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父の仕事場は猫の通り道。

カトリック教会専門の木工職人の父。
一人で働く工場には、たくさんの猫たちが訪れた。
おそらく、「ここは安全で、ごはんももらえるよね」って、猫たちの間で話題になっていたかも。
物語は多いが、我が家に初めて来た子を紹介する。

もう30年くらいまえになるだろうか。仕事から帰ってきた父が一枚のポラロイド写真を持ってきた。
「猫が来てね」「あら、ブスちゃんね~」なんて会話をした。
それから毎日、父の工場に来るようになった。
私も見に行った。ブスじゃないじゃん!白地にサバ模様の入ったなんとかわいい子。
父はいつの間にか「さくら」と名前を付けていた。
透明なノミ取り用の首輪をしていた。近所の話では引っ越しで、置いて行かれたとのこと。
家では飼えないと、木材の間に発泡スチロールのハウスを作って、さくらはそこに住むようになった。
工場の敷地にある竹材屋さんのおじいちゃんと父と、さくらに会いに行く私でお茶をしていると、必ず「私も」と走ってきて、4人で一緒にお茶をする。
寒い日が続いた日、さくらがひどい風邪をひいてしまった。
病院に連れて行こうと、捕まえようとするが、するするっと逃げてしまう。
こちらははしごをかけて、やっと捕獲。
初めて我が家に連れてきた。くしゅん!と父の足にくしゃみをひっかけ、大笑い。

母がふと「お腹膨らんでいない?」と気づいた。
妊娠の可能性も含め、病院に連れて行った。検査の結果、妊娠ではなく、卵巣に病気があり、手術で取り除くことになった。風邪も含めしばらく入院。
無事手術を終え、49,000円かかったことから「49,000円の猫」としばしさくらはからかわれた。
そして、手術を機に正式に我が家の家族になった。

さくらは、賢く、美人で、気品のある子。
ちょっと控えめで、でも遊びたいときには呼びに来て、「こっち」って案内してくれる。新聞を立てて、安いおもちゃで遊ぶのが大好き。

さくらは大の写真嫌い。
ある時、私がガラケーでさくらを撮りたいと構えたら、「パシッ!!」
え!?
そう、携帯が破壊されたのだ。もちろん一切さくらは触っていない。
さくらの顔が怒っている。さくらの強力なイヤイヤパワーで携帯にひびが入り携帯は使えなくなった。おそるべし超能力。

途中で、姉が保護した「なっちゃん」という子猫が家族入りし、
1週間目でなっちゃんを舐めてあげて、さくらに妹として受け入れてもらった。
それから十何年も一緒に楽しい日々を過ごした。

私がデジタル一眼レフを始めて、さくらを撮りたいと思って、
また破壊されるのを恐れながらも、カメラを構えた。
無事破壊されなかったことに安堵した。

さくらも年齢を重ね、腎臓もひとつ取ったこともあり、体調がよくない日が続いた。
母は今でも、寿命を察して姿を消すために外に出ようとするさくらを見るのがつらかったと話す。
家族全員いつも通りにぎやかに過ごした日。
さくらはにぎやかで笑い声が響く我が家が大好きだ。

2008年10月8日。家族全員、もちろんなっちゃんも来て、みんなが見守る中さくらは静かに旅立った。初めての看取りだった。私は「さくら、さくら!」と声を出して泣いた。
その後、葬儀まで家族全員会社が休みだった。最後までなんていい子なんだろう。葬儀場で空へと見送った。

さくらから始まった現在に至るまでの保護猫暮らしが今も続いている。
保護猫を迎え、家族になるということは、幸せにしてあげること。
そして、ちゃんと最期まで看取るということ。
死と向き合い、愛猫が猫生を全う出来たら、私たち家族も幸せだ。
さくらが教えてくれた、たくさんのこと。ちゃんと妹たちに引き継いでいる。

2022年10月8日、14回目の命日を迎えた。
小さな花を添えて、写真のさくらに話しかける。
「さくらは長女だから、しっかりしてるけど、もっとゆるくていいんだよ」と。
その写真は、私が超能力破壊を恐れながら撮らせてくれた、
嫌な顔をせず美人で気品のあるさくらが写っている。

#うちの保護いぬ保護ねこ

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