坂の上の蒼いアパート  #1

 風呂の排水溝の詰まりを取っていたら一日が終わった。
本当はもう少し寝ていたいのに、部屋にカーテンが無いせいで夜明けとともに起こされる。GW中は社員よりバイトをしていたので、GW明けの休みの日に排水溝を掃除することだけは決めていた。
 そして今日、排水溝を掃除していたら一日が終わった。
家賃4万、大学のときに借りた家に棲み着いている。築40年の貸主がいなくなったアパートを今の大家さんが買って自らリフォームまがいのことをしたらしい。なのでところどころでDIY感が溢れている。
 まずカーテンが無い。カーテンレールを取っ払ったらしい。その代わりということで窓にフィルムを貼ってマジックミラーにしているのだが、暗い側から明るい側が見えるので夜は部屋が丸見えになってしまう。なので結局雨戸を閉めるほかなくなる。フィルムの切り方も雑過ぎてよく見ると、窓枠に対して斜めに切り込まれている。
 1Kのキッチンには、ショベルカーの腕を横に倒したような台座の鏡が取り付けられているのだが、それが重すぎて引っ越してきて2日めに取れた。壁が抉れていた。
 風呂にはモン・サン・ミッシェルが貼られているし、玄関には土星が貼られているし、壁は紫なのだ。
 大家さんは年に一度、アパートの住人(そこら辺の大学生)を集めバーベキューをする。その日以外で絡むこともないし、仲が深まるわけではないのだが、ここで印象を良くしておかないと、トラブルに発展してしまう可能性もなくはない。(とはいえ、迷惑になるほど騒音を出しているつもりはない。)(テレビの音量は4だし、ドライヤーはできるだけ早い時間にしてるし、階段はゆっくり降りるし、原付は近くの公園でエンジンを回している。)

 つまり大家さんは愛嬌で溢れている。たまにアパートに来てペットボトルの紅茶と心太を差し入れしてくれるくらいにだ。


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