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依存症になる人は、困っている人である。

依存症というと、アルコールやギャンブル、ゲームなどにはまり、生活に支障が出ている人を想像するかもしれません。
そもそも、依存という言葉はあたかも悪であるような誤解を招く事があるかと思います。
「早く自立しなさい」、「人に頼ってはいけない、迷惑をかけてはいけない」など。しかし本来、人間は何かに依存しながら生きています。といより何かに依存しなければ生きてはいけません。人間は日常的に、家族や友達と楽しい時間を過ごしたり、辛い時に相談にのってもらったり、オフの日に旅行に行ってリフレッシュしたり、運動、ヨガなどで心を落ち着かせたりしています。このように上手に何かに依存しながら生きているのです。
では、アルコールやギャンブル、ゲームなどの一点に過度にはまってしまい、生活に支障が出てしまう人はどのような人なのでしょうか。それは、つらい気持ちを抱えている人や過酷な環境にいる人、あるいは「自己肯定感が著しく低く、存在価値を見出せない」「どこにも居場所がない」と感じている人などの困っている人、そして、それにもかかわらず、誰かに助けを求める事が出来ずに、物質や娯楽といった「モノ」だけで心の痛みをコントロールしようとする人です。
その意味で、依存症とは「ヒト」に依存できない病気と言えます。
では、なぜ上手く「ヒト」に依存できないのかを下記に書いていきたいと思います。
 
・虐待などの逆境体験をうけてきた人は困った状況が当たり前になっています。困っていることが当然だと思っている場合、困っている状況でも助けを求めるような状況だと感じる事が出来なくなってしまいます。
 
・自己肯定感が低く、「自分が悪い」「自分には大切にされる価値がない」などと、自分を否定的に捉える傾向が強い人は、「自分のために、だれかになんとかしてほしいなんて言えない」と考える人も少なくありません。
 
・自分の苦しさを訴えた事はあるけど、状況は変わらない、むしろ余計にひどくなった、「あなたにも非がある」と責められたなどという経験が、「誰にも頼れない」という思いを強めていることもあります。
 
・困った時に、人に頼るという事を教わっていない場合もあります。そのように困った時は人に頼るという教育を受けていないと、困っていても人に頼らず、我慢したり、自分的な対処法で処置したりする事が多くなります。
 
・また幼児・小児期に親に対して安心して頼るなどの信頼関係を結べなかった子供は、他者とも上手く信頼関係が結べなくなって頼れなくなることもあります。
 
この他にも人に依存できない理由は様々あると思いますが、人に依存が出来ず、物質や娯楽と言った物の一点に集中して依存をしてしまうと、優先的にその物に依存する事になり、仕事や家庭での役割などを果たせなくなり、生活が壊れていってしまいます。
 
依存的な行動には、自分が抱える苦痛に対する自分なりの対象法という面もあります。ですから依存症のリスクを減らす為にも、本人が抱える生きづらさ・困りごとを把握して、対処していく事が大切になります。
依存症の背景にうつ病や不安障害などの精神疾患がある場合は、その治療を行ったり、現在の本人の社会的環境が本人の特性と合っておらず、苦痛を感じているのであれば、環境調整を、人間関係にストレスを抱えているのであれば、対人関係の技術を学んだり、いっその事、環境をがらりと変えてみたりする事も必要になるかもしれません。
しかし、言葉で書くのは簡単ですが、依存症の方が一人で実行するのはとても難しい事であると思いますし、実際どうすれば良いのか分からない事が多いのではないかと思います。ですから、社会が生きづらさ・困り事に対するケアの仕方を啓発して行くとともに、学校などの教育機関の授業の一環として、困っている時の対処法を日頃から教育していく仕組みを整えるとともに、国民一人一人が、主体的にメンタルの問題を日頃から考えられる社会文化にしていく事も必要なのではないかと感じます。また、社会には一定数のマイノリティの特性をもった人々が必ずいる前提で、その方たちも生きやすい社会を目指すとともに、必要な時は援助や配慮をする仕組みを整備してくことが大事になってくるのではないかと思います。
 
また、時に依存症は違法行為と重なる事があります。覚せい剤や麻薬などのドラッグは所持・使用が認められていません。そのため、違法ドラッグを使用していたりすると、犯罪者として逮捕され、刑を課されます。しかし、残念ながら違法ドラッグの容疑で逮捕して、刑務所の中で違法ドラッグの事を学んだりしても、再発する人の割合はかなり存在し、効果は限定的です。むしろ、依存症の犯罪面が強調されすぎると、一般の市民は依存症の方に対して、「違法行為をしている怖い人だ」「違法行為をしている人と関わると厄介な事になる」などのパブリックスティグマが強化され、その結果、依存症当事者にもセルフスティグマが生じやすくなり、助けや・支援を求めづらくなり、更に孤立し、いっそう薬物に依存してしまうという結果に繋がる危険性があります。このように厳罰主義だと、困っている依存症の人が更に困ってしまうという現状もみられます。
このように、「違法薬物を使ったら、厳しい処罰を受ける事になるぞ」など犯罪としての側面が強調されやすい薬物依存症ですが、近年、このような限定的な効果しか生まない厳罰主義にかわり、「ハームリダクション」という理念に基づいて取り組む国が増えています。
ハームリダクションは「違法であるかどうかかかわらず、精神作用性のあるドラッグについて、必ずしもその使用量は減らさなくとも、その使用によって生じる健康的・社会的・経済的な悪影響を減少させるために行われる政策・プログラムと、その実践」と定義されています。ハームリダクションのような取り組みを行う事が、結果的には社会全体の問題を減らすと考えられてきています。
ハームリダクションの取り組みの例として、静脈注射を用いた薬物使用が問題になっている国では、注射器の使いまわしによる感染を防ぐ為に注射室の設置、無償注射器交換サービスなどを行うほか、離脱が難しいヘロイン依存症に対して、より安全な薬物を提供する代替療法を行ったりしています。また断薬を条件としない、住宅サービスや就労プログラムの提供、安全な薬物使用法や過剰摂取した場合の対応策についての情報提供など、やめる事を前提としない支援が行われている国もあります。
このように、必ずしも断薬を条件としないハームリダクションの取り組みを行う事で、当事者の方も、健康的・社会的・経済的な悪影響を少なくするための行動を起こしやすくなりますし、犯罪面の強調も少なくなり、「薬物を使用したい」とはっきり素直に言えるようになり、素直に言える事で、治療にも繋がりやすくなります。

このように、社会の考え方や仕組み1つで大きく状況が変わる可能性があります。このように様々な国から、学んだり、常識にとらわれず、どのようにしたら社会が良くなっていくかを考える事もとても大切だと感じました。
 
最後まで読んで頂きありがとうございました。

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