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上場企業10.トレーサビリティー

 会社全体の効率が上がり、過去最高益を達成したが、商品に特徴があるわけではない。メーカーとしては、商品の差別化を図るべきだ。
 
 日本の水道業界は「日本水道協会」が牛耳っており、会長は東京都知事だ。水道に関する全国均一の信頼性を確保するための技術標準も整備されている。それにのっとって、「日本ダクタイル鉄管協会」で水道用鉄管の詳細が決められ、メーカー3社の水道管は基本的に同じものだ。ユーザー(自治体)は何処から購入しても同じ品物であり、接合部分も同じで、互換性があるから安心して購入できる。3社は(暗黙に)おおよそ決まったシェアがあり、販売量は安定している。
 
 しかしながら、日本の水道は全国津々浦々に普及しており、水道管路の新設は殆どなく、水道管の需要は寿命が来た管の更新が主体となっている。水道管の販売量は、減ることはあっても増えることは考えにくく、いつまでも3社の安定した供給体制が継続するとは限らない。しかも当社のシェアは最下位で12%程度に過ぎない。
 
 とすれば、需要家に、出来れば当社の水道管を選びたいと思っていただけるよう、他社に対する何らかの差別化をしなければならない。簡単にできることではないが、取り敢えず、その最初の一歩として、製造する全ての水道管一本毎のトレーサビリティーを確立した。
 
 従来から3社とも、径の大きい水道管は一本毎に番号を打って製造から現場への納入までを管理していたが、当社は径の小さな水道管まで全てのパイプにトレーサビリティーを広げた。本数が圧倒的に増えるので、一本毎に番号を自動的に鋳込み、後工程でも自動で読み取る必要がある。自動機器の開発は何度かのトライ&エラーを繰り返し、ともかく完成した。同時にシステムを構築して水道管一本毎に最初の溶解から鋳造、手入れ、水圧試験などの製造履歴と製造データ、更にそれが全国どこの現場で使用されたか、たちどころに分かる体制が完成した。
 
 私自身も全国のユーザーを訪問した際に、当社水道管の全数トレーサビリティーを説明した。一応は感心してくれるのだが、感心の程度はユーザーにより、かなりの濃淡があった。
 
 その後、水道管敷設工事で何らかのトラブルがあった際、使用された水道管の、当社工場での詳細な製造履歴とデータ、いつどこの現場に納入されたかを需要家に伝えると、成程、そこまで管理しているのかと感心されたことが、数回あった。そういった積み重ねで評価されるのだろうが、時間はかかる。

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