n.

居心地の悪い日常のフィクションです。

n.

居心地の悪い日常のフィクションです。

マガジン

  • 短編小説集

  • 小説「無日常」

  • 日常と非日常の間

最近の記事

小説「無日常」を書き終えて

https://note.mu/nina_to_watashi/m/md55f504a8c69 少し修正して、タイトルをつけて、マガジンにまとめました。 小説を書くのは初めてでした。ずっと書いてみたいなと思っていたし、煮え切らない思いとかブログには書きにくいなっていう思いも、いっそフィクションにすれば成仏するんじゃないかと思っていて、それをnoteという場で試してみました。 私自身、双極性障害者です。一時期は主人公のように仕事もままならないくらい悪化しました。今も、あの

    • ep.

      初めて会ったときのことを今も覚えている。 彼女は、細身のスーツに高いハイヒールで面接にやってきた。背が低いことを気に病んでいるのかな、とつまらないことが頭をよぎった。まだ20代半ばくらいだというのに、しっかりしてるなという印象が強い子で、履歴書を見た段階で、その素質が垣間見れたし、いくつか質問をしたところでこの子を採用しようと既に決めていた。俺の中で、何かがざわめいた。 一緒に仕事をするにつれ、彼女の仕事に対する頼もしい姿勢が毎日を彩った。周りに相談出来るやつは一人もいな

      • 21.退職

        しようと思い立ったのは、なんとなくだ。 有給が終わり、休職に入ってから2ヶ月が経過した。なんとなくで自分の行く先を決めるなんて、本当にバカげてるし普通の精神状態ではないことはよくわかっているのだけど、なんとなく以外の心持ちで自分の行末をまともに考える術を持ち合わせていない。 躁状態は落ち着いている気がしなくもないし、そうでもないかもしれないし、よくわからなかった。医者には1週間に1回行っているし、普通に話をして薬をもらって帰ってくる。それだけだ。 辞める理由はちゃんと後

        • 20.休職

          を伝えてから、私は躁状態を加速させていた。 人と会いたくて仕方がなかった。マーケティング部の新人、同期入社の情シスのリーダー、大学時代の男友達。ありとあらゆる人と会う約束を入れた。彼以外。 マーケティング部の新人は、思い描いたようなオーバーリアクションをし、でも思ったより元気そうでよかったですと付け加えた。錦糸町でホストをしているという彼氏のしょうもないダメっぷりを披露し、社内の誰と誰が付き合って、誰と誰が別れただの、相変わらず社内のお局候補として頼もしさを炸裂させた。

        小説「無日常」を書き終えて

        マガジン

        • 短編小説集
          1本
        • 小説「無日常」
          23本
        • 日常と非日常の間
          1本

        記事

          19.有給

          がもうすぐ終わるようだった。あと10日。ご飯を食べながら、バイオ7をやりながら、唐揚げを揚げながら、どうしようと考える。 どうしよう。この言葉の、無責任すぎるほどのどうしようもならといったらない。ここ半年は、どうしようと思っているうちに時間が過ぎていって、少しずつ老いて、少しずつ壊れていった。どうしよう、などと考えずに、常に自分に意識を集中させ、優先事項を見誤ることなく意思決定し実行出来たら、素晴らしい人生だったのかもしれない。表参道になりきれもしない土地で会社員なんかやっ

          19.有給

          18.起きて

          みて気づいたことはやはりそこにはぞっとするような日常が広がっているということだった。ドラマは12時間もあればハッピーエンドで締めくくれるというのに、我々人間の人生は、80年近くも紆余曲折を経てやっとエンディングを向かえるのだ。しかもハッピーなエンドになる保証などない。 なんてグロテスクな世界なんだ。今日も明日もあさっても、代わり映えのない世界の中で、じりじりと死に近づくのをただ黙って過ごすしかない。生命も、精神も、ただすり減らすだけの今日という日を生きるしか、そもそもやるこ

          18.起きて

          17.呼び出し

          を受けて会議室に入ったら、社長と取締役が2人、神妙な面持ちで座っていた。こりゃあ新卒の最終面接だな、とつまらないことを頭に浮かべるのは、俺はこれからこの2人に詰められることが確定していて、少しでも緊張を下げたいからという情けない状況だからだ。2人の真向かいに座り、どちらかが喋りだすのを待つ。 「あのさ、わかってる?」と社長が切り出す。「自分とこの部署の状況、芳しくないよね。それわかってて見逃してんじゃないの?」さっそくキレそうになるのは、社長の悪い癖だ。「休職者出して、他の

          17.呼び出し

          16.病院

          を調べた。Googleマップに心療内科を打ち込み検索結果を確認する。家から自転車で行ける範囲の病院をピックアップしてひとつずつ病院名を検索する。新しい施設に行く前は必ず検索するクセがついているのは、私がIT関連社員のせいか、時代の流れか。出来る限り失敗はしたくない、そういう人生でいたかったのにうまくいかなかった。せめて、心療内科だけは、正しい世界観で私を迎えてほしいと切に願う。 最も口コミ評価がまともそうな病院を選び、電話をかけ明日の10時に予約を入れた。まともそうな受付の

          16.病院

          15.バイブ

          の音で目が覚めた。はぁ?ふざけんな死ねと思いながら画面を見ると、彼からの電話だった。はい、とぶっきらぼうに言うと、大丈夫?なんかあった?返事ないから倒れたのかと思って救急車呼ぼうが迷ったんだよ、と早口に話し始めた。彼は、焦ると早口になる。私のことで焦るな、何もかも気に食わなくて仕方がなかったけど黙って聞いていた。めんどくせぇ、昨日から何度も頭の中で反響させた言葉がまた響き渡る。 ちょっともうとにかく疲れてるので、大丈夫なんで、心配しないで下さい、とボソボソiPhoneに向か

          15.バイブ

          14.新しい朝

          が来た、絶望の幕開けに相応しい月曜日の朝だった。 土曜日、家に帰ると体が重くて、何を考えるわけでもなく脳みそがスタンバイ状態になった。パチン。と音がしてスーッと意識が無になっていく。でも体は起きている。ただ、意識だけ、何かを考えるのを避けるように、ひっそり脳みその端っこに追いやっているような、そんな感じだった。 それでも、寝て起きて日曜日、最後の休日にはまた唐揚げを揚げ、あたたかい唐揚げを食べてまた自分の才能にクラクラしながら、多分明日は、何事もなかったように出勤し、月曜

          14.新しい朝

          13.土曜日

          になった、そうだ、今日は彼と会うんだな。そうか、そうか。などとでんぱ組のアップテンポな曲を聴きながら、ソファに座って何も映し出されていないテレビを見つめ、CASTERの煙をぼんやりと追う。 ついにCASTERをカートンで買い溜めするようになった。つい昨日のことだ。真夜中に何を思ったかCASTERを吸いたくて頭がCASTERのことで支配されてこのまま狂ってしまいたい衝動もあるにはあったが理性が勝って、近くのセブンイレブンにUNIQLOのスウェットのまま駆け込んだ。韓国人の店員

          13.土曜日

          12.また朝が来た

          と思った。思ったけど今日も会社に行く必要がない。会社に必要とされてない。それは、今の私にとってはいいことなのかもしれない。じわじわと、余裕が生まれるのがわかる。なぜ仕事に必要とされてないのか、その理由を理解し、どう行動すべきかをわかっている。 余裕は朝日と共にこのベッドに降り注いでいる。ベッドの上でフランフランのブランケットに包まる私は、今日を生きるために起き上がり、ご飯をチンしてのりたまをかけ、ノンストップを見ながら、主婦の小さな日常に対して大激論しているタレントを微笑ま

          12.また朝が来た

          11.眩しくて

          目が覚めた。久しぶりに、夢を見なかった。ぐっすり寝れたせいか、なんだか最低な気分からは脱却出来たような気になれた。昨日まではつまり、悪い夢だったのかにゃ?などと柄にもなくとぼけて、朝日のあたたかさと、自分のぬくもりが染み付いたふとんを全身で受け止めながら静かにしていると、少なくともこれから5日間は、自分の時間を漫喫出来るような気がした。 じっとしていることに飽きてベッドから起き上がると、顔がバリバリときしんだ。昨日の泣いた跡と落とさなかった化粧が顔の水分を奪った。もう取り返

          11.眩しくて

          10.同じ

          毎日を過ごしていたつもりだったのに、なんてことのないズレに対して無頓着にやり過ごしているうちに、かかと数センチ分の地面が崩れ落ちていて、後ろを振り向けば恐怖、前を向けど不安、天を仰げば神がやってくる、わけでもなく、あっ、と思う間もなく奈落の底へ落ちていく。 彼をハンバーグ越しに怒鳴りつけてから、自分を縛り付けていた何かを解放させるように、エヴァンゲリオンが拘束具を突き破る衝動を身に着けたがごとく、今まで言えなかったことを全部口にするようになった。部下に業務改善を命じたり、ミ

          10.同じ

          9.絶対

          に、寝る前に風呂を済ますのが常だというのに、今日は人生で初めてそれを怠った。 私にとってはオオゴトだった。私の絶対的な意志に反乱する分子が私の中に存在していて、理性的な私とは裏腹に感情を持って制することを企んでいる。そんな気がして、朝5時に居心地の悪さと共に目が覚めた。 お腹が痛くない、それだけを感謝すべき日だ。昨日は腐った肉を食べたのだ。一種の賭けを強いられ私は勝った。勝った?そうじゃない。自分の部下と、彼が、ただならぬ関係でいることは明らかで、その事実だけでもお腹を下

          9.絶対

          8.明日

          話すからと、昨日彼に言われていた件について、共有したいから夜空けておいてとSkypeで連絡が来た。業務とは別に、業務中の私語はSkypeを使って連絡を取り合う。Skypeなら履歴を社内の誰にも見られないから。20時に渋谷集合で、と決めて、別々に退勤するのが常日頃の習慣だ。今日も、明日出来るものは明日に回して、さっさと会社を出た。 メンヘラは休職、ひとまず3ヶ月は休職させるという。その後のことは産業医との話し合いで決める、らしい。知ってる。ひとつひとつの情報は、寸分の狂いもな

          8.明日