シンクロ率という発明。【アニメの話】

「シンクロ率」は画期的なシステム。

※もう古い作品の意見論評ですが、ネタバレ注意
旧アニメ版エヴァンゲリオンには、「シンクロ率」という概念があります。
これが非常に特殊でかつ奥深い設定で、話の最後まで直接関係して来ます。
まず、エヴェンゲリオンは人造人間であり、脳のある人型のロボットです。(エヴェンゲリオンはロボットアニメとは公表済み)
作中で、「シンクロ率」に関する説明があるのですが、パイロットとロボットとの脳の波長が0%だとまったくロボットが動いてくれませんが、数値が上がると、どんどんパイロットが思うように動いてくれます。
この数値は高ければ良いというわけではなく、30から40%程度が理想だと説明がある通り、高いパフォーマンスで闘いが出来るのはこの数値のときです。
しかし、一方で100%を超えてしまうと、パイロットがロボットに溶けてしまい、その存在自体がそのままなくなってしまいます。
肉体が溶けてしまい、魂のみがロボットに幽閉されてしまうという感じなのですが、なかなかに危ういロボットです。

「同調の危うさ」を説く話


で、これは一体何なのかと言うと、いま話題のSNSで言うところの「共感と同調の違い」みたいなものです。
まず、シンクロ率0%で動かないというのは、パイロットとロボットが相互無関心の状態です。
だから、脳内にある情報の伝達や交換が起きないため、何も起きません。
つぎに、開発者が「シンクロ率30から40%程度が理想的」と言うのは、このやや低めの数値が、共感状態だからです。
要するに、ロボットにダメージがあった時に、「痛いんだろうな」と共感はするものの、パイロット自身にはまったく影響がない状態です。
さらに、エヴェンゲリオンには「ATフィールド」という自他境界バリアを貼れるので、敵である使徒と接触を避けることが可能です。
これは、パイロット自身の自我がしっかりと存在していて、周囲を観察して適切に対処できる、いわば理想的な精神状態と言えます。
しかし、一方で、シンクロ率100%を超えてしまうと、今度はパイロットとロボットが、同調状態になってしまいます。
同調してしまうと、自他境界が無くなり、パイロットの肉体が消えて、魂だけがロボットに幽閉されてしまいます。
ロボットの母体は、遺伝子の近い親をベースにしているため、自我境界が溶けてしまえば、悪夢のような世界に魂が閉じ込められてしまうのです。
たとえば、「わたしと一つになりましょう」「気持ち良いわよ」みたいなシーンも登場しますが、こうした夢魔に囚われてしまい、現実に戻れなくなってしまいます。
いま、「生成AI」がお絵かきしたり動画を作っていますが、まさにあの世界と同じで、スケールや物理感覚が融けてしまいます。
パイロットは魂を再び現実世界に戻さないと元の生活ができないので、夢の中の自分が頑張って意識して起きるのと同じく、非常に大変です。
また、この作品では、敵である使徒が接触を求めてきますが、使徒に同調されてしまうと、人間は自他境界が無くなってしまい、大変なことになります。
悪夢を見せられ続けて、自我が狂い、精神崩壊してしまう危険があります。
使徒は同調するために、最後には人間に化けて登場しますが、これは狐もビックリのまさかの展開です。
一緒にお風呂入ったりお泊りしたりと、共感からはじめ、同調に誘い乗っ取ろうとしてくるわけで、カルト宗教も腰を抜かすようなやり口です。
また、作中内で出てくる司令の野望である人類補完計画というのも、一つの意思のもとに自他境界を溶かして融合させてしまおうとする計画で、これも結果として同調して融合することになります。
主人公は14歳ですが置かれた状況が四面楚歌であり(ただ、作中内で一見するとそうとも見えないのがまた深刻)、非常に過酷な話だと思います。

科学的な話をアニメ表現に落とし込む

さて、科学的な現象を設定から考えて、アニメの表現に落とし込んだ点では、やはり他のアニメから一線を越えた、非常に素晴らしい作品に思います。
内容がやや難しめなので、新劇場版でリメイクされていましたが、旧エヴァンゲリオンがより直接的に表現されているので、抵抗がなければオススメします。
他にも、作画や演出など目を見張る点がたくさんありますが、私は本当に好きな作品です。


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