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人形町に仮住まい

 2008年、父が亡くなって4か月後の8月に、某上々企業のトップへの就任を打診され、10月に就任した。東京の本社勤務だから、8年間の新潟生活を切り上げて、横浜の自宅に戻った。
 
 当初、横浜の自宅から本社の日本橋人形町に通ったが、満員電車で1時間余りかかるし、就任当初と言うこともあってか、夜の会食が続き、連日夜遅くの帰宅、61歳の我が身としては、体がもたない。
 
 仕方がない、会社近くに仮住まい用のマンションを借りることにした。場所は会社のある都心の日本橋人形町、賃料は安くないが、お金より体が大事だ。ここで金を使わずして何のためのお金だと、直ぐに地元の不動産会社に当たって、会社から徒歩5分の場所に決めた。3階の北向き、間取りは2DK、4畳半の和室に座卓を置いての新婚生活並、1階には日高屋があり、如何にも庶民的で、何となく面白い。
 
 人形町はオフィス街でありながら、下町の風情も併せ持つ不思議な街だ。寿司屋、定食屋、蕎麦屋、ラーメン屋等はいくらでもあるし、高級料亭も、サラリーマンの居酒屋もある。ピーコックもあれば、八百屋、魚屋等の個人商店もある。

 名前が知られているところでは、粕漬けの魚久、牛肉の今半、元祖親子丼で知られる玉ひで、などがある。人形焼、鯛焼き、和菓子、漬物屋も、聞いた事のある店が多い。他に、竹細工、和人形、和服の店も点在し、着物姿の女性も、多く見かける。甘酒横丁には個性のある個人商店が並ぶ。

 表通りから少し入ったところに、日本橋小学校がある。通りに面した石造りの校舎の、中央がアーチになり、その上に直径1メートルほどの大きな時計がはまっている。アーチの奥の石壁に、日本橋小学校と、金文字で書かれている。毎日定時間になると、時計の前扉が開き、人形を載せたブランコが降りてきて、鐘がなる。

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