ばあちゃんとのこと

早く死にたい。
じゃあなんで薬飲んでるの?

こんなやりとりを20年以上続けたばあちゃんが死んだ。

ばあちゃんは早く死にたかったのだ。
やっと人生のゴール切れたね。
よかったね、やっと楽になったね。

ばあちゃんはその当時は珍しい高齢出産だった。だから、自分に孫ができるのは想定外だったらしい。

ゆうちゃんがランドセルしょる頃にはばあちゃんはもう水だ。
ゆうちゃんの成人式のときはとっくに水だ。
ゆうちゃんが車の免許を取るときは水だ。

私が成長する度に、ばあちゃんが水になるときは先延ばしになった。

水になると言うのは、遺骨が溶けてなくなること。よって、亡くなってからだいぶ先。

ランドルセルどころか私は社会人になった。

ばあちゃん、だいぶ先延ばしだね。

私が早くに結婚して、子供を産めば、まさかのひ孫にも会えたのかもしれない。
(ごめんね、そんなの兆しすらなかったわ。)

ばあちゃんは戦時中生まれだ。
約90年の人生で社会は大きく変わった。
冷蔵庫ができ、テレビができ、携帯ができ、こんな発明はばあちゃんのキャパをとっくに越している。

延長した人生はどうでしたか?
早く死にたかった人生、かなり延長してるけどいいこともありましたか?




ばあちゃんとの1番の思い出がある。

私とばあちゃんは食の好みが近かった。

だけど、食べる順番は違った。
ばあちゃんは好きなものは先に食べる派。
私は好きなものは最後に食べる派。

スーパーのお寿司を食べているとき、私が大切に取っておいたたまごを食べられたのだ。

ゆうちゃん、たまご嫌いなの?
ばあちゃん食べてやるよ。

答える前にばあちゃんはたまごに箸をつけた。
ばあちゃん、嫌いなんじゃない。最後にとっておいたの。

これ以来、ばあちゃんの前でご飯を食べるときは好きなものを先に食べる派になった。
食べられないように。



また、ご飯の話。

ばあちゃんは人が食べているものを欲しがった。
だけど、欲しいとは言わない。

ハイエナの様な目で見てくる。
欲しいとは言わずに訴えかけてくる。

私とばあちゃんの食の好みは近い。(2回目)

結構な確率で、ゆうちゃんの食べてるのうまそうなって言われた。

ちょっとあげると嬉しそうにした。
かってんな(固いってこと)、しょっぱんなって言いながら、結局はうんめえなって言った。

ちょっとしかあげないと、こんなちっとんべーって怒る。
よそりすぎると、そんな食べられねーよって怒る。

ばあちゃんと仲良くなるのは難しい。




決してドラマに出てくるようなおばあちゃんではない。母型の祖母とはまるで違うばあちゃんだった。
私の成長をどこかひと事のように観察していた。ばあちゃんとの共通言語が無さすぎて、私が頑張ってること、やりたいこと、挑戦してることの話をしても理解してもらえなかった。

だけど、ばあちゃんも知ってる成長の儀式を実は1番長期的に喜んでいてくれた。

ランドセルをしょるということ。
中学生になるということ。
振袖を着るということ。
車が運転できるということ。

パパが成長の過程の写真をたくさんプレゼントしていたことをつい先日の遺品整理の時に知った。
写真を見ながら毎日話しかけていたことは知ってる。

ありがたいな。





食べたいものたくさん食べてるかな。
マグロ食べた?
甘いもの我慢しないほど食べた?
生きてる時あんまりいい行いしてないけど、きちんと素敵な世界に行けたかな?
そっちの方が友達たくさんいるよね。
久しぶりの再会はどうだったかな?

わがまま言っちゃダメだよ。
最後まで素直になれないけれど、感謝してるよばあちゃん。