります。不妊に悩む女性では、その率はさらに高くなります。

そして潜在性甲状腺機能低下症の女性のTSHを、細やかにコントロールすることで、妊娠率が上昇することが知られてきました。そのためにチラージンというお薬を用います。チラージンは、合成甲状腺製剤です。体の外からも、甲状腺ホルモンを補充するのです。


体外受精や顕微受精などの生殖補助医療(ART)を受ける方は、TSH<2.5μIU/mLとすることが、米国の内分泌学会から推奨されたことがきっかけで、日本の不妊診療でも、TSHのより厳密なコントロールがおこなわれるようになりました。

内科の基準値よりさらにTSHの上限を厳しくしてコントロールすることで、よりよい妊娠環境ができるのです。そのためにチラージンを用いるわけです。

甲状腺のホルモンチェックは、一般的にTSH、F-T4(フリーT4)、F-T3(F-T4、F-T3は、2種類の甲状腺ホルモン)の3点セットでおこないます。ホルモン異常が認められる場合は、甲状腺超音波検査や、自己免疫抗体のチェックなどが必要となります。


(潜在性)甲状腺機能低下症の女性が妊娠に至った場合、妊娠後も甲状腺ホルモンの補充は必要です。

なぜなら、妊娠すると母体はより多くの甲状腺ホルモンを必要とするからです。胎児の成長には甲状腺ホルモンが必要不可欠なのです。

したがって、妊娠17週くらいまでは補充しなければなりません。それ以降は胎児の甲状腺からホルモンが分泌されるようになります。

また橋本病の女性や、潜在性甲状腺機能低下症でも、自己抗体陽性の人は、流産のリスクが自己抗体陰性の人より高いので、細やかな甲状腺ホルモンの補充、モニタリングが大切です。


「不妊ルーム」こう対応しています


不妊ルーム」では、甲状腺と不妊症との密接な関係が明らかになったことを受けて、より一層内科的なアプローチを進めてきました。

さらに甲状腺専門病院とのコラボレーションによって、妊娠される方が増えてきました。

私は最近、不妊症というのは本当に婦人科だけの病気なのだろうか?と、疑問を感じます。

婦人科で不妊診療をおこないながら、甲状腺ホルモンに注意を払わない医師も少なくありません。

これからも内科的なフォローアップをさらに強化することによって、ひとりでも多くの方が「不妊ルーム」で妊娠されるよう、努力していきたいと思っています。


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