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田根剛の建築は奇抜か?

現在、東京オペラシティとギャラリー間である建築家の作品展が行われている。その建築家が一般的に着目を集めるようなったのは、ザハ・ハディットの新国立競技場がなくなり、再コンペになった時だ。

古墳スタジアム。

そんな意味の分からない名称だけかワイドショーを独り歩きした。しかもその建築家がパリを活動拠点としていることから、さらに謎に満ちたクリエイターとして取り上げられた。
しかし、彼は別に注目や人気を集めるために古墳スタジアムなんて特異なものを作ったのではない。
ここでは、少し田根剛について、主観を混ぜながら書きたい。

彼の建築を一言で言うと、「今ここにある必然性を大切にした建築」と言える。
「ここにある必然性」はよく建築界隈でサイトスペシフィックと言われる。簡単に言えば熱い土地だから風通しを良くしましょうとか、オフィス街だからあえてコミュニティを生み出せる長屋みたいなオフィスにしましょう。ということだ。
一方、「今ある必然性」とは、恐らく田根剛氏の造語だが、タイムスペシフィックと記される。土地には歴史がある。その歴史を汲み取って建築に活かす試みだ。この反対として極端な例を挙げるなら、サンシャインシティがある。あの場所は昔刑務所があった。ただそれを全く感じさせない商業施設に生まれ変わっている。
このように昔のにおいを消すことで、生まれ変わる例もあるが、それを活かしつつ未来につなげる試みをしている。

エストニア美術館が良い例だ。旧ソ連の軍用滑走路跡地に国立美術館を新設する。この命題自体が田根剛のためにあるようなお題である。つまり、軍用という負の遺産を国立美術館として残すプロジェクトなのだ。
東京オペラシティの展示において、エストニア美術館の施工から現在に至るまでの映像が投影されていた。国外からの人はもちろんのこと、映像の見せ方としては、地域に根ざした美術館という見せ方を行なっていた。
これこそ、田根剛が時間や土地の歴史を重んじる理由である。土地の歴史を重んじることで、その地区に住む住人に親和性のある建物を作る。つまり、「新築だけどどこか懐かしい、そして新しい」ということを実現する手法なのだ。

また、東京オペラシティ、ギャラ間のどちらとも膨大なリサーチ資料が展示されていた。果たしてこれのどれだけが案に直接的に結びついているのかは不明だが、これはリサーチの歴史を見せる試みでもある。「歴史にはムダと思える遠回りが存在する一方で、それがあるからこそたどり着けるものがある」という事実を見る人に印象付ける。

また、展示手法に関してもタイムスペシフィック的な手法が行われている。
東京オペラシティでは、時間によってゆっくりと照明の明るさが変わっていく。まるで1日が始まって終わるまでのようにとてもゆったりと明るさが変わる。
これに気がつきながら模型たちを見ると、模型であってもそんな月日を経ていることを実感させられる。
ギャラリー間では、一部屋外展示が存在する。たまたま行った時が雨だったのだが、もしかしたらここはこんな雨の日のために作られたのかもしれないというくらい模型を覆うアクリルの表面に水滴がついて綺麗だった。
恐らく晴れの日にはまた別の表情を見せるのだろう。これこそがサイトスペシフィックであり、タイムスペシフィックな展示だった。

オペラシティーとギャラ間で行われている田根剛の建築展。どちらも違ったアプローチで時間、場所と建築のあり方を示している。
片方だけでなく両方見た方が納得度は高くみられる。
#建築 #展示会感想

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