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モーリス・ラヴェルのピアノ三重奏

モーリス・ラヴェルの作品には、石造の建物の内部で体験するようなひんやりとした感覚と、そこから窓の外に差す強い日差しの眩しさや、冷たい水の入ったコップに浮かぶ水滴、そして限定された色彩を緻密な変化によって表現したような眩暈のするようなモザイク状のテクスチュアがあり、まるで遊び心と死の峻厳さが同居したような極めて優れた多くの作品を生んだ。彼の作品のトップ5を選択する作業は極めて困難を極めるが、強いて言えば(というか今の気分では)、『左手のためのピアノ協奏曲』『夜のガスパール』『ステファン・マラルメの3つの詩』『子供と魔法』そしてこの『ピアノ三重奏』がそれであたるかもしれない(それは明日になれば『水の戯れ』とか『スペインの時計』とか『シェヘラザード』とか『クープランの墓』などに変化する類のものなのだが)。ノエル・リーは、そのクラシック録音の歴史の中でも突出して評価されているピアニストという訳ではないが、この演奏においてはとても生き生きとして、和声感覚を維持しながら躍動しているように聴こえる。とても良い。

音楽と音楽の記憶とそのメモ。