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2023年1月の出来事

Steamroom 4 By Jim O'Rourke

Steamroom 4の「Another Slow Night」。40分を超える1トラックの作品で、2011年に東京のSteamroom(Jim O'Rourkeの自宅?)で録音されたという程度しか情報がない。冒頭は低くプロペラの回転するような音が現れては消え、現れては消え、夜の闇に浮かぶ鈍色をした光のように見え隠れしている。真夜中の車の移動しているような感覚がある。次第にさまざまなテクスチュアをした音が重なり、それら全てが漸次的な消滅を繰り返し、最終的に大きなうねりというか光の渦のような物に巻き込まれて、目が眩みそうになる。しかし、実際には目を閉じるほど眩しさを感じている訳でもない、そんな眩しさ。


Sundays by Kevin Drumm

『Sundays』は2021年4月〜5月、6月にシカゴで録音されたアンビエント/ドローン作品で、かなり多幸感のあるサウンドだった。ひょっとしたら、映画を楽しむためではなく、泣くために見るような人々にも受け入れられそうなエモーショナルな作品ではないだろうか。特に1曲目の「Sundays」は、U2の「Where the Street Have No Name」の冒頭を連想させるような雰囲気さえ垣間見れ、ここからあのカタルシスに満ちたアルペジオが流れてくるんじゃないかと身震いしてしまう(もちろん、あそこまで殉教者じみたものではない)。一方で、「0.75ed」は従来のKevin Drumm的なソリッドかつ非ドラマティックで、雲一つない青空の動画を見ているかのように何も起こらない。しかし、よく見れば空には午後の少し黄色がかった陽光の色を反映しているし、その色合いは少しずつ変化していく。


Tom Verlaine by Tom Verlaine

R.I.P. Tom Verlaine (1949-2023)


An interview with Jim O'Rourke

Roland Kaynのマスタリングの話とか、かなりエモい。


Le Marteau sans maître by Pierre Boulez

2022年はアンビエント、ノイズ、ドローン、フリー・インプロヴァイズド・ミュージックを始めとする、道標のない茫洋としたサウンドスケープを彷徨い歩いたせいか、他のジャンルの音楽の聴き方とか感じ方も変わったような気がする。例えば、久しぶりにブーレーズの『ル・マルトー・サン・メートル』を聴きてみると、かなりポップに聴こえる。控えめなイルミネーションを見ているかのような、少しメシアンを思わせる色彩感覚も良い。アルトフルートとヴィブラフォン、シロリンバのテクスチュアが万華鏡のように緻密でチカチカとしていて美しいし。ブーレーズ自身によるこの曲の録音は6種ある。この録音は1972年にCBSで行われた3回目のもの。ブーレーズも若く、シャープでキレがあり、エゴに満ちた野心的な演奏だ(DGのジャガイモのようにもっさりとした演奏と比較すると分かりやすい。あれはあれで好きだったりするのだが)。


Wrong Intersection by Kevin Drumm

帰宅中にKevin Drummの『Wrong Intersection』を。Bandcampにはアップロードされた日付(2014年10月30日)以外、なんの情報もないのでググってみると、Handmade Birdsというレーベルから1000枚限定でCDがリリースさせていたようだ(このレーベルは、2011年にテキサス州北部で設立され、フィジカルなメディアの限定販売に特化した小売店型のレーベルで、2016年に活動を休止した)。2013-2014にかけて、イリノイ州シカゴのMidnight Albatross(スタジオ?)で録音され、Brent、Grzegorz、Jason、RichとRussellに謝辞が述べられている(誰?)。この謎めいたタイトルの1トラックアルバム(聴いている限り複数のパーツから成り立っているので、CDではトラック分けされていたのかもしれない)は、交差点を行き交う車の音をフィールドレコーディングして加工したのか、アナログシンセサイザーの音を加工したのかは、もはや判別することはできない。サウンドが刻々と変化していき、気がつくと別の風景に身を置いたりすることになる。しかし、気がつくとごく限定された地域をぐるぐると回っているだけのようにも思える。そして、すべてを見失ってしまう。


Electronic Harassment 6 by Kevin Drumm

Electronic Harassment シリーズの6番目の作品で、1〜5は未聴。6についての詳細をググったりしたが、フィジカルでのリリースは見当たらなかった。アップロードされたのは2014年3月24日。Bandcampの該当ページに記されているのは、イリノイ州シカゴのNo Progressで録音されたこと、Comstron、Datapulse、そしてebayで壊れたミキサーを売ってくれた人に対する謝辞を述べていること、の2点のみ。訳がわからない。しかし、昨日聴いた『Impish Tyrant』と比較するとこちらのサウンドの方が好みである。アンビエントノイズといった感じで派手な展開もなく、羽虫の羽ばたく音がドット化したようなサウンドで、シンプルでモノトーンなサウンドだが、後半に行くに従って発生するバリエーションのようなものが楽しい。小さい音で聴いていると、モーターを伴った機械類の不調を思わせる。作品は1トラックだが12分過ぎあたりにちょっとしたブランクがあるので、もともとLPかカセットテープでのリリースを想定していたのかもしれない(25分くらいにも謎のブランクがあって、そこから2、3分の展開がかなりカッコいい)。

Impish Tyrant by Kevin Drumm

BandcampにアップされたKevin Drummのディスコグラフィーを聴くシリーズ。『Impish Tyrant』は2004年にSpiteレーベルからカセットテープでリリースされた作品で、その後、2009年にDagdaレーベルから500枚限定のCDがリイッシューされ(個人レーベル?この作品しかリリースされていないようだが)、のちに2013年にBandcampにアップロードされた。Kevin Drummを聴くにあたって障害になりそうなのは、アグレッシブなハーシュノイズ系の作品だった(個人的にノイズについてはまだ理解が乏しく、苦手意識がある)。結果的に、この作品はカットアップされたギターノイズとアナログシンセサイザーとのハーシュなエレクトロアコースティックではあったが、思いのほか楽しんで聴けたと思う。サウンドは変化し、立体的で、ギターのプレイににまだハードコア的な要素が垣間見れるせいからかもしれない。


Comma by Sam Prekop

2010年にThrill Jockeyからリリースされた『Old Punch Card』以降、Sam Prekopのソロはエクスペリメンタルなエレクトロニック・ミュージックへと移行していったが、それから続くサウンドは、昼と夕暮れの間の日差しがやや黄色がかっていく時間帯の倦怠感を思い起こさせる。The Sea And Cakeの作品にも見られた傾向で、その一面を永遠のように引き延していったような感じがする。当初、最初の2枚(特に『Who's Your New Professor』)を気に入っていた私にとっては、ある種行き場のないサウンドのようにも思えたし、少し晦渋で焦点をどこに向けていいか判断しにくい印象があった。しかし、音楽的嗜好の漸次的な変化によって、何となく70年代のドイツにおける電子音楽というか、特にHarmoniaの『Musik von Harmonia』を聴いていた時に感じたような白昼夢のようなビートに類似性を感じた。


Quintet Sessions 1979 by Wolfgang Lackerschmid & Chet Baker

チェット・ベイカーは晩年の尾羽打ち枯らしたような表現が好きだ。なんの気の衒いもない楷書体のような演奏を、愛していると言っても過言ではない。(ジャケットの酷さで有名な)Steeple Chaseの音源はどれも素晴らしいものだ。そして、それと相まって、Wolfgang Lackerschmidのヴィブラフォンによるアクセントが、このサウンドを唯一無二のものにしている。


Singles: The Definitive 45s Collection, Vol. 1: 1952-1961 by Sun Ra

平日の夕方、近所の公民館で高齢者が演奏しているかのように緩くも懐かしくピースフルで美しい光景のようだ。


3 Feet High And Rising by De La Soul

サブスク解禁に伴って『3 Feet High And Rising』のLPが再発される。このアルバムは、私にHip Hopというジャンルを聴く道筋を作ってくれた作品だ。無邪気というか無垢な感じで、Hip Hopに関するネガティブなイメージを取り払ってくれた。『Stakes is High』も近々リイッシューされると思う。メルカリで売っていた馬鹿げた値段のアナログを買わなくて、本当によかった。


gametophyte 4 ix, by Jim O'rourke

2022年はIannis Xenakisの生誕100周年の年だった。この作品は、Jim O'rourkeが1951年から続くウィーン文化祭のために制作したものだ(ウィーンという都市とXenakisの関係については、私の預かり知らぬところではあるのだが)。私のようなXenakisにそれほど馴染みのないリスナーにとっても、そのオマージュについて理解できる作品であり、かつ最近のRoland Kaynにまつわる作業の影響も垣間見れる卓越した作品だと思う。このような作品が無料でダウンロードできるなんで、かなりラッキーだと思う。でも、本音を言えばBandcampのアプリに表示されるリストに追加して再生したい。しかし、その仕様上、無料ダウンロードによる作品はそれができない。なので、他のSteamroomと同様のフォーマットにして欲しかった。


音楽と音楽の記憶とそのメモ。