「見送る扉」第八場

■第八場
    数日後、エリの自宅。昼。エリは聡と電話している。聡は恐縮した表情。
聡 「本当に、ごめんな。」
エリ 「気にしないでいいって。昔はわたしの出る舞台のチケットも、よく買ってもらったじゃん。お互い様だよ。5枚でいいの?。」
聡 「うん。悪いけど、来週まで入金でよろしく。チケットの予約サイトのURL、送っとくから。そこからじゃないと俺の扱いにならないから、頼むね。」
エリ 「了解。‥久しぶりの舞台出演だね。頑張ってね。‥あ、早く水族館、一緒に行こうよー。あそこのペンギン、超かわいいんだから!。」
聡 「うん。舞台の稽古スケジュールが決まるまで、もうちょっと待っててよ。」
エリ 「そう、だよね。‥じゃあ、食事でもしない?」
聡 「ああ、それなら近いうちに。ごめん、今は本当スケジュール見えなくって。」
エリ 「いや、こちらこそごめん。今大切な時だよね。うん。‥じゃあ、それじゃあね。」
聡 「本当にごめん。早く会おうな。」
    電話を切る両者。エリは、しばらく悩む表情。また電話をかける。
ギーヤン 「エリ、お疲れー。どした?。珍しいね電話は。」
エリ 「うん、ちょっとお願いがあって。‥舞台のチケット、頼まれてさ。」
ギーヤン 「ああ、よくある話だよね。俺が出る舞台のチケットも、よく買ってもらったし。いいお返しの機会だよ。どこの誰の舞台?。」
エリ 「それを言うなら、私が出る舞台のチケットも殆ど買ってもらってるし。いつもありがとうね。‥劇団ケリー・フォンダの、SATOSHIって役者さんなんだけど。」
ギーヤン 「へえ。わりと有名どころの劇団さんだね。‥ちなみにサトシさんて誰なの?」
エリ 「‥うん。‥ちょっと言うの恥ずかしいけど、‥わたしの彼氏。」
    ギーヤンはショックで、思わずのけぞる。
ギーヤン 「‥か、‥彼氏いたんだっけ!。エリ、ちゃん。」
エリ 「んー、でも最近そうなったばっかりで。まだ一度もデート行けてないんだよねー。本当に彼氏なのかなって感じ。」
ギーヤン 「ああ、なるほどね。まだはっきりしない感じなんだ。‥まだ希望はある。‥とにかくわかったよ。周りに声かけてみるから、日程教えて。」
エリ 「うん。あとでLINEする。‥あ、もし日程が合ったらさ。二人でその舞台、観に行こうよ。」
ギーヤン 「!、ええ!?。」
エリ 「そんな驚く?。」
ギーヤン 「‥だ、だって、‥彼氏いる舞台に二人連れ、ってまずくない!?」
エリはくすくすと笑う。
エリ 「同じ劇団員なんだからさ。なんも不自然じゃないよ。デートじゃないし。」
ギーヤン 「あ、‥そう。そうだよな。デートではない、うん。」
エリ 「あ、その日のランチか夕食、食べにいこうよ。言い忘れたけど、劇場が池袋のシアターでさ。そこの近くで新しい店できて。行ってみたいんだー。」
ギーヤン 「え、えあ!。ほんと!?。」
エリ 「また、そんな驚くー。ちなみにイタリアンダイニングのお店ね。なんか苦手な食べ物、あったっけ?、トマト大丈夫?。」
ギーヤン 「ないない!、あるわけない!。」
エリ 「よかった。じゃ、お互い稽古やバイトもあるしさ。日程調整しようねー。それじゃ、また連絡する。」。
    エリの方から電話を切る。ギーヤンはドキドキと喜びにあふれる。エリは、クスリと笑ったが、すぐ暗い表情。

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