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10周年の今だからこそ『スマイルプリキュア!』を思い出してほしい

タイトルは……『最高のスマイル』

見出し画像は最終回「光輝く未来へ!届け!最高のスマイル!!」の最後のシーンにて。圧倒的強さにより真の絶望を叩きつける悪の皇帝ピエーロに対し全ての力を出し切り打ち勝ったプリキュア達。そして自分たちが守った平和な世界におけるエピローグにて主人公である星空みゆきは絵本を描いていた……ハッキリ言ってそんな上手くない挿し絵(メンバー内に絵が上手い子がいるから余計にそう感じる)だが……なぜ彼女はラストにこのように絵本を描いたのか?そんな突然のような行動に見えるが実はちゃんとした理由があったのだ。今回はそれを交えてお話ししよう……

・風がそよぐ場所に僕らは生まれて この涙さえ吹き飛ばせるよ 青い空高く

2022年2月5日、今日この日は一部の人、そして自分にとって記念すべき日である。その日とはそう……


(OP後の提供紹介イラスト…と思わせておいて最後を飾った一枚絵。よく見るとれいかさんの顔が違うぞ)

プリキュアシリーズ9作目『スマイルプリキュア!』が放送開始した2012年2月5日、それからちょうど10周年を迎えたその日である!


絵本大好き中学生の星空みゆき(cv.福圓美里)が七色ヶ丘中学校への転校初日の通学路でメルヘンランドの妖精キャンディ(cv.大谷育江)と顔面衝突したことから物語は始まった。オオカミさんや赤鬼に魔女と絵本の悪役を模した敵で構成されるバッドエンド王国が長である悪の皇帝ピエーロ(王国なのに皇帝なのは気にするな)が欲する絶望に染まりきった世界にせんと襲いかかる!
笑顔の無い世界にしたくないという想いで伝説の戦士プリキュアが一人キュアハッピーに変身できた星空みゆき、そんなみゆきちゃんが転校先で出来た友達のキュアサニー/日野あかね(cv.田野アサミ)キュアピース/黄瀬やよい(cv.金元寿子)キュアマーチ/緑川なお(cv.井上麻里奈)キュアビューティ/青木れいか(cv.西村ちなみ)と共に5人でプリキュアとして戦う!時に笑いを、時に涙を、そして時には……

10年!そうか10年……もう10年経ったの!?なんかスマプリって最近やってたイメージある人はそこそこいるかもしれないが、実のところはもう10年経ってる。あの頃見てたメイン視聴ターゲット層の女児のみなさんは既に中学や高校生、中には成人を迎えた人も…10年という月日はそういうものである。


そんな10年前の作品であるスマイルプリキュアだが当時見てた人はけっこういるのではないだろうか。それこそ前作『スイートプリキュア♪』以前から毎年プリキュアシリーズ見てる方々だけでなく、ネット等で話題になっていたがキッカケでスマプリを見始めた人もそこそこの数を見受けられた。本当に当時はものすごい勢いのようなものを肌で感じたものだ。かくいう自分もその一人だ。

正確に言うと自分の場合はネットで話題になったというのではないが…そもそも自分がニチアサ(戦隊とかライダーやってる日曜朝のテレビ朝日系列番組の並びの通称)をゴーカイジャーから見始め半年後に仮面ライダーフォーゼ、そしてその翌年に区切りがいいからと新しく始まるスマイルプリキュア1話を見始めた。キービジュアル公開当時から黄色があざといだの言われてたが自分はそれより関西弁で喋る元気いい少女・日野あかねに惹かれた。俺はつり目ショートヘアでボーイッシュな所ある少女が本能的に好きなんだ。画像は初のメイン回である10話「熱血!あかねのお好み焼き人生!!」ラストのにしし顔。めちゃかわいい。完全にトドメさされた。


そして……スマイルプリキュアを見たのがキッカケで今現在においても以降のプリキュアシリーズを見続けてる人もいるだろう。自分もその一人だ。だがしかしそれ以上に以降のプリキュアは別に見てないって人もいると思われる。それこそこの記事を「うわぁ見てたな懐かしい〜」と覗いてる人もたぶんいると思う。

別にスマプリ単品を見ていてプリキュアシリーズを追ってないからといって悪いと責めるつもりないというかそんなんやったら傲慢にも程がある(むしろ自分みたいにわざわざ日曜朝早く起きて子ども向けアニメを10年以上も継続して見続けてる方が特殊のような気がする)移行するのも已む無しな他にも夢中になれるコンテンツはいっぱいあるんだし、なにより10年も月日が流れてるんだし日曜朝からアニメ見るのも大変な生活になってしまった人も大勢いると思う。リア友もそうなってしまった。こればかりは仕方ない……仕方ないことなのだ。



………しかし、だからこそ、この10年経った今こそ『スマイルプリキュア!』という作品を思い出してほしいのだ。なぜこの10年という節目が大切なのか、それは……スマイルプリキュアには本編の後日談である、本編から10年後…24歳になったプリキュア達を書いた続編の小説があるのを御存知だろうか

この後日談といえる小説、読んだ人には分かると思うが「当時スマイルプリキュアを見てた人にこそ(それこそ上で挙げた今現在プリキュアシリーズ見てない人には特に)読んでほしい物語」になっている。リンク先の商品説明でも既にただでは済まないような不穏な雰囲気を醸し出しており「スマプリってこんな暗くて世知辛い作品だっけ?」と思う人もいるかもしれないが、読んだ私から言わせてもらえば「まさにその通り本編もこんな感じです」と言わざるをえない。そうなの!?と驚くかもしれないがそうなんだよ。


だからこそなのだ。この10周年という小説版の舞台に現実が到達してしまった今日この日こそ『スマイルプリキュア!』という作品をかつて見ていた人に思い出してほしいのだ。多くの人々があの時に見ていたにも関わらず「んで結局どういう作品だっけ?」というのがあんまり語られない今作を明日から始まる新番組で19年を迎えるほど長く続くプリキュアシリーズにおいて一番好きなこの作品を。


単純にこれ以降のプリキュアシリーズから視聴して「プリキュアだからって覗いてみたけどまだスマイル見てないし流石に10年前のアニメだしなぁ…」と言う人がいるかもしれないが、だったらdアニメストアなら月額400円(税抜)という約レンタル1巻ぶんの値段でスマイル以外のプリキュアシリーズ見放題なので今から見始めてもぜんっぜん遅くない。なんならこの記事を読み終えたら登録して見直したって構わないくらいだ。他アニメもめちゃくちゃ充実していて本当にオススメです。


・産まれたままで誉められるくらいなら 悩みなんか無いわバラ色ね人生は

……さて、こんな風に始めることにしたがみんなは「スマイルプリキュア!」といえば?で何を思い出すだろうか。人それぞれだとは思うがそれでも真っ先に思い浮かぶのがある。カオスなギャグ回だ。

たとえば8話「みゆきとキャンディがイレカワ〜ル!?」とか…


「わたしとキャンディ…いれかわっちゃった〜!?」

登校時に変な指輪を拾ったキャンディとみゆき、しかしそれは装着者の意思を入れ替えるマジョリーナの発明品「イレカワ〜ル」だった!治し方も分からぬまま学校に赴くみゆき…のガワを被ったキャンディ。テストも幼稚園児レベルのがんばりで今後の彼女の学業に影響与えそうなハチャメチャ大迷惑を引き起こす!そしてキュアキャンディ(変身バンクつき)。まさかの髪の毛で徒手空拳を振るう!!入れ替わり回はプリキュアシリーズにおいてもちょくちょくあるが、入れ替わり先の妖精の姿のまま変身して戦うのは他には無い!

20話「透明人間?みゆきとあかねがミエナクナ〜ル!?」とか…

今日はあかねちゃんと一緒に登校してたみゆきちゃん、そしたらキャンディが変なカメラを拾って撮影してくれた…それは撮影した被写体を透明化するマジョリーナの発明品「ミエナクナ〜ル」だった!透明人間と化した二人だが劇中ではもう夏に入ったのにめちゃくちゃ暑そうな重装備してやり過ごそうとする!後で話すが前回19話も前々回18話も感動する話だったのに今回はこれである。緩急がすごい


38話「ハッスルなお!プリキュアがコドモニナ〜ル!?」とか…

ある日5人で集まったら空から液体が…それはかかったら幼児化するというマジョリーナの発明品「コドモニナ〜ル」だった!幼稚園児くらいになっちゃう5人だしなぜかウルフルンとアカオーニも幼児化してたし、そんな敵幹部と一緒に仲良く遊んじゃったりする。そしてなんと幼児化したまんま変身しちゃう。これまたわざわざ1から変身バンク描いたのすごすぎる。


そして35話「やよい、地球を守れ!プリキュアがロボニナ〜ル!?」は特に語り草になってるやつで……

開幕から女児向けアニメとは思えない重厚なロボ作画!それもそのはずロボットアニメ界の大御所でおなじみ大張正己氏がプリキュアの作画に参加してるという拘りぶり!そんな劇中劇とおもちゃ発売に大はしゃぎな黄瀬やよい!敵側ロボ派のウルフルンとアカオーニが本拠地で遊ぶ!バケツ頭の巨大ロボになるキュアハッピー!まさかのコックピットに乗り込んで(友達を)操縦!どこかで見たことあるような合体シーンを挟んでくる敵!飛翔!格闘!ロケットパンチ(人間の腕が分離してます)!!いくらなんでもやりすぎだろとお茶の間を混乱と爆笑の嵐へと巻き込んだ

そして(友人がロボになってるという状況なのに)ロボアニメの面白要素をガッシリ掴んでるせいかめちゃくちゃ興奮するピースにノリに付いていけず困惑するサニーとマーチ。この温度差よ。脚本を書いた成田良美氏はロボとか興味ないので興味ないシーンが本当に興味なさそうである。ちなみにハッピーロボを操縦するのは(アニメの図鑑を数分読んで操縦を完全暗記した)ビューティ。やよいが地球を守れや!


ちなみにこれもマジョリーナが発明した「ロボニナ〜ル」が引き起こして……って全部マジョリーナの発明品が引き起こしたやつじゃねーか!

なにかと怪しげな発明をして「ない!ない!ないだわさー!!」と無くすまでが一連のパターンになってる敵幹部のマジョリーナさん。画像はそんな記念すべき初発明回な8話において発明品を自慢する某CMを彷彿させるシーン。うまい!テーレッテレー!

マジョリーナが引き起こした騒動といえば29話「プリキュアがゲームニスイコマレ〜ル!?」なんてのも……

(2012年9月1日の日曜日と多くの学校が夏休み最終日の日に放送した29話での夏休みの宿題まだやってない勢から出た台詞。「とつぜんすぎるよ」とかどの口がぬかしおる)

わざわざ前回28話ラストで夏休みの宿題ぜんぜんやってないよ〜と焦るれいかさん以外4人というオチにしたにも関わらず、一週間後の夏休み最終日に全く宿題に手をつけず遊園地に行こうとするみゆき達。偶然通りかかった佐々木先生の指摘でようやっと思い出し今からやるぞと帰宅しようとしたがマジョリーナの発明品にてゲーム空間に吸い込まれて時間がどんどん消費されてしまう。なんとか退けて空間から抜け出した時にはもう夕暮れ……そこから唯一ちゃんと終わらせてたれいかさんの助力あれど余りにも残ってた宿題の量が多すぎて駄目なものは駄目だった。そんな4人に待っていたのは絶望の居残り補習で……こんな顛末なのに次週30話は「夏休みに遊び足りなかったから世界旅行に行こう」という話。君たち少しは反省とかそういうのを……

ほんでもって大凶スマイルなんて呼ばれたやつも…

13話「修学旅行!みゆき、京都でドン底ハッピー!?」より。京都〜大阪への修学旅行へと赴いたみゆき達…なのだが早速とばかりに金閣寺の池へとすってんころりんしてしまいずぶ濡れで記念撮影することに。それでもまだ大丈夫だとおみくじを引いたのだがそこには【大凶】の二文字を前に顔の真下から魚眼レンズで撮影したかのようなアングルで冷や汗たらし空笑いする星空みゆきが……高熱にうかされた際に夢で見てしまうようなおぞましい顔しやがって……

それと忘れちゃいけないキュアゴリラことFUJIWARA原西

ナチュラルハートは野生のしるし!キュアゴリラ!

17話「熱血!あかねのお笑い人生!!」にてゲスト出演したFUJIWARAのコンビ。プリキュアシリーズにはこれまで たむけん とか オードリー とかも出てたし最近は パンサー向井 が出演してたりと芸人がちょくちょく出てるのだが、彼は一線を画す存在。なぜなら現実においてもプリキュアの濃いめのファンだからだ(娘と一緒に見てたら娘よりのめりこんだというパターン)
こんな原西だが視聴者の記憶に残ったのか2019年にNHKにて開催されたプリキュア大投票ではキャラクター部門3位という大快挙を成し遂げたのだ。下手するとプリキュア知らないけどキュアゴリラは知ってるなんて人もいるかもしれない……

(下のリンク先にある『HUGっと!プリキュア』42話「エールの交換!これが私の応援だ!!」から。本当になんの説明もなくいる)

余談だが後のプリキュア作品で男子がプリキュアに変身するという展開があったのだが、その際に男が変身したのは俺の方が先だからねと言わんばかりに原西がこっそり観客席にいたりするフリー素材か?


とまあ書くとキリがないくらいの笑える展開ばかり。定期的にこんなノリなの投げ込まれてた作品だった。スマイルのタイトルに偽りなし。

そしてスマイルプリキュアはギャグだけでない、心震わす熱い話や涙無くしては語れない話もわんさかある。まずはスタッフからプチ最終回と呼ばれる23話「ピエーロ復活!プリキュア絶体絶命!!」は真っ先に思い浮かぶ。

か〜が〜や〜け〜〜〜〜!!!
「「「「「スマイルプリキュア!」」」」」

(猛獣の如く襲いかかるウルフルンに指パッチンで着火しつつ炎の拳を叩き込むサニー。超かっけえ)
(鼻水垂らすくらい泣いてようが絶対にアカオーニを食い止めようとするピース。このアニメはマジで泣く際には鼻水も流す)
(ウン十人も分身するマジョリーナに対して「どれが本物か分からないなら全部倒せばいい」とマーチシュート連打するマーチ。単純にしてベストな解答)
(OPで見せてた氷の剣をついにお披露目するビューティ。変態ジョーカーとの因縁もここから発生したのだなあ…)

さらわれたキャンディを助けるために敵の本拠地に乗り込むプリキュア達、それを待ち受けるのは前回5人に絶望を見せつけたジョーカーはもとよりいつもは仲良くバカやってる癖に本気出すと凄まじい強さを誇る三幹部だった!そんなのをタイマンで相手せねばならず圧倒的な力の差に打ちのめされボロボロになりつつも彼女たちは決して諦めず……負けない勇気たばねたら五つの光導く未来、まるでラスボスとの戦いのような全身全霊全力全開の死闘は中盤というのを忘れさせるほどの大迫力であった。

他にも終盤に入るそれぞれのラスト個人回も…

(40話「熱血!あかねの宝さがし人生!!」より。)
(41話「私がマンガ家!?やよいがえがく将来の夢!!」より)
(42話「守りぬけ!なおと家族のたいせつな絆!!」より)
(43話「れいかの道!私、留学します!!」より)


そして4人と続けば主人公の星空みゆきも……ここでは劇場版の『映画スマイルプリキュア!絵本の中はみんなチグハグ!』をなんとしてでも挙げたい。


(女子中学生が放つ色気ではない。きみ本当にあの大凶ハッピーと同一人物?)
(後半破れてるだけあって処分待ったなしの絵本でも興味を示したみゆきちゃん。この時点で彼女の助けを求める声は届いてたんだ……)
(約束したのに、ずっと辛く苦しかったのに遅れてしまってごめんと真剣に謝るみゆきちゃん。ここの福圓さんの演技が本当にすごいんだよ)

小さい頃に見つけたページが破れた絵本、そこに描かれた“笑顔”のおかげで人見知りでも友達ができたみゆきちゃん。そして彼女はお礼にと「(破れてしまった)お話の続きを描いてあげる」と約束するも……忘れられた少女、破れた絵本の主人公、ニコちゃんは彼女は続きを描いてほしかった。終わらない幽閉に手を伸ばしてくれると思っていた。それでも叶わなかった。その期待は失望に代わり…
ニコちゃんに教わった笑顔に助けられたように、今度こそは彼女を助けるんだ。物語の続きをみんなで笑顔になるハッピーエンドにするために。絵本の世界のみんなを、魔王であるゆえに孤独であり続けた者も……これもdアニで見れるので是非とも。

思い返せばまさに笑いあり感動ありとはこのこと。SDを務めた大塚隆史氏の「毎週楽しく見てもらいたい」(インタビューで度々言及している)を目指して製作したように一話一話のクオリティは非常に高い。原西の説明で触れた全プリキュア大投票において作品部門5位とけっこうな上位にランクインするのも納得であろう。自分も当時めっちゃ楽しんで見てた。懐かしいなぁ……



……そんな割とみんな覚えてるような内容をわざわざnoteとして記したのかって?いやいやいや、そんな程度だったらTwitterのつぶやきで済ましてますわ。じゃあなんでわざわざこんなん書いたっていうと……ここから書くのは人によっては穏やかになれない内容かもしれないし書いてる自分自身もちょっとつらいが覚悟の程を……

さて、このように話の個々の評価は非常に高いスマイルプリキュア、しかしネットでちらほら見かける感想の中にはラスト4話の展開が唐突なんじゃないかという厳しい意見も散見される。たとえば「そなござ」とか

「ウルルン!オニニン!マジョリン!そなたらでござったか!!」
そんなラスト4話の第一陣な45話「終わりの始まり!プリキュア対三幹部!!」にて最終決戦へと望むウルフルンら三幹部が「実は妖精でした〜!」と問題がサックリ解決されてそれ以降話には関わってこない展開(あまりにも唐突で印象に残ったからか以降のプリキュアシリーズで敵がかわいいマスコットになって許されるのを上記のポップの台詞を略して「そなござ」と例えるファンもいる)は敵好きの視聴者を拍子抜けさせた。彼らってギャグ回でも微笑ましくギャグやってるわ戦うとけっこう強いわウルフルンに至っては当時まさかの抱き枕が販売されてたというくらいの高い人気ぶりだったのにあまりにもあっさり解決されたらそりゃまぁ……

その後のバッドエンドプリキュアやロイヤルキャンディとか出てきたのは別に構わないんだが最終回のキャンディとの唐突に別れることになるやつとか

最終回「光輝く未来へ!届け!最高のスマイル!!」より。悪の皇帝ピエーロがさらなる絶望の力を出してきて変身アイテムのスマイルパクトを使えなくした…このまま絶望に打ちひしがれるしかないのかと思いきや復活させる手段は存在する……メルヘンランドとの世界との繋がりが隔絶される、すなわちキャンディとは二度と会えなくなるということを代償に……
いや突然出てきたなその代償設定!それはまだしもこれ今作のSD担当した大塚隆史監督が2011年に担当した『映画プリキュアオールスターズDX3未来にとどけ!世界をつなぐ☆虹色の花』ラストと丸かぶりである! 
これも当時やいのやいの言われたなぁ

そしてこの記事の冒頭でも触れたようにラストにみゆきちゃんが絵本を描き始めるという終わり方。これも突然出てきて??と思った人もいるだろう(やよいちゃんおるのになぜわざわざ拙い絵を…)実際自分もリアタイ当時よくわからなかった

さらにさらにだ、みゆきの小さい頃の体験した笑顔の物語を秋に映画まるまる一本描いたのにそれはそれ、これはこれと本編で全く別の話をやったり……クリスマス回である44話「笑顔のひみつ!みゆきと本当のウルトラハッピー!」のことである

誰よその女!?とニコちゃんが言いそう(映画を見た人なら分かるがニコちゃんはそういう重めなこと言う娘です)な謎の少女スマイルちゃん。みゆきちゃんは小さい頃に彼女と出会った過去を思い出し………映画スタッフとの意思疎通の齟齬かと邪推する人もいるかもしれませんが映画も44話も今作のシナリオ構成を担当している米村正二氏直々の脚本なので意図的で本編はこっちですとやっております。

言うならば「個々の話としては質が高いがストーリー展開による縦軸はよくない」なポイントがあるせいか実のところ一部の人から悪い所を延々ネチネチと言われ続けてるのも否定できないスマイルプリキュア。そういう否定的な意見に対して反論したくなるファンもいるかもしれないが、残念ながら否定的な意見の根本における縦軸のストーリー展開部分においてどこがいいんだと説明しようにもうまくいかない。そこは置いといて好き、とか 言語化しにくいけど好き、とか……


……リアルタイム視聴当時の自分も正直そういう所を抱えていた。それでいて放送終了してから3年後の2015年に久々にもう一度見るかと再視聴した際にとある“気付き”を得て、今作における縦軸とも言える「何を伝えたかったのか」というメッセージ性の要素を発見したのだ。一話完結強めの物語の中にもたしかにあった。存在したのだ。それに気付いてからこの作品への見方が一気に変わった。そこからは彼女たちの活躍を見る度に自然と涙こぼれ上に挙げたクリスマス回にはべしょべしょに泣き、最終回で見終わった後に一日なにもできなかったくらい放心しつつ泣き崩れて「ありがとう……」と呟くばかりでいた。やばい人間が完成してしまった。“心”に響いてしまった。スマイルプリキュア、あんたが俺にとってナンバーワンや。それは他のプリキュア作品すべてを見届け、それぞれの作品の良さを延々と語れる自信がある今でもこの1位の牙城は揺るがない。幸せは探すものではなく、感じるものなんやね……


いきなり気持ち悪い文章になってすまない、それではそんなメッセージ性要素ってなんだと言われたら……スマイルプリキュアには上で挙げたギャグ描写や感動的な描写だけで構成されてないのを覚えているだろうか。それこそが重要ポイントだと思っているのだ。それは…………




「おやぁ?どうしたんですかみなさん?さぁ、もう絶望していいんですよぉ?」
「絶望なんか…しないもん……」

「なぜ?だってもうどうにもならないじゃないですか♪」
「なんせ、私にすら勝てないような貴女たちがピエーロ様に敵うわけが無いでしょう?」
「そのうえ女王様の復活もできない。輝く未来もスマイルも、もうありえない!」

「ならば、貴女たちに残されているのは唯一つ……」


無限の“絶望”だけです。


おまたせしました。スマイルプリキュアといえば22話「いちばん大切なものって、なぁに?」での予告の時点で大多数の視聴者を戦慄させた絶望に歪むピースの表情。キュアデコルが貯まったのでメルヘンランドの女王ロイヤルクイーンを復活できると思いきや直前になってデコルごとキャンディが誘拐されてしまった!メルヘンランドに赴き主犯である敵幹部ジョーカーと対峙するも……
「いいからさっさと(最後のデコルを)……よこせぇ!!」
いつもバカやってる三幹部とは明らかに違う雰囲気、プリキュアの攻撃を軽くいなす圧倒的すぎる実力、そしてそのままどうすることもできない状態の彼女たちに今までの頑張りが全部無駄でしたねと“絶望”を心に刻みつける
。なんか出る番組こいつだけ違くない?とまでに言われたほどのガチっぷり


・頭が回りすぎてつい口を閉ざしちゃう こんな暗い顔じゃ自滅するだけで… 


さてここからが本番、今日で10周年と記念すべき日にスマイルプリキュアについて思い出してほしい重要項目になります。そもそもが10年後を書いた小説版にての帯カバーでの煽り文がこんなのになっており…

ククククク……みなさん、絶望の物語はもう始まってますよ!

再び蘇ったジョーカーの言葉に、プリキュア達は──。
3バカとは明らかに毛色が違うジョーカーさん、本編では召喚したバッドエンドプリキュアが突破されて為すすべなしと嘆き…と思ったら笑い狂いピエーロ様と一心同体になれると自身を黒い絵の具にして捧げたという不穏な退場して終わりになっていた。そんなジョーカーがまさかの復活、10年経ち大人になったプリキュアに絶望の物語を見せるそうだが……なのが小説のあらすじ。

この小説版、“絶望の物語”と銘打ってるからなんか暗い話が展開されるんだろうな〜と未読の方は思うだろうが、実際その通りで対応する大人になったみゆき達それぞれ5人の章どれもが暗く重苦しい雰囲気漂う話ばかりになっております。人によってはあまりのキツさに拒絶反応を抱いてしまった人も……まあ大人になって現実の世知辛い空気に揉まれる後日談なんてのは他作品のスピンオフでもよくあるもの、そんなありふれたものをなぜそんないきなり思い出したかのようにアピールしてくんだとなりがちだが……むしろその“暗く重苦しい”が重要なのだ。なぜなら………

スマイルプリキュア本編も割と暗く重苦しい要素が前提にあるからだ。


なにを言ってるんだ…スマプリなんて毎度毎度のギャグ展開で笑わせてきてるわ時に泣かせるわな話ばかりなのに暗く重苦しいとか……そりゃ22話での絶望したピースはじめたまに出してくる曇った顔の深刻具合は凄まじいものだが

42話「守りぬけ!なおと家族のたいせつな絆!!」より。ジョーカーに追い詰められ後の無いマジョリーナの放った凶弾が人質に捕っていたなおの弟妹へと襲いかかり……身内の突然すぎる死別は本当に心壊れてもおかしくないのでこういう顔になるわな……

そういう瞬間最大風速的なのばかりだけ言ってるのではないのだ。いわば全体的に暗い。なんというか表面上は明るく見せてるのだが、よく見ると湿っぽく拭いきれないような暗さが所々に潜んでると自分は思ってる。放送当時は掲載していた雑誌『なかよし』でなければ読めなかった漫画版が2015年に単行本にまとめられたのだが、その際に書き下ろされた最終回がものすごく不穏だと話題になったのはご存知だろうか?

上北ふたご先生による美麗なイラストで描かれるプリキュアファンにはおなじみの漫画。昔は雑誌掲載限定だったので読むのは非常に難しかったのだが、翌年のドキドキ版があまりの百合っぷりで話題になったのもあって過去作含め以降も単行本化するようになったのだ。アニメでは放送開始日だいたい2月の都合でなかなか描かれないバレンタイン回もあるぞ!

その内容とは「ピエーロとの戦いが終わりし後にも未だにこびりつく当時の不安や恐怖を払拭するために既に終わったことと明確に認識する」というPTSDの治療のようだと揶揄されるもの。そこの一部分だけ切り抜かれた内容だけ聞くとなんでこんな全然笑えない終わりなんだと疑問に抱くかもしれない。しかし自分は実際に購入しどうしてそうなったかを全て見届けた。そして改めて思った。作者(ふたご先生)は本質をよく分かってらっしゃる、描かれるべくして描かれたラストだ、と。納得ばかりであった

そんなに暗い暗い言うならどう暗いんだよとなるが、その部分は32話「心を一つに!プリキュアの新たなる力!!」が分かりやすく示している。
32話はみゆき以外の4人が怠け玉なる空間に閉じ込められてしまいみゆきとキャンディが助けに向かう話。怠け玉空間は遊園地になっており苦しいこともつらいこともない最高の空間で4人はそれに流され目も光が入ってない現実逃避状態になっていた(ちなみに助ける筈のみゆきも陥落寸前になりキャンディの助力なくては抜け出せなかった)のだが、ハッピーがその偽りの世界をぶち壊し絶望の荒野広がる空間だったというのを知らしめてもなお彼女たちは目を覚ませずにいた……そしてジョーカーは追い打ちをかけるがごとく4人に“現実”を見せつけるのだ。こいついつも曇らせてるな


「一生懸命がんばっても、結果が出なくてガッカリしてとっても辛かったでしょう?」

2話「燃えろ!熱血キュアサニーやで!!」より。バレー部に所属する日野あかねだがレギュラーの座には未だに届いてないのだ。自分はせいいっぱい頑張ってるのに、それでも結果として実らず……とある川沿いの土手にある高架下で打ち付けたボールの跡が悔しさと空しさを物語る……

「どんなに努力しても結局うまくいかない、人に嗤われて嫌な思いをするだけです」

3話「じゃんけんポン♪でキュアピース!!」より。絵を描くのが好きな黄瀬やよいがクラス内の推薦で校内美化活動ポスターを描くことになった。最初はどうせ駄目だと自信がなかったもののみゆき達の協力もあって勇気を出して描ききった……待ってたのは大賞取った美術部どもからの嘲笑だった。最初から諦めてればこんな嫌なことにはならなかったのに……

「みんなを巻き込んで失敗して、みんなのがんばりを全て無駄にしてしまった。なんの意味がありましたか?」

18話「なおの想い!バトンがつなぐみんなの絆!!」より。運動神経トップな緑川なおはクラス別対抗リレーでもラストを託された。逆に運動神経低いやよいちゃんが必死に繋いでくれた最後において……彼女は転んでしまった。抜かれに抜かれ当然最下位。自分がみんなと一緒に走りたいと言った、そして毎日がんばって練習した。それを自分が無駄にしてしまった……

「思い悩んで考えても、結局は友達に迷惑をかけて情けない自分にうんざりするだけ…」

そして青木れいか。メンバーで唯一勉学に秀でる(夏休みの宿題も当然ちゃんとやる)彼女だが16話「れいかの悩み!どうして勉強するの!?」でみゆきさんに「じゃあなんで勉強するの?」と素朴な質問され却って悩んでしまう。今まで自分は義務とか頼まれた責任で色々やってただけ、それは自分で選択した“道”ではない……

この後の話になるが37話「れいかの悩み!清き心と清き一票!!」でもそこの部分が突かれる。生徒会長選挙で当初は立候補するつもりなかったれいかさん、しかしウルフルン達が生徒会長なれば専制政治できるとバカの勘違いしてきて人間に変装しつつ宿題廃止だの頓狂な公約を掲げ立候補してくる!それを食い止めねばと立候補することにしたのだが……
「結局テメェは自分の意見がねぇんだよ、他人の文句言ってるだけだ」
(アホの公約掲げてる癖に妙に賢く)彼女の痛い所を刺してくるウルフルン。これも間違いを阻止せねばな義務や責任から、いつものように自分自身でどういう学風にしたいかという意志を持たずやってしまっている……


「あなたはあなた、皆さんは皆さん、なによりその皆さんがあなたの未来を喜んでくれているのでしょう?何を迷うことがあるんです…あなたは夢を叶え、皆さんは喜び、ついでに私も嬉しい…誰もが喜ぶ最高の未来じゃないですか!」

そして43話「れいかの道!私、留学します!!」においてジョーカーは知将ビューティさえ挫けば他の攻略は容易と彼女のイギリス留学の件で揺さぶりにかかる!(上記もそうだが彼はプリキュア相手の情報収集をマメにやってるのでこの一件も把握してる。変態だ!)なんとなく応募したとはいえイギリス留学に選ばれるなんざたいへん誉れ高い栄光なはず。それを断っちゃったら学校や家族そして友達に立たせる顔がないし、実際みんな君の栄光を祝福してるじゃないか。ほら、鏡に映った自分の顔だって笑ってる…鏡の前に立つあなた自身がこれが本当の気持ちなのかと迷い曇ろうがどうだっていい。青木れいかさん、あなたはいつもどおり周囲の期待に応え流され友達と離れ離れになればよいのです。それが皆さんも、そしてあなたも幸せになれる最良の“道”なのだから……



「考えるな。考えてもお前たちにはどうにもできない。敵わない者に逆らうな。自分の無力さを嘆き悲しめ。明るい未来など無い。叶わない夢など見るな」
(47話でのピエーロの台詞より)



これこそがスマイルプリキュアの湿っぽく拭いきれない暗さの要因、いくら努力してもそれを嘲笑うかのように結果は報われず、残るは惨めで無力な自分自身がはっきり映し出され、救われない幕引きを迎える“最悪の結末、バッドエンド”だ。あまりにも容赦なく立ちはだかり、どうすることもできず、そして考えることすら嫌になり諦め何も残らない……

「お前…本気で漫画家になれるとでも思っているのか?本当は気付いてる筈だ…お前は泣き虫で一人じゃなにもできない、どうせ途中で投げ出すに決まってるとな!」
現実はマンガみたいに上手くはいかないんだ!さっさと諦めろ!
(夢に出てきた漫画の悪党より)

41話「私がマンガ家!?やよいがえがく将来の夢!!」より。絵を描くのが好きな黄瀬やよいは将来は漫画家になりたいと思っていた。そんなある日クラスメートにマンガコンクールの応募してみないかと誘われ自身の描く理想のヒーロー「ミラクルピース」を描き上げようとするも……漫画を描き上げるなんてとてつもなく大変なことなのだ、締め切りに追われ毎日徹夜してそれでも進捗奮わずトドメに原稿に溢れる黒いインク……貴様は自身が思い描くヒーローなぞなれぬ、また諦め逃げ捨てるのがオチ……

そんな割と陰鬱な描写をギャグもやりつつポンポンやってんだからたまったもんじゃない。なんなら製作スタッフもそんな暗い部分を強く推してくる。なんてったって18話でなおが転ぶ展開にしたのはこの話を担当した脚本や演出の人ではなく、シナリオ構成を担当する米村正二氏直々の采配だからだ

(インタビュアー)なおといえば、18話の運動会では、最後に負けてしまったのが印象的でした。
(米村)制作中は、最後に逆転勝ちしようという案もあったんですよ。でも、僕がなおを転ばせたくなってしまった(笑)

スマイルプリキュア!コンプリートファンブック 88P 米村正二氏へのインタビューより。(笑)って…

こうも失敗体験が多く描かれてるせいで個人的見解なんだがスマイルプリキュアの5人はどこまでも弱く見えると感じている。一見すると優秀なれいかさんすらも何がしたいのか分からず悩んでるくらいだ。そんなへっぽこ5人組にも関わらず割と敵は強かったりする。ジョーカーは勿論のこと三幹部も……

45話「終わりの始まり!プリキュア対三幹部!!」より。いつもバカやってこちらを笑わせてくるウルフルンやアカオーニにマジョリーナといった3バカなのだが23話でもそうだったようにいざ本気を出すと基本的にプリキュアを圧倒するほどの強さを出してくる。もはや後がないとバッドエナジー全開で襲いかかった時にはプリキュアが戦闘では手も足も出ないほどに強く、彼らが荒んだ心を浄化し元の妖精に戻すという平和的解決でなければ間違いなくやられていた程であった。敵幹部の強さといえばジョーカーばかり目に行くがこいつらも大概だったりする。

そしてラスボスであるピエーロ……中盤に一度復活するも速攻で倒され再び封印、終盤ウルフルンが何者なんだよとジョーカーに問い詰めはぐらかされたりと最後の最後まで結局どんな奴だったのか分かりにくかった存在だが47話「最強ピエーロ降臨!あきらめない力と希望の光!!」にて明かされる…彼女たちが何と戦っていたのかを……

「ピエーロ……あなたはいったい……なんなの!?」

「…怨念だ。生きとし生けるもの、全ての負の感情が私を生み出している。お前たちにもある筈だ……憎しみ、怒り、哀しみ、孤独…それはお前たち人間が生きてる限り存在する……“絶望の物語”だ」

「湧き止まないその負の感情はやがて無限の絶望となり世界を覆い全てを無くし怠惰に身を委ねる……未来は闇だ!」


いわば最悪の結末から発生した負の感情が怨念として集合し、禍々しい邪神の姿で顕現した絶望という概念そのものであり、それを幹部達が人々を強制的に絶望させ採取したバッドエナジー(たまに虫のも混じってたりする)によって肉付けされ早々と復活したと考えればわかりやすい。しかしそのような絶望はなにも採取したバッドエナジーだけではない、先程の台詞をよく聞くと「お前たちにもある筈だ」と……
彼女たちがこれまで経験した報われない結果、辛くどうしようもない結末、そこから生まれる苦しみ……プリキュアとしての戦闘以外の日常でも発生していたそれら負の感情もまたピエーロを形成すると言ってもいい。そして「お前たち人間が生きてる限り存在する」というようにこれらの辛く苦しい事実は物語内のプリキュアだけでなく、我々のような現実を生きる者にも当然発生する。絶望を呼び起こす事象への不安や恐怖はどう足掻いても付き纏い続ける。ふたご先生が倒した筈のピエーロへの恐怖を拭いきれず悪夢として蘇ってしまうという後日談を描いたのも納得がいくだろう。そして、それは10年後の彼女たちに再び……

さらにたちの悪いことにその絶望の概念は「未来は闇」とのたまう。負の感情を発生させる根本の原因……辛く苦しい現実から逃げたくなるだろう。そりゃ時には立ち止まり休むことも重要である、しかし現実逃避を続け向き合うことを放棄し思考を止め楽な方へ流され怠惰に身を委ねようが、苦しい現実は残り続け、新たな苦悩を生み出しまた逃げもはや行動することすら億劫になり、残酷な現実は先へ進む希望すらも一寸先見えぬ暗黒へと塗り潰し染め上げる……まさしく「絶望の物語」。光すら差さない永遠の闇によって幕は閉じる救われぬ物語、そんな世界を綴ったのは紛れもない自分達の弱い心……

32話「心を一つに!プリキュアの新たなる力!!」にてハッピーが怠け玉の幻覚を打ち破り絶望の荒野広がる空間であることを証明してもなお4人は未だ楽しいばかりの世界しか目に映っておらず…実際には誰か(大切な友達)が目の前で必死に戦っているのを認識したにも関わらず見て見ぬ振りしていた。見るのが怖かった。上述したジョーカーが責め立てたように嫌な現実を見たくないから。
「全てを怠惰な世界に」中盤に復活したピエーロが呟いた意味深な言葉…この考えたってどうしようもないような思考こそが絶望を振り撒く存在の描き綴る怠惰な世界、逃げたくなるが逃げ場なぞ存在しない世界そのもの…

「貴様達の希望は口先だけか?本当の深い悲しみを知らないお前達が世界の絶望に敵う筈がない」
それでいてそのピエーロ自体も案の定とんでもなく強い。地球上の全生命から湧き続けるバッドエナジーによる無限の絶望は伊達ではなく、何度退けようが無限に復活する絶望の魔獣の大軍をけしかけ、最終的にはそれらも全て取り込み天体レベルもの闇…もはやブラックホールそのものと化し、あまりの絶望の力に変身アイテムのスマイルパクトすら使い物にならなくして抗うことすら許さず“どうすることもできない”を叩きつける。ただただ受け入れるしかない残酷な現実、絶望とはこういうことだ。

ただでさえ無力な自分たちを強調した作風なのに立ち向かう敵…というより現実は無情とも呼べる過酷さをも備わっているのが『スマイルプリキュア!』なのだ。この作品は決して明るく楽しいばかりの話だけではない、目を逸らさずにそのような暗さも見てほしいのだ……

……なぜそんな重苦しい要素をわざわざ知らしめたかったのか?それは今作の縦軸を構成するメッセージ性を示したかったからだ。そしてこれはプリキュア、どんな困難を前にしても決して諦めず前へ進もうとする少女の物語なのだから。それならば彼女たちはどうやってこんな強大なる絶望に立ち向かったのか?それは……何も見えぬ無明の闇、その中においても輝き続け明日への道標となる…希望の光

(47話にて絶望の闇に沈められ墜ちて往くしかなくなったプリキュアに対し差し伸べられる……白く輝く光より)


・辞書にはない幸せの意味選べば 明日はきっと流れが変わる笑顔に戻れる

それではこんな暗く重苦しい闇…報われない結果と無力な自分に対し彼女たちはどう立ち向かったのか。それについてはこれまた32話でジョーカーが4人に思い出させてきた苦々しい経験を辿っていこう。まずは日野あかねの2話「燃えろ!熱血キュアサニーやで!!」だ。バレー部のレギュラーになれず高架下でボールを打ち付けていた日野あかね、下校中それを見かけた星空みゆきは……

「……よし!」

(豪快に土手を滑り落ちるみゆきちゃん。かわいい)

「泣いてるとハッピーが逃げちゃうよ!スマイルスマイル♪」

……日野さんから垂れ落ちる水…それを涙だと思ったのか真っ先に駆けつけてくれた(実際は汗だった)星空みゆきは彼女にこんな言葉をかけてくれた。泣かないで。そんなこと言ってもなんの解決にもならない正直ただの気休めなのかもしれない。それでも……

「ウチは落ち込んだりせん」とは言ったがさっきまで深刻な顔してたのは事実だし後に現実逃避の口実のひとつとして突かれるほどに気にし続けてた、それでも彼女は笑ってくれた。どうすればいいんだと一人で思い悩む暗い顔ではなく、前向きに明日へ向き合うことができた(あとこの笑顔本当に好き)

これなのだ。この前へ向こうという気持ちの変化、これこそが重要なのだ。確かに根本的解決はなんもなってない。現実は相変わらずだ。それでも前へ向くというのが大切なんだ。

「そんなんじゃハッピーが逃げるで。スマイルスマイル♪」
後に2話にて演出を担当した黒田成美氏が監督を務めた『映画スマイルプリキュア!絵本の中はみんなチグハグ!』においてもこの台詞は再び用いられている。自身が幼き頃に約束したものの忘れてしまっていた絵本の続きを描くこと…それがどれほどまでにニコちゃんとこの絵本の世界を苦しめたままだったのかを知ってしまい悔やみ落ち込むハッピー……その際にサニーがあの時に言ってくれた言葉、救ってくれた言葉をかけてくれた。君のおかげで前を向けた。だから今度は君が前へ向けるように……(余談だが自分はこの映画を劇場で見てなくて後に円盤で鑑賞したのだが、このシーンであまりにも泣きすぎて10分くらい再生を停めてた。ここでの回収は俺に効く)

続いては3話「じゃんけんポン♪でキュアピース!!」自信が無かった黄瀬やよいが校内美化活動ポスターを描いたものの、努力賞はともかく侮蔑を受けることになってしまった話だ。しかしその過程にこそ……

「やる前から諦めるなんてもったいないよ!」「たしかに結果は分からないけど…もし黄瀬さんが少しでもやってみたいなら…」
推薦したのはいいが自分には無理だと思っていた黄瀬、それなら仕方ないとあかねちゃんは降りるのを伝えようとするが…みゆきちゃんは一瞬それを止めようとする黄瀬さんを見て本当の気持ち…描きたいという心を察した。そしてそれならばと一押しし自分達もポスター製作の手伝いをした。勇気を与えてくれた人がいたから本当にやりたいことをやれた。

「わたしは弱虫だけど…すぐ泣いちゃうけど……ふたりはわたしに勇気を出すキッカケをくれた大切な友達だもん!ふたりを傷つけるのだけは……許さないんだから!!」

確かにポスターの結果はお情けな努力賞、それはともかく大賞取った美術部に酷い嘲笑を浴びて心底嫌になった。そりゃあんまりで報われない結末なのは事実だ……でも、ふたりのおかげで一歩前へ踏み出すという勇気を出せた、その自分を変えようとできた過程も紛れもない事実である。こんな怪物なんぞ敵う訳ないし逃げたいくらい、だけどそれ以上にふたりを助けたい。だってそれがわたしの大好きな……

「わたしは泣き虫で一人じゃなにもできないと思っていた……だから強いヒーローに憧れてミラクルピースを作り出したんだって……」
「そのとおりオニ。だからそんなもの幻だって言ってるオニ!」
「違う!ミラクルピース派わたしの中にちゃんといる!わたしの中にほんの少しある強い心がミラクルピースなの!」

そして41話「私がマンガ家!?やよいがえがく将来の夢!!」より。「絵は人の心を映す鏡」と3話でみゆきちゃんが言ったように、小さな頃からヒーローが好きなやよいは臆病で泣き虫な自分の中にも存在する「ヒーローのように強くなりたい」という勇気の心を描くことで表現していた。ポスターの時も、漫画の時も……身も心も疲れ自分には無理だと諦めそうになったのも自身の弱い心からだろう、でも自分の中にもヒーローはいる、どんな恐怖や困難を前にしても踏みとどまり絶対に逃げない自分もいる
「ミラクルピースは幻なんかじゃない……わたしがちゃんと最後まで描き上げてミラクルピースの物語を完成させるんだから!」

時には辛い現実から逃げたくなる弱い自分がいるのは確かだ、でもだからこそそんな苦境に負けたくない自分もいる。大切なものを諦めたくない自分がいる。そしてそれを気付かせてくれたのは友達……

そして彼女は無事に脱稿し最終回における後日談にて佳作ながらも賞を獲得した。自分の勇気で踏み止まり少しずつでも前へ進めたのである。

次は18話「なおの想い!バトンがつなぐみんなの絆!!」せっかくの皆のがんばりを最後の転倒で無駄にしてしまったような緑川なお、だがしかしそれも……

そもそもが他クラスは全員陸上部で固めてると当初から勝ち目薄いクラス別対抗リレー。クラス内からも「どうせ勝てない」と弱気な声が……それに対し眉をひそめ走者として立候補するなお。しかしそんな速い彼女が推薦する他メンバーにはプリキュアの4人、当然そこには運動神経ドベなやよいちゃんもいた……

まさかのメンバーに黄瀬がいるのに案の定クラスは騒然。さらには後日の放課後に「てかなんで黄瀬?」「ぜってぇ負けんじゃんw」と容赦ない陰口吐いてるし黄瀬本人がそれを聞いてしまう。ひでぇ言い分だが事実というのは残酷なもの、リレーの戦力的に間違いなく彼女は足手まとい……それでもなぜなおちゃんはメンバーに加えたのか?

「ごめんね。あたしのワガママに巻き込んじゃって…あたし……みんなと走りたいんだ。この5人で一緒に

「仲間と一緒じゃないとできないことがある!あたしはやりもしないで諦めたりはしない……“どうせ”なんて絶対言わない!」
「あたしはリレーもプリキュアもみんなで一緒にやり遂げたい!みんなで力を合わせればできないことなんて何もない!」

勝ち負けという結果じゃない、走る前からどうせ無理だと諦めたくない、みんなで一緒にやり遂げるこそが大切だから。そこには勿論やよいちゃんも含まれている。それだけではない…

あれだけどうせ無理だの絶対負けるだの言ってたクラスの奴らも黄瀬の全力で走ってる姿を見て心の底から応援してる。なおちゃん諦めたくない信念はクラスの心も一丸にしたのだ。そして……

「あたしも……みんなと走れてよかった……」
自身の転倒で最下位になってしまったのは覆しのない事実だし悔いる部分はある、けれど諦めそうになってたやよいちゃんを、どうせ無理だの言ってたクラスの皆も一致団結へとつなげられた。その頑張りは勝ち負けだけじゃない未来へ……無駄なんかとは言わせない。米村氏はこれを伝えたくて敢えて彼女を転ばせたのだと引用したインタビューの続きにて語っている。


そんでもって青木れいかさんだ……こちらはジョーカーやウルフルンに指摘された通り義務や責任からの行動ばかりで自分自身に真にやりたいことが見つかってない。そんな彼女が見つける“道”とは……


「(遅れて参戦したれいかに対して)おまえ道にでも迷ってたオニか?」
確かに私は迷いました。私の本当にやりたいことはなんなのか……でも、私は、私の意思でここに来ました。人々を嘆き悲しませる悪事、私は見過ごせません!」
16話「れいかの悩み!どうして勉強するの!?」より。自分は本当は何をしたいのかと悩むれいかさんは4人の頑張りを観察することにする。そこには4人がやりたいことに対して真剣に取り組むのに比べ自分の何もなさを感じたが、同時に多くの発見という気付きがあった。なぜ勉強するのかの問いへの答えが。
「学校の勉強も大切ですがそれだけじゃない!もっと色んな事を見たい、聞きたい、知りたいと!そしていつか、自分のやりたいことを見つけたい」
まだ自分のやりたいことを見つけてないのは実際にそうだ。でも、みんなのおかげで勉強する理由…その自分のやりたいことを見つけられるための光明になれると気付けたのだ。僕の前に道はない、僕の後ろに道は出来るという実際の詩の一部を引用したように、いずれその迷いもまた“道”になるように…

ちなみに29話「プリキュアがゲームニスイコマレ〜ル!?」において4人が遊びすぎて夏休みの宿題ぜんぜんやってないことを責められた際に(唯一ちゃんと終わらせてるビューティが)「遊び自体は決して無駄ではありません。それも大切な勉強のひとつです」と言ってるのも16話での学びあってのことだったりする。こう見るとギャグ回にもさりげなく縦の繋がりもけっこうあったりするのだ。まぁそんな彼女も4人の残った宿題を手伝ってくれたが結末は……

「確かにわたし…お掃除も勉強も好きじゃない……でもれいかちゃんはそんな自分にも掃除や勉強の大切さを教えてくれる!」
37話「れいかの悩み!清き心と清き一票!!」より。上っ面行儀いいことだけ言って自分の意見じゃねえとウルフルンに指摘され反論できない彼女だったが、それでも彼女の真摯な意見から学んだという声がある。自分がみんなから教わったように、自分もみんなに教えていたのだ……そしてそれは学校の皆さんにも自分の伝えたい意見にもなっている。それこそが自分のやりたいこと、僕の後ろに道ができる……

何も無い自分が映し出されたかもしれない、でも自分の気持ちは確かに存在していた。持っていた。そして自分が進みたいと心から思う“道”も……


「私も行きたくない!もっとみんなと一緒にいたい!みんなと別れて離ればなれなんて……そんなの…そんなの…そんなのやだ!!」

(常に敬語のキャラが放つ敬語を保てない程の真なる叫びはすごいものがある)

「なぜ再び戦うのです!?周りの期待に応え、大人しく留学すべきでしょう!」
「それは貴方の考え!私の答えじゃない!」

「夢を捨て、人を裏切るというのですか!?あなたらしくない!“道”を見失ったのですか!?」
「いいえ、見つけたのです!寄り道、脇道、廻り道…しかしそれらも全て“道”!」

イギリス留学への道に対しての迷いを祖父・曾太郎は気付いていた。そして崩した字体の“道”を示す……寄り道、脇道、廻り道、これらも道に違いない、と。なにも美しく舗装された道じゃなくていい、大切なのは自分がどう進みたいかだから。

「私が歩く、私だけの道。たとえそれが遠回りだとしても……これが嘘偽り無い私の想い、私の我儘、私の…“道”です!」

43話「れいかの道!私、留学します!!」にて彼女の心からの想いが声になる。留学すればそれはとても誉れ高いかもしれない。でも……自分はみんなと一緒にいたい。みんなと一緒に歩んでいきたい。心からそう思ってる。それが私の、みんなのおかげで見つけた自分の心だから。氷剣に映る顔は何も持たぬ者を惑わせる鏡と違い全くの同じ顔……迷い無き自分が進むと選んだ“道”。

いかがだろうか?確かに『スマイルプリキュア!』は嫌になるくらい報われない結果を突きつけてくる。惨めな自分を見せつけてくる。だけど、そんな逃げたくなるような現実を前にしても、ちっぽけな自分達でいようとも、決してそれで終わろうとせず前へ進もうとしている。次こそはと前向きになれた、自分の中の勇気を出すことができた、結果以上に大切なものを手に入れた、自分にもやりたい事を見つけられると気付けた……そしてそれはどれだけの絶望を前にしても決して諦めず、自分の持てる限りの力を振り絞って一生懸命に足掻き前へ進もうとすることになっている。未来は先見えぬ闇が広がっているかもしれない、どうすればいいか分からず考えるのも億劫になり逃げたくなるかもしれない、それでも……


・向き合うこと ほんの少し勇気出せれば呼応する

「わたし…メルヘンランドであなたにボロボロにされたとき分かったの………」
(32話のハッピーの台詞より)

22話「いちばん大切なものって、なぁに?」より。圧倒的な力の差で絶望を叩きつけたジョーカーがプリキュアからピエーロ復活への最後のバッドエナジーを採取する……手も足も出ないのにさらにそこから悪の皇帝なるものまで復活する……もしそんなのが復活し勝てなかったらもう元の世界へ帰れなくなるのでは……家族や学校のみんなにもう会えなくなるかもしれない……でもそうしたら攫われたキャンディは?なにもしないで帰るなら、見捨てるってことになる。そういうことになるのだ。敵わない相手に挑まねばならないのか、恐怖に怯え逃げ捨ててしまうのか……彼女たちの前にあるのは、余りにも過酷であり残酷でもある選択だった……

わたし…どうすればいいか分からない……これはすごく考えないといけない気がする。うまく言えないけど……自分にとって、なにがいちばん大切なのか。
普通の女の子達にはあまりにも重い選択、考えたくもない苦渋の選択…しかしみゆきちゃんは言う。キャンディを取るか家族や友人を取るか、それとは違うなにかを考えるべきだ、それこそタイトルのように『いちばん大切なものって、なぁに?』と。

現実逃避…思考停止…自分ではどうしようもない嫌な現実を前にしたら人は考えを放棄したくなりがちである。それこそ絶望の化身ピエーロが求めていた怠け玉の空間で形成されていた「怠惰な世界」…ただ絶望の物語という残酷な現実に抗うことすら諦め未来閉ざされし闇に沈むしかない報われない物語である。

ならばその絶望に繋がる怠惰に対抗するとならば……今作の監督である大塚隆史氏がメインテーマにしているという「大切なことは自分で決めなければならない」(コンプリートファンブックでのインタビュー参照)。周囲に流されず、ちゃんとその事実に向き合って、それでいて自分で決めなくてはならない。それは32話でハッピーが言うように「答えを出すのは大変だし、面倒だし、苦しいし…」であるだろう。でも……「辛いかもしれないけど、わたし達はそうやって少しずつでも前に進んでいきたい!」と続くように、現実から目を背けず前に進むしかない。そういうのを包み隠さず描いてるのこそがある意味でスマプリの一番シビアな部分かもしれない。

結論から言えばその答えは分からなかった。彼女らはあくまで普通の女の子…明確な答えなぞ出せる筈もない。それもまた分不相応な自分自身をありのまま映してるかもしれない。それでもその考える過程にこそ気付いたものがあった。家族も友達も大好きだし、それと同じくらいキャンディも大好き。だからキャンディも含めたみんなと一緒がいい。それだけはハッキリと分かった。だからこそ必ずキャンディを助けみんなで無事に帰る。それが自分の、自分たち5人のやりたいこと。

失いたくない友達のためにどれだけ困難が待ち構えてようと彼女たちは立ち上がり絶対に諦めないと前を進む。一人では目を逸らしてしまうような重く苦しい現実だろうと、友達が支えてきてくれたからちゃんと直視し乗り越えられる。だから友達と一緒にいたいそのためなら限界以上の力を振り絞れる。この友達に持ちつ持たれつな関係こそが七色ヶ丘中学2年B組という同じクラスに集えたスマイルプリキュアの5人メンバー(そしてキャンディ)の特徴であり最大の強みであろう。

そそうやって決意を固めた翌週23話「ピエーロ復活!プリキュア絶体絶命!!」で敵地に乗り込み案の定ボコボコにされるプリキュア達。だが絶対に友達を助けるという強い決意で限界を超えた力を発揮し退けキャンディを救出、さらには復活したてのピエーロをもプリンセスフォームで浄化しみんな笑顔のウルトラハッピーで帰還した。みんながいてくれたから強くなれた。悲劇の結末にはせず、絶望の未来に打ち勝つことができた。


「不器用かもしれないけど…
わたし達はみんなと一緒に未来に向かって歩いていきたい!」
「みんなで進む未来は!キラキラ輝いているから!!」

そして32話へ…一人では勝てない強敵を前にしても決して怯まず立ち上がるハッピーの心の叫びで現実から目を背けていたみんなは……涙と共に目にハイライトが入る。彼女はこんなにも頑張ってる。自分達のために。あの時のように。だから自分達もあの時のように逃げずに頑張りたい。苦しい現実を前にしても諦めず進んでいきたい。みんなと一緒なら幻想じゃない最高の未来へ辿り着ける!5人から6人へ、みんなの決意は固く……

確かに『スマイルプリキュア!』は報われない結果に対しどうしようもできないと惨めな気持ちになるばかりの弱さを容赦なく見せつける作品だろう。そして我々の生きる現実もそういうのは常に存在する。なにもかも投げ出し逃げたくなるような嫌な事ばかり……しかしそれで弱りきった者にも厳しき現実は依然として襲いかかり、弱いままなので対抗も当然できず、最終的にはもはや動くことすらできぬまま絶望の未来に塗り潰され尽きていくというのは目を背けたくなるがこの世にいくらでも溢れてる生々しい悲劇の結末である。
だからこそ、だが諦めず前を進むしかない。自分の物語は自分で決めるしかない、それに対し一歩踏み出し進み続けるのは覚悟と勇気が必要だ。弱い自分自身だけでは届かないかもしれない…だけど支えて後押ししてくれる、導いてくれる道筋を照らしてくれる大切な人がいる。そしてその自分を応援してくれる大切な人々のために頑張れる。大切な人と、自分が一緒に笑い合えるような未来にしたいから。だからこそ辛い現実に立ち向かえる。これこそが『スマイルプリキュア!』における大切なメッセージ性だと自分は捉えてる。過酷な暗闇の中にも救いの道、未来照らす希望の光は存在する……

ちなみに三幹部も物語に出てくるいつも酷い仕打ちを受け終わる悪役ポジションという役割で生まれてしまった存在とお先真っ暗な奴らで、そこをジョーカーに唆され生みの親であるロイヤルクイーンに反抗してきたとも言えるだろう(こういう末端で苦しむ者に救いの手が行き届かなかったの為政者あるあるすぎて胃が痛い)。しかしみゆきちゃん達はそこらへんの辛さをよく分かってるので彼らに救いの手を差し伸べられたのだ……確かに大塚隆史氏がコンプリートファンブックで「彼らメインにするのも可能だったがあくまでプリキュアが主役」と言及したようにアッサリ解決したのは事実だけど、そういう納得いく落とし所はちゃんと存在するのでご了承してほしい。

どうしようもない絶望の未来への対抗を描いたスマプリ。これで絶望の化身ピエーロとも立ち向い絶望を打ち祓えた………とでも思っていたのか?
最終回にて無限の暗黒と化して全てを闇に塗り潰そうとした奴は「本当の深い悲しみを知らないお前達が世界の絶望に敵う筈が無い」と言ってきた。どれだけの苦境を前にしても諦めず進んできた5人……しかし、しかしだ、どれだけ自分が頑張っても変えようがない真に“どうしようもできない”ものも確かに存在する。それは……


“別れ”という終わりは、いつか必ずやって来る。

36話「熱血!?あかねの初恋人生!!」より。日野あかねがひょんなことから出会い、後日留学生として転校してきた形でまさかの再会をしたイギリス人少年ブライアン・テイラー(演ずるは英語にも精通している柿原徹也と拘りがすごい)。そんな縁もあってか彼と彼女は次第に仲良くなりもうほとんど付き合ってるようなもんだろみたいなデートしたりして……でも彼は3週間だけ日本に滞在するという約束、そして帰国する日が来てしまった……夕陽に照らされながらブライアンに何も言えなかったあかね、こればかりはどうしようもない。どうしようもできない………


・いつか滅びゆく日が来ても、じたばたしない


出会いがあるのならば別れというのはいつか必ず来る。そりゃ出来る限りならばそういうのは避けたいしものだし、彼女たちも実際にそういう大切な人と離ればなれになるようなことから全力で対抗していた。上でのキャンディ救出戦もそうだったし、他にもあった。

「こわかった……こわかったよぉ………」
42話「守りぬけ!なおと家族のたいせつな絆!!」より。マジョリーナの放つ凶弾がなおの弟妹へと襲いかかる!プリキュアではない一般人が当たれば間違いなく死ぬだろう一撃が着弾から爆裂する……心壊れる寸前の絶望に陥るマーチの前に現れるは仲間のおかげで助かった弟妹たち。戦闘後に安堵したなおは泣きつく……本当によかった……

「友達だから…わたし達が笑って送り出してあげなきゃ……笑って…笑って………ごめん、やっぱ無理
その次回43話「れいかの道!私、留学します!!」にてイギリス留学が決まったれいかさんと別れねばならなくなったみゆき達。ジョーカーがその事実をビューティに突きつけ追い詰める中で彼女の友達は……無理して抑え込んでた本音を泣き叫んだ。友達と離れたくないと。そしてその意思は青木れいか本人が自分の心からの正直な気持ちもそうだと気付いたのだった……

しかし、しかしだ。いくら自分が、仲間が努力しようとも避けきれない別れというのは確かに存在する。帰国するタイムリミットがあるブライアンはそのいい例だ。本当にどうしようもない別れ、今まで培ってきた絆の消失。悲劇の完結。そしてそこから生まれる悲しさや寂しさの感情もまたピエーロを形成する絶望の一面……当然それも我々が暮らす現実においても発生している。分かりきっていた未来に到来するのだけでない、悲しいことにそれは前触れなく唐突にも訪れることがある……

思えば放送していた2012年…の前年に発生したあの大災害、それのせいで大切な人を失ってしまった方々も当時見てた人もいるかもしれない。本当に痛ましく、未だに傷が癒えぬ人もいるだろう一件だった。それに影響されてか2012年に開始したニチアサもどことなくそれを意識したような内容だった。『特命戦隊ゴーバスターズ』は災害で離ればなれになった家族と再会する為に戦士として立ち上がったのに、待っていたのはその家族は二度と助からないという残酷な現実だった。『仮面ライダーウィザード』は愛娘を病で亡くし絶望しかけた男が、娘を復活させる“希望”を掴む為の儀式に無関係の市民を多数生贄に捧げる凶行に及んだ。振り返ると過酷な時間帯だった。そしてこの『スマイルプリキュア!』も……この2作品ほど直接ではないが自分の力ではどうしようもできない、いつか必ず訪れてしまう別れという終わりで描いている。それは最終回においても……

「そうだ。それが“絶望”だ。お前達が希望だという友達は失われ、地球も無くなり、明日は永遠に来ない」
最終回「光輝く未来へ!届け!最高のスマイル!!」より。全世界の絶望を集結したピエーロの力はすさまじく、希望を生み出すためのプリキュア変身アイテムすら使用できなくする程だった…もはや闇に呑まれ全て消えるしかないのか?いや…希望はあった。キャンディが最初からずっと持っていた奇跡の秘宝ミラクルジュエルの中に残された最後の希望のパワーを使えば変身できる。絶望を退け希望に変えることができる。だがしかし、それを用いればメルヘンランドと現世の繋がりは完全に絶たれる…すなわちキャンディと二度と会えなくなる(あとポップも)そもそも彼女と出会えたこと自体が一種の“奇跡”だった
「それだけは……それだけは………絶対に嫌!どんなに辛くても!どんなに苦しくてもいい!でも……キャンディがいなくなるのだけは………絶対に嫌だ!!」
どんなに苦しい現実を前にしても「みんなと一緒にいれば」「みんなと一緒にいたい」で乗り越えてきた。それなのに、その現実はそれすらも奪っていくなんて…………

確かに以前に大塚隆史氏が監督を務めた『映画プリキュアオールスターズDX3未来にとどけ!世界をつなぐ☆虹色の花』のオチと丸かぶりなんだけど、いうなればこちらのオチは一年かけて辿り着くべきして辿り着いた結末とも言える。唐突っぽく見えるが実はそうなっていたりする。

どれだけ苦難が立ちはだかってもせいいっぱい乗り越え突破してきたプリキュア達、しかしどう足掻いても変えることができない別れはこの世界に確かに存在する。受け入れねばならない喪失、辛く苦しいというのは決まっている。だがそれでも……


話を戻して36話に。ブライアンが帰りの空港へ向かう際のクラス中の見送りに彼女は顔を合わせられず抜け出していた……高架下のあの場所…部活でレギュラーになれなかった際もいた場所、やりきれない想いを胸に抱えた時に来る場所にいた。
「もうええねん!……だってもう……どうせもう会うこともあらへんやろ……」
どれだけ楽しい時間もいつか終わりが来る、それだけのこと。終わっただけ、そう、どの道終わる……どうしようもない運命なだけ……

「……本当にそれでいいの?なんていうか……それはたぶん……あかねちゃんらしくないよ」
あの夕焼けの時に一緒にいた彼女は問いかける。レギュラーになれない辛い事実を前にしても今は特訓あるのみと前を向いていたじゃないか。それに…
「それが意味が無いなんて……そんなの寂しいよ……」
この後に襲いかかる愛だの恋だのくだらないとぬかす(先程まで見てたドラマがそんなんで呆れてたから)ウルフルンが「なんだかんだ言った所で最後は別れて終わりなら無意味で無駄だろ」と痛い所を突いてきた際にこう返した。そんな何も残らないなんて悲しいじゃないか……

それなら何が残るのか?思い出してほしい、なおちゃんがリレーで転んでしまった際にそれまでの努力が全て無駄になっただろうか。そんなことはなかったじゃないか。ならばこの2人との間にも残るものはある。確かに存在するものが。

「そうや……無意味やない……無駄な筈あるかい!」
「離ればなれになったとしても一緒に過ごした時間は消えへん!それが……無駄なワケあってたまるかーっ!!」

「とりとめのない会話、一緒に見た景色、全てかけがえのない大切なものなんだ!たしかに感情は一時のものかもしれない……でもそれは!永遠に残る宝物なんだ!!」どこかの遠い国の王子様がこう言っていた。彼もまた想い人と別れねばならない運命に立っていた。しかしそれでも残るものは存在していた。輝かしい想い出。そしてこの二人にもまた……

だから前を向くんだ。なんとしてでも逃げずに向き合うんだ。手が届くのに手を伸ばさなかったら死ぬほど後悔する、だから……別れは辛いだけなんかじゃない、その過ぎ去りし日々は美しく、自分の中で生き続ける……そんな想い出を分かち合ったから感謝の笑顔で迎えようじゃないか

たとえ離ればなれになる運命が待っていようとも、共に過ごした時間、輝かしき想い出は決して無くならない。そしてそれがあるから前を向ける。明日を笑顔で迎えられる。

そして40話「熱血!あかねの宝さがし人生!!」にてブライアンからの手紙が届いた。必死に走り伸ばし繋いだ手は確かに残り続けていた。そして10年後……

失われた人との間に残るものといえばこの話も念頭に置いておくべきであろう、父の日回で当時見た人の多くが心打たれ涙した19話「パパ、ありがとう!やよいのたからもの」を。亡き父、黄瀬勇一とその娘やよいの間に確かに残る愛の話を。

季節は6月、降り続く雨ばかりの日に自分の名前の由来を調べてきなさいという宿題が出たのだが黄瀬やよいにはそれを調べるツテは無かった。自分の名やよいを付けてくれた父・勇一は今やこの世にはいない…そして他の提案を頑なに聞かないまでに名付けたその由来は誰にも話さなかったので母・ちはるにさえも……いや、「パパは生前、その話をやよいにした」とは伝えてくれたそうだ。5歳の自分に遺してくれたその言葉、しかし憶えておらず……
「小さい時はもっとパパのこと憶えていた筈なのに、今じゃパパとどんな風に暮らしてたかさえ思い出せなくなっているし……時々思うんだ、パパはあたしのことどう思ってたんだろうって……」

「そんなの決まってるよ。パパはやよいちゃんのことを愛してた。絶対に、誰よりも。」
大切な筈の記憶を忘れてることを悔いて自分は父にどう思われてたのか分からなくなってるやよいちゃんにみゆきちゃんはこう言ってくれた。もちろん彼女は実際に会ったことはない、それでも今ここにいるやよいちゃんを見ればそれは十分に分かる。

「これはパパのたからもの、今はママのたからものにもなってるものよ」
母に傘を届けに来たやよい。そしたらかつて自分がパパにあげた“たからもの”を見せてくれた。ママが話してくれた思い出話も含め少しずつ思い出してく記憶……あの時、確かに言ってた。自分がなぜ やよい なのかを…


「“やよい”っていう名前はね、産まれた時のやよいの顔をじっと眺めていたら思い浮かんだんだ。」
「ママの“ちはる”って名前は千の春って名前だ。ママは優しいだろ?パパはやよいにもママみたいな優しい人になってほしくて“弥生”って名付けたんだよ」

とある教会でママにはナイショで挙げた結婚式ごっこ。終に見ることはなかった愛娘の結婚式。そこで彼女は聞いていた。自分の名前の由来を。そして間違いなくパパは自分のことを(そしてママのことも)…

ごめんね……すぐ思い出せなくて。パパはわたしをあんなに愛してくれたのに……あんなにいっぱい……

雨が上がり青空広がる中で思い出した。あの日、あの時、パパと一緒にいた。自分の想い出として残り続けていた。そして「やよい」という自分の名前こそがパパからくれた“たからもの”。
「名前は私たちが親に貰う最初の愛情」
決して無くならない、永遠の愛。自分は確かに貰っていた。

二度と会えなくなろうとも、共に過ごした時間も、楽しかった想い出も自分の中に生き続ける。大切な人を失うというのは筆舌に尽くしがたいくらいに辛く、悲しく、なにもできなくなるほどになってしまう場合だってあり得る。けれど……いつかは立ち上がって明日を迎えなきゃいけない。その時はその人との輝かしき時間を思い出してほしい。それが自分が未来へ進む際の後押しをしてくれるから。自分は今作を通じてそう感じ取った。この解答自体がこれまで見せてきた中で一番残酷な現実かもしれない、本当に長き苦しい道のりになるかもしれない……それでも………………

「これが………絶望………」
そして最終回へ。どう足掻いても友と二度と会えぬ結末は変わらないという現実を前にしてもはや涙すら流せなくなり、なにもかも考えることができなくなり呆然自失しそうになったみゆき。そのまま思考を止め、闇に呑まれ、全て無に帰せばどれだけ楽なのだろうか……しかし、希望を諦めない光は残っていた

「大切な……大切なことは…ちゃんと自分で考えて自分で決めるクル……」

キャンディは前を向く決意をした。絶望そのものの言うままにせず、自分自身で選択した。その結果に待ち受けてるものに目を逸らさず見据えたうえで。そりゃ自分だって友達に助けられたし友達を助けるくらいにずっと一緒にいたいと思ってるから今生の別れなぞ辛いに決まってる。それでも彼女には残り続ける大切な想い出があった。

「キャンディはみんなと一緒で…たくさんたくさん楽しかったクル…!」

(1話「誕生!笑顔まんてんキュアハッピー!!」にてプリキュア伝統の顔面激突で運命の出会いを果たすみゆきとキャンディ)
(8話「みゆきとキャンディがイレカワ〜ル!?」にて変身できないながらもみゆき(キャンディのすがた)を守ろうとするキャンディ(みゆきのすがた))
(12話「目覚める力!レインボーヒーリング!!」にて自分が失敗ばかりして迷惑かけてると落ち込むキャンディを慰めるれいかさん)
(13話「修学旅行!みゆき、京都でどん底ハッピー!?」にて運良く遭遇した舞妓はんと記念撮影する6人)
(20話「透明人間?みゆきとあかねがミエナクナ〜ル!?」にて舞空術ごっこするキャンディ)
(25話「夏だ!海だ!あかねとなおの意地っ張り対決!!」にて海に来たのでやよいと遊んでるキャンディ)
(26話「夏祭り!夜空に咲く大きな大きな花!!」にてみんなと一緒に祭りを堪能するキャンディ。)
(30話「本の扉で世界一周大旅行!!」より本棚ワープをフル活用して世界各地で記念撮影する6人)
(32話「心を一つに!プリキュアの新しい力!!」にてハッピーの危機を前に立ち上がるキャンディ。)
(47話「最強ピエーロ降臨!あきらめない力と希望の光!!」でロイヤルキャンディに覚醒し絶望の闇に沈んでしまったプリキュア達を白く輝く希望の光で導き救うキャンディ。成長したなぁ…)


放送から一年間いろんなことがいっぱいあった。一緒に過ごした楽しかったこと、時には非力な自分にも優しくしてくれたこと、みんなと一緒にいるためにせいいっぱいがんばったこと、大切な想い出いっぱい手に入れた。だから…どれだけ悲しくても前へ進むことにした。その覚悟はみんなを前へ進もうとする勇気をくれた。

放送当時は前半に頻出していた幼稚なワガママや無力さに苛ついてた人もいるかもしれないキャンディ。しかし改めて見るとそういう実らない空回りこのがスマプリであったのだなと気付くし、中盤あたりは持ち前の希望を決して諦めない強い心でみゆき達を助けたしキュアデコルを用いた援護も目立つと成長もしていたし、終盤ではロイヤルキャンディとして絶望の闇に墜ちて往くだけのプリキュア達を救ったり最後の最後で覚悟を真っ先に見せつけみんなを導いた。彼女もまた大切な友達にしてスマイルプリキュアの真の一員なのだ。満と薫がプリキュアならロイヤルキャンディもスマイル6人目のプリキュアだろうが〜!

そして…みんなで泣いた。いっぱい泣いた。鼻水出るくらい泣いた。現実を逃げずに直視し、辛く悲しい別れを受け入れる故に泣いた。泣いた先に……輝く未来が必ずあると信じて前を向いて受け入れた。そしてその輝く未来に自分たち自身でするために、彼女たちは真の絶望と立ち向かう。

「いま…わたし達ができること、全部やろう。わたし達は絶対に……未来を諦めない。」

「絶望を…乗り越えたというのか……?」

「分からない……ただわたし達はみんなで一緒に……未来へ向かって歩いて行きたい!それが……わたし達……スマイルプリキュアだから!」

スマイルの名を冠する癖に最終回泣いてばっかじゃねーかとは当時よく言われたが無理もない、そもそも彼女たちが相手してた絶望が基本的に強く無慈悲にどうしようもない現実を日常生活においても突きつけてきていたのだから。そしてその最終到達点が最も残酷な現実…跳ね除けようのない、受け入れざるを得ない悲しき運命を呑み込ませようとしてるから。そんな変えようがない悲劇を乗り越え、失われし者との想い出を胸に明日へと進むと決めたならば……今は泣いていいんだ、明日からは心から笑えるようになるために

キャンディ達はぜったい負けないクル!

これから先の未来にどんな困難があっても!

わたし達は絶対に前に向かって進んでいく!

これからも大変なことが沢山あると思う…でも!

それを全力で乗り越えて初めてほんまもんの笑顔になれるんや!

わたし達はどんな時も本当の笑顔を忘れない……絶対に…がんばっていくんだもん!!


「絶望を超えるというのか……それは……」
報われない結果、惨めな自分自身、残酷な現実……それらから生じる負の感情によって綴られた絶望の物語そのものなピエーロ。彼女たちはそれを抱きしめるように…その絶望も自分たちが生み出したものなら受け入れるように浄化し、その悲しみの先にも必ず最高の未来があるとばかりに笑顔を浮かべた。

「…バイバイするときは?」
「スマイルクル……」
別れの先にきっといい未来が待っている。お互いにその未来を迎えられるように……笑顔でね。(まぁ見送った後にまたわんわん泣いたんですがね…それが人というものよ)


受け入れなくてはならない悲しみをも乗り越え未来へと進むスマイルプリキュア。彼女たちにはこの先にもたぶん辛く苦しい現実が襲いかかるだろう。それでも……共に笑い、共に泣き、共にがんばった最高の一年間が自分たちには残っている。それは10年後においても……

余談になるがマンガ版の単行本描き下ろしにてトラウマじみて残り続ける恐怖を払拭しようとする1コマが話題になったやつ、あれも次のページにおいて恐怖はあれどそれでもちゃんとみんな前を向こうとしていたのだ。ただ意地悪く終わらせるなんて絶対にない、表層上の情報だけで判断せずに実際に手に取って確認してほしい

さてこれにてスマプリの話も終わり……といきたいがまだ少しだけある。冒頭で触れたラストの絵本のやつだ。なぜ星空みゆきはあのように絵本を描いたのか?最後にその理由を回収しつつ、星空みゆきという少女について知ってほしい。


「わたしの『みゆき』という名前は、どんなに辛くても幸せを見つけられる子になってほしいという願いがこめられているそうです」
19話「パパ、ありがとう!やよいのたからもの」にて自分の名前の由来を説明するみゆきちゃん。実は彼女にもやよいちゃんめいてその名に対して名付けた方の想いが込められてまして……

・約束だよ いつもどおりの景色に出会えたなら おいでここまでスピード上げて愛を探そうよ


『スマイルプリキュア!』における主人公の星空みゆき。ここまでスマプリについて書いた中でも彼女については断片的に出してたのでだいたいどんな娘かは把握しているだろう。しかし実は番組企画時における初期案ではちょっと違った部分があった。それは“徹底的に前向きな女の子”であること。
そりゃ確かに明るく前向きな部分はあるし表層上はそう見えるかもしれない。上に書いた32話においても、彼女がどんな困難を前にしても決して諦めない強い心で仲間を目覚めさせた所は彼女の強さでもある。しかし彼女はもう一つの側面も合わせ持っている…弱さだ。ジョーカーやピエーロといった圧倒的絶望に屈しそうになったのは奴らが強大すぎたからここでは置いといて、そこ以外にも彼女の心の弱さをちらほら見かける場面も……

「一緒にいたせいでみんなまで大凶に巻き込んじゃった……こんなことなら……」
13話「修学旅行!みゆき、京都でどん底ハッピー!?」より。大凶スマイルでおなじみな大凶効果はすさまじく京都にいる間はずっと不運まみれ。友達も自分の不運に巻き込むのは勿論、挙句の果てには戦闘においても不運のせいでみんなの足を引っ張ってしまった…その際に漏らした申し訳ない気持ちでいっぱいの台詞。

「テメェが作ったのかよ。どーりでやたらヘタクソだと思ったぜ!こんなモンもらって喜ぶ奴いるのかよ?」
「やっぱりそうかな……全然上手にできてないもんね、それ……そんなんじゃお母さん喜んでくれないよね……」
15話「ドタバタ!みゆきの母の日大作戦!!」より。いつもお世話になってる母・育代に母の日だからと家事を手伝うも全部失敗、それならプレゼントを渡そうと(プリキュアシリーズ伝統あるおもちゃ・ビーズメーカーの販促も兼ねた)ネックレスを自主製作するも……母の自画像をさらりと描くやよいちゃんに裁縫は手慣れたものであるなおちゃんに陶芸なんてやっちゃうれいかちゃんと違い特技もない自分が作ったものだし戦闘中に落として欠けてしまった。酷評するウルフルンの言うとおり…

このように時おり見せる落ち込む際はけっこう後ろ向きになっているみゆきちゃん。初期案の徹底的に前向きという設定ではこうはならないだろう。それについては彼女に苗字『星空』を名付けたシナリオ構成担当の米村正二氏がインタビューにおいてこう語っている。

(米村)みゆきは当初、徹底的に前向きな女の子として設定されましたが、僕はただ前向きなだけの人というのはうそっぽいと思ったんですよね。「地獄を見る」じゃないですけど、心の闇を感じたことないのに、常に明るく元気でいられるなんて、説得力がないかなと。だから、僕の中では、みゆきは普通の女の子と同様に、当然落ち込むことがあるというイメージでした。

コンプリートファンブック88Pより引用

「地獄を見る」なんて物騒な単語が出てるが流石リレー回でなおを転ばせるようにしただけある男だ。そしてそんな男がシナリオ構成した今作は上でさんざん説明したように失敗だの実らぬ努力だの暗く苦しい地獄を見るような展開ばかり……そんな闇に目を逸らして都合のいい幻想だけ見て笑顔を作っても「うそっぽい」というのも32話での怠け玉空間がまさにその通りである。

その信念を持って作られた星空みゆきちゃんは当然落ち込むことだってある、というか根本の性格自体が控えめで臆病だったというのが彼女の過去回想を描いた44話「笑顔のひみつ!みゆきと本当のウルトラハッピー!!」にて判明するのだ。……ニコちゃんが無かった扱いされたあの話!?そうだ。映画は映画、本編は本編なので片付けるのはなんかなと思う人もいるし、実際に自分もプリキュア映画の中でも一二を争うくらい好きなのだが…この44話こそ『スマイルプリキュア!』という作品においての画竜点睛の部分と自分は捉えており、最終回ラストでみゆきちゃんが絵本を描き始めた理由へと繋がってるからだ。ラストの個人回とはいえそんな大袈裟な誇張では?と思うかもしれんが彼女の回想から見ていこう(もう一度言うがこの話の脚本はもちろん米村正二氏直々に書いている)

それはみゆきが小さい頃…父・博司の仕事(ちなみに本編では不明だったが小説にて職業が判明するぞ!)の都合で祖母・タエの実家に滞在してた時期があったのだが、なじまぬ土地もあって人見知りを続け家で絵本を読んでばかりだった…これこそが彼女の根本の性格だったりする。それを心配した祖母は「笑う門に福来る」ということで小さな手鏡を授けた。まさに今のみゆきちゃんにとっては座右の銘といわんばかりな諺、当時もそれならばと鏡に向かって笑顔の練習してみたが……

……が、地元の子たちに混ざろうとするも迫られるのが怖くて逃げてしまった……根の性格がそう簡単に変わるわけない。やっぱり自分はそういう笑うのとか無理なんだろな。森の中の大きな木の下、彼女は一人つぶやく… 
「かがみよかがみよかがみさん、わたしのお友達はどこですか……」

──ふと、風が吹いた

あの子がいた。名前は……覚えてなかったしそもそも聞かなかったかもしれない。それでもその子は木の下で鏡を覗く度にそよ風と共に現れ…

「わたし…その子とたくさんおしゃべりして、たくさん遊んだの。とっても楽しくて……キラキラした時間だった」

序盤の7話「どこなの?わたし達のひみつ基地!?」にてみゆきは小さな頃から『赤毛のアン』のアン・シャーリーが大好きと言っていた。近所で友達ができず読書ばかりしてたダイアナ・バリーにできた初めての友達が不思議な少女アン…彼女達が永遠の友情を誓った秘密の場所に憧れて自分もそういう素敵な所を探していた。そしてあの子がそこにいた。彼女こそが自分にとってのアン・シャーリーだったかもしれない

不思議な少女との素敵な時間、当時のみゆきちゃんはそれを絵日記のような絵本として描いた。タイトルは…『スマイルちゃんとハッピーちゃん』絵本の中の少女ふたりはいつもスマイル、そしてとってもハッピー。完成したのであの子にも見せようとしたら……

前に逃げてしまった地元の子たちがいた。あの時みたいに怖くてまた逃げてしまいそうだった。そんな時に……

──笑って…。

──風が吹いた。あの子の声が聞こえた。回想の中で唯一覚えていたあの子の言葉…「笑って。」が。そして彼女は…

「こ……こんにちは……」
拙い笑顔で、勇気を出して逃げずに挨拶した。相手側も悪い子じゃない、なにより描いた絵本を通じて仲良くなれた。あの子とのキラキラした時間が、自分を“新しい友達ができた”という明るい未来に進ませてくれた

「わたし、その時わかったの……暗い顔をしているとハッピーが逃げちゃう。笑っていたら、きっと楽しいことがやって来るんだって……」

バレー部のレギュラーになれず落ち込んでた日野さん、そんな彼女に駆けつけた言葉「泣いてるとハッピーが逃げちゃうよ!スマイルスマイル♪」それはかつての自分も友達からもらっていたおまじない、暗い闇夜において輝く未来へと導く希望の光だった。大袈裟かもしれないがその言葉に救われていた。校内美化活動ポスター応募で本当は描きたいと思っていたのに勇気が出せず躊躇してた黄瀬さん、その気持ちをいち早く察して優しく後押ししたのも、かつての自分みたいでそれを助けたかったからだろう。確かにこの記憶はふと思い出したものだ。それでも今の自分の信念とそこからの行動理由としてちゃんと残っている……

初期案の徹底的に前向きな子にはせず落ち込むこともある子へと設定されたみゆきちゃん。それを語った米村氏のインタビューにはこんな続きがあった。

(米村)落ち込んでるときに希望を感じることってどんなことだろう、と考えて、夜の星空かなぁと思いついて。それがそのまま通った形だと思います。

夜の星空』という苗字の由来で自分は目から鱗が落ちた。今作において敵として襲いかかってきたのは陰鬱な感情によって形成された絶望…それがもたらす、どう進めばいいかという先行きすら全く見えず足を止め沈み続けるしかない永遠の闇だ。そんな闇夜の中でも輝く星があればそれを道標にして前へ進める。『星空』という苗字はどれだけ闇深き夜空であっても星という希望の光は輝いてるという証なのだ。さすが『天の道を往き総てを司る男』なんて仰々しくも名は体を表すと云わんばかりなキャラを生み出した脚本家だ…

そして闇に呑まれた者が見る希望の光ってのは他者が差し伸べる救いの手である。この44話においても母とはぐれてしまった少女ゆらちゃんのために5人はお母さんを探してくれた。そしてそれ以外にも…


「星空さんはウチを励まして応援してくれたんや…次はウチが助ける番や!」
2話「燃えろ!熱血キュアサニーやで!!」より。ハッピーだけで怪獣アカンベェに立ち向かうものの浄化技を外すというポカをやらかし大ピンチに陥ってしまった最中、対抗できる力なんて持ってるわけない日野あかねが助けてくれた恩を返したいと立ち上がる!そしてこの友達を助けたい強い気持ちからキュアサニーへと覚醒したのだった。

「一緒におったら大吉や!」
13話「修学旅行!みゆき、京都でどん底ハッピー!?」にてみんなも不運に巻き込んでしまって落ち込むハッピー。しかしそんなの全然気にしてないと仲間たちが励ましてくれた。実際いろんな災難に見舞われてたのも思い返せば愉快な絵面で笑えるものだったし(そういうのを笑って済ませられるのも同級生メンバーという強みである)なんならラストは舞妓はんにも会えるというラッキーがあったと決して不幸と言い切れるものじゃなかった。

「ハッピー、それはちゃうで」
「え……」

「それ……返してくれんか」
「あ゛?」
「はよう……返さんかいっ!!」

15話「ドタバタ!みゆきの母の日大作戦!!」にてウルフルンにネックレスをメタクソに言われ落ち込むハッピーに代わりサニーが怒りを見せる!自分だってプレゼントするエプロンの刺繍に苦戦し指に何度も針を刺してしまったし生地を食い込ませてしまってる。そんな不細工なもんでも想いこめてせいいっぱい作ったんやし、同じくらいがんばって作ったみゆきのモンを悪く言うのは絶対に許さへん!ちなみに

(こう見るとあかねちゃんばっかだな……でもみゆきちゃんが落ち込むと真っ先に駆けつけるのはあかねちゃんだし)


「いつも誰かの優しさがあったから……臆病なわたしも自分の一歩を踏み出すことができた……きっとみんなもそう……誰かの優しさがあったから…1人じゃ無理と思えることにも立ち向かえた……」
「みんなの優しさがどんな時でもわたしを励ましてくれる…前へ進む勇気をくれる…わたしの心を暖かくしてくれる……!わたしをウルトラハッピーにしてくれる!」
(ウルフルンとの戦闘時の台詞より)


絶望を前に決して逃げずに自分自身の決断で前へ進んでほしいというのがスマプリのテーマではある。しかしそれは真実にしてはあまりにも過酷でもあり、絶望へと追い込んでしまってしまった要因である弱いままの自分独りでは太刀打ちできない場面も多々ある……その時に大切な人が手を差し伸べ助けてくれるという“優しさ”が大きな救いになり、そのおかげで自分は立ち上がり絶望の未来を変えられる力が湧いてくる。あの子が築いてくれた素敵な時間が、耳元で囁いてくれた助言が自分自身を前へと向けてくれた。そしてその“優しさ”のおかげで幸せになれた今の自分がいるからこそ、自分にとって大切な人が困ってるならばかつての自分がそれで救われたように助けてあげたい。闇夜に沈む自分が天に輝く星の光に救われたから、今度は自分が闇夜を照らす星の光になろう……スマプリの衣装は5人とビビッドな色合いでありレインボーバーストといった虹を意識した技があるように暗闇でも輝く…それこそ名乗りにある「5つの光が導く未来」なデザインをしており、さらに細部に彩られた羽のデザインに映画や終盤で覚醒したウルトラフォームにおいて白をふんだんに取り入れた衣装になってまるで……誰かの優しさに助けられた彼女自身が別の誰かを助ける、それはまさに暗闇でも輝く希望の光であり救済の天使であるとも言えるだろう(ロイヤルキャンディも含む)。

44話がなぜ今作における画竜点睛なのか分かっていただけただろうか?彼女たちが絶望を前にしても戦えた理由がここに書かれていたからだ。そしてそれを気付かせてくれたあの子…スマイルちゃんには感謝の念を抱く。ありがとう……本当にありがとう……


……なのだがこの回想には続きがあったのだ……そしてそれも最終回への解答へと繋がる大切な要素になっている。

──あの子はそんな幸せを掴めた友達を見て微笑み……最後に風が吹いた。後ろを振り向いた。そこにはもう、いなかった…


それ以降、みゆきちゃんはあの子に会うことはなかった。いつもの場所に行ってもいない、それどころかお婆ちゃんや地元に住んでる友達に聞いてもそんな子は見たことないとまで……別れというのは唐突であった。彼女は既に別れの辛さというのを知っていた。それでも残り続ける大切な想い出が与える強さを知っていた。36話でブライアンと過ごした時間が無駄になるなんてあんまりだよと寂しがったり、19話でやよいちゃんが亡き父に愛されていたと第三者ながらも確信していたのはそういうことだろう…

涙を流すくらい悲しかった。でも「泣いてるとハッピーが逃げちゃう」とあの子が教えてくれた。だから前を向いて…“ハッピー”を探すことにした。あの子と一緒にいた時のようなキラキラ輝く楽しい気持ちを。そこから生まれる笑顔の先に必ず幸せが待っているから……雨が上がった後に虹が映るように……


そして……“あの子”もそうありたいと……

「みんなと一緒でとってもハッピーだったクル……キャンディは…これからもウルトラハッピーを感じたいクル……」
「キャンディはみゆきと同じクル……いっぱい…いっぱい友達を作って……みんなに…………ウルトラハッピーを分けてあげたいクル…………!」

最終回「光輝く未来へ!届け、最高のスマイル!!」にてキャンディはみんなと永遠に会えなくなるという事実を前にしても未来へ進むことを諦めないと決意した。どんな困難があっても決して諦めないみんなが教えてくれた。そして……みゆきみたいに友達と過ごした最高の時間をメルヘンランドでも紡ぎ、共に友達と助け合ってみんなにその幸せを分け合いたいという“未来への夢”を持てた。誰かへの優しさがその誰かの優しさを育むように。ハッピーちゃんは、スマイルちゃんでもあった。

今作のオープニングソング『Let's go!スマイルプリキュア!』において「笑顔でいるから幸せになれる 満ちていくまぶしさを分け合いたい」という歌詞がある。まさしくそれに相応しい内容であったなぁ……

キャンディとの別れは本当に辛く悲しいものであった。でも、キャンディの中に未来への夢が生まれた。そして、自分にも……

さて、44話ラストにて迷子少女ゆらちゃんも無事に母と再会しめでたしとなり、クリスマスとあってか街はイルミネーションで輝き雪も降ってきた。友達とみんな一緒にいることがウルトラハッピー、そう改めて気付けたみゆきに……

──風が吹いた。あの時みたいに……



──ずっと、そこにいたんだね。






──キャンディ…学校の図書館に行くとね、キャンディのことを思い出すんだ……でも寂しくないよ。キャンディとは心でつながってるもんね。

幸せは探すものじゃなくて、感じるものだったんだね………たくさんの幸せがすぐそばにあったなんて……

最終回の後日談、屋上にてあの時のように風を感じる。家族が、クラスメイトが、友達が一緒にいる。そこからウルトラハッピーが生まれる。そしてキャンディもすぐそばにいると心で感じられる……あの子が気付かせてくれたんだ……


「わたしの名前は星空みゆき。わたしは今、わたしがもらったたくさんの幸せを、今度はいろんな人に届けたくて絵本を描きました。」

タイトルは……『最高のスマイル』

彼女がなぜ絵本を描いたのか?それはかつて二度と会えなくなった友達と共に過ごし感じた素晴らしき時間を描いた絵本が自分を救ってくれたように、また二度と会えなくなった友達と共に過ごした素晴らしき時間を含めためいっぱいの“幸せ”をみんなに分け与えたいから。それが自分みたいに誰かの救いになるだろうから。
そのラストに彼女が見つけた“未来への夢”こそが『星空みゆき』という名前に込められた想い…夜空に星として輝き迷い苦しむ人を救う、希望の光なんだ。
やよいちゃんみたいにすぐに上手くは描けないのは分かってる。その夢に対してたぶん困難も待ってるかもしれない。それでも……みゆきちゃんならきっとできる。多くの人を笑顔にすることができる。
自分は視聴二周目にしてそれに気付き、感動で延々と泣き続けた。これを書きつつも目をうるうるしているくらいだ。小さなその手でぎゅっと夢をつかもう……

(まあ二度と会えない言ったけど最後になんか奇跡起こってキャンディとまた会えるようになるんすけどね。そんなんあり!?ありクル!)

「わたしは……みんなと一緒に笑いたいな」
そして2014年春に公開した『映画プリキュアオールスターズNewStage3 永遠のともだち』にてプリキュア達は都合よく夢(将来やりたい方)の叶った夢(寝る時に見る方)の空間に閉じ込められる。仲間と分断されてしまった夢の中でも、みゆきちゃんは絵を描いていた……みんなとの素晴らしき日々を。自分はレンタルして家でそれを見てたがまた泣き崩れてその日の視聴を休止した。この映画はプリキュア5の描写が高く評価されてる(俺もそう思う)が、ここも個人的にはクリティカルポイントなのだ……

・I won't forget your sweetness really so. just like I say would be…(あとがき)


最初は「いっつもプリキュア見てる人ならともかく久々に10年前のアニメについて触れる人に長く書きすぎると読まれないかもしれんから手短にするか……」と思ってたのに案の定の長さになってしまった。すまんかった。でも伝えたいことはフルに書ききれたと思う。人によってはバッドエンドプリキュア(1話限りの割に存在感アリアリ)とか育代さん(母親なのに人気ありすぎてまさかの公式でグッズ化)とか松原巡査(マジョリーナが発明品無くした時に来る交番にいたおまわりさん)とか全然話してないやんと思うかもしれないがまぁそれはそれで……

2022年といえば『キラキラ☆プリキュアアラモード』は同日2月5日で放送5周年になるし(これもけっこう語れるくらい密度ある作品だ)『Yes!プリキュア5』は昨日で15周年を迎えたし(これは去年いっぱい書いた)桜咲き十六夜の月浮かぶ夜、ふたりがついに再会するだろうとめでたいのは数多くあるのだが、自分はnoteを書き始めた2年前から『スマイルプリキュア!』10周年という記念日になんとしてでも自分のやりたいことを残したいと思っていた。小説版の舞台にたどり着いたのは勿論のこと、そもそもスマプリという話自体が当時見てた人がいつの日にかにこそ思い出してもらいたい内容だと思っていたから

あれから10年、間違いなく当時見てた人はあの頃とは違う生活をしているだろう。メイン視聴ターゲット層の未就学〜小学校低学年女児をはじめ日曜朝の慣習として見続けてたりネットで話題になってたから見てた方々、今でもプリキュア見てる人もいれば今はもう見てない人だっている。それでも10年という月日は平等に流れている……現実というのは過酷だ。時に嫌なことだってあるし自分一人ではどうしようもできないことだってしょっちゅうだ。鬱屈すぎて考えるのを止めてただひたすらその日に流され時をすり減らすことしかできないくらいに追い詰められてる人もいるかもしれない……
だけどふと思い出してほしい、あの時にテレビで見てた彼女たちが楽しく色々やっていた話を。彼女たちが現実にも存在する重苦しくて逃げたくなるような辛いことに勇気を出して立ち向かっていた話を。誰かの優しさあるから強くなれたから別の誰かを助けようとした彼女たちの話を。それをテレビで見ていて笑い、泣き、胸が熱くなっていた自分たちがいたことを。その想い出はひょっとしたら自分たちが明日を進むための勇気に変わるかもしれない。それは単なる気休めのおまじないと言われれば否定できない。たかがアニメでそんな高尚なの感じるとか痛々しくて馬鹿げてるじゃないかと片付けられても仕方ない。けれど、それで心が救われた人間だって確かに存在する。


かくいう自分がそうだ。放送当時の2012年、自分の取り巻く環境があまりに劣悪すぎて心身共にズタボロになったいた。毎朝5時起きて帰るのは日付けが変わるのもしょっちゅう、物理的にも精神的にも何度も何度も傷つけられ……朝が明けるのが怖くなって眠れないこともあった。自殺とかも本当に考えてた。去年から見ていた戦隊もライダーも見る余裕がなくなる程に追い込まれ……それでも『スマイルプリキュア!』だけは見る気力は残っており、毎週それを見ることだけが辛うじて残されてた楽しみだった。時に笑い、時に泣き、時に逆境に負けない彼女たちを見て勇気をもらい……生き続けることができた。そしてなんとか生活が改善しプリキュアシリーズの過去作をひと通り視聴し2015年にもう一度今作を見たのだ。その時に分かった。「自分はこの娘たちに救われていたんだな」と。


だから伝えたかった。自分が好きなスマプリをこんなにすごい作品なんだぞと高らかに。なにかと終盤あーだこーだ悪く言われがちな今作だろうと真っ向から対抗してやるぞの意気込みで書き綴った。そうしたら案の定この長文になっちゃったけど……とにかくこれが自分にとっての『最高のスマイル』として届けたかった。当時スマプリを見てた人が思い出してほしいから。そして10年経った今こそ小説版も読んでほしいから。その物語…彼女たちが再び絶望に抗う話は自分の明日を生きる力になるだろうから……


ということで今回は読んでくださりありがとうございました。それでは!輝け、ハッピースマイル!!

(参考文献)




(各トピックのフレーズは小松未歩『風がそよぐ場所』の歌詞より引用しました。何故かって?それは……)

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