「見送る扉」第十二場

■第十二場
    超高級ラブホテル。舞台上の左右に2部屋。それぞれベッドが並んでいる。
    片側の部屋で、聡が通話中。(観客から見て。場所がラブホテルと悟られない工夫が望ましい。冒頭は、聡へのピンスポのみで、通話終了後、全体照明にする等)

聡 「そうか!。エリ、ありがとう!、ホントに助かったよ。‥うん、それは後日で、またな!。」
   聡は電話を切ると、勢いよくベッドに身体を沈める。
聡 「おっしゃ。ははっ!。あーあ。ちょろいわ。」
美里 「全くひどい男よねー。元カノを騙して、お金巻き上げるなんて。」
ベッドから、肌着姿の美里が、むくりと半身を起こす。
聡 「お前が、このホテル泊まってみたい、って言ったからやったんだぞ。この部屋、休憩でも3万するんだからな。」
美里 「ここね、奥に露天風呂と、岩盤浴もあるのよ!。朝までゆっくりしようね。‥‥、で、どうすんの?、アンタの元カノ。もう少し巻き上げられない?。わたし、バリ島行きたいんだけど。」
聡 「ダメダメ。ここらへんが潮時だよ。貧乏なやつだから。これでもだいぶ無理がかかってるし。‥ってかお前の方こそ、ひどいやつだなー。‥人から借りた衣装もボロボロにしやがって。あれと似た衣装、お前持ってるだろ?。」
美里 「舞台がアクションコメディーでさ。あの恰好でかなり動き回るのよ。自分のやつ駄目にしちゃうの、嫌だったからさー。」
聡 「って、わざわざ高校でお世話になった先輩に借りに行くかねー。」
美里 「‥田中先輩、変ってたな。‥呆れるくらい簡単に人信用してさ。‥弁償するって、一応口だけ言ったら、それもいらないって言われて。‥どこまで甘いんだろうねー。‥ああいう人はね、一度地獄を見た方がいいのよ。」
聡 「こえーなー、お前。その先輩になんか恨みでもあんの?。」
美里 「‥別にー。気が弱い人だから、借りやすいと思っただけ。」
   言葉とは裏腹に、美里の表情は恨みに燃えている。しかし気持ちを切り替えると、聡の顔を覗き込み、楽しそうに微笑み、ベッドに横たわる。
   ‥半田とアオ入場。半田は嫌がるアオを引っ張り、もう片方の部屋に入る。
アオ 「こんなのイヤです。半田さん、帰してください。」
半田 「いい加減にしろよ。さっきから何度も言ってるだろ?。お前は横水に売られたんだよ!。もう選択肢なんかないんだ。‥俺の言うこと信じられないか?。だったら横水に電話していいぞ?、連絡先知ってるんだろ?。」
アオは、スマホを取りだして横水に電話するが、通じない。
アオ 「横水さん。‥ウソ‥。」
半田 「そら見ろ。俺の言ったことがウソなら、奴が電話に出ないわけがない。信用したお前が悪いんだよ。‥‥さ、こっちに来なよ、蒼ちゃん。」
    半田はベッドに腰掛け、情欲にあふれた目つきで優しく手招き。アオは思わずベッドに背を向ける。半田はアオの態度にいらつく。
半田 「おい!!、こっちへ来い、って言ってるんだ!!。」
   半田は、アオの腕をとり、ベッドに倒し、馬乗りになる。アオはもがく。
   ‥同じタイミングで、聡が美里の上に乗り、キスをすると上着を脱ぎだす。
美里は愉快そうに、大きな笑い声をあげる。
   ‥半田はアオに強引にキスをする。動きが止まるアオ。半田は自分の上着に手をかける。
アオ 「コーイチ‥。‥‥半田さん、‥お金、ちょうだいよ。」
    アオは半身を起こすと、半田をにらみつける。強引にキスされた後のリップが乱れている。
アオ 「わたし、困ってるの!。家賃は滞納してるし、食べていくお金もろくにないしさ!。お金がいるのよ!。」
    半田は不思議な顔でアオを見ていたが、やがて蔑むように笑う。
半田 「これは驚いたな。俺を利用するつもりか?、まあ今はそのつもりでいればいいさ。でもな、寝ちまったらもう駄目だ。お前は俺の言いなりになる!。」
    横水が入場。アオの部屋の扉を激しく叩く。
横水 「すみません!!、フロントのものです。扉を開けてください!!。」
   横水は声色をかえている。あまりの大声に、隣室の聡・美里もベッドから起き上がり、声がする方を見る。聡はベッドから離れ、部屋の扉を少し開け、隣室をうかがう。
   半田は、一瞬呆然。そのスキにアオは半田を突き飛ばし、大急ぎで扉を開ける。横水の顔を見て一瞬驚愕。靴をはく余裕はなく、アオは靴下のまま、ホテルを逃げ出す。半田はようやく起き上がり、扉に向う。
半田 「おまえ!!、よくも!!」
    半田は憎しみにあふれた表情で横水をにらみつける。横水は、平静な表情を装う。双方呼吸は荒い。激しい光景にびっくりした聡は、そっと扉を閉め、ベッドに戻る。美里は何が起こったのかと、目で聡に問う。

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