見出し画像

瑠璃色の甲虫、ルリヒラタムシとルリボシカミキリ

奥日光ではヤマザクラやオオヤマザクラが咲き終わると、シウリザクラ(バラ科サクラ属)が咲き始める。

奥日光千手ヶ浜のシウリザクラは見応えがある。中禅寺湖からの強い風に煽られ、ブラシ状の白い花穂が踊るように揺れる。

今年は梅雨入りが遅れて昆虫を見る機会が多くなった。カミキリムシを探していると、迫力のあるルリヒラタムシ(体長20〜27mm)が現れたりする。深い青藍色の上翅は美しく、見事なまでに扁平な体形に見入ってしまう。

ルリヒラタムシは横からも見てみよう。
面白いことに、同じ体形で紅色のベニヒラタムシ(体長15〜20mm)がいる。森のなかで瑠璃と紅のヒラタムシが出会う、そんな絵本のストーリーは? などと空想してしまう。
ルリクワガタ(体長9〜15mm)のオスの瑠璃色は、ルリヒラタムシとは違う美しさだ。
ルリコガシラハネカクシ(瑠璃小頭隠翅虫、体長12mm程度)は、宝石のラピスラズリのような輝きで、ツガサルノコシカケの幼菌の出す水滴の上を動いていた。

カミキリムシの仲間では、ルリの名が付くルリボシカミキリ(瑠璃星天牛、体長18〜30mm)という日本固有種の〈人気虫〉がいる。この甲虫の美しさは、ルリクワガタのような光り輝く色ではなく、マット状の鮮やかな空色と黒い斑紋の組み合わせだ。森の中では特に目立つ色彩だから、私は「沖縄の海から飛んで来たセルリアンブルー!」などと呼んで、見つけたときに喜んでいた。
しかし、どうしても気になるのは、このブルーは見る角度や自然光によって渋い灰色へと移ろう、ということだった。

ルリボシカミキリの鮮やかなブルーは……
青みのある灰色に変化する。

そして後に、ある事実を知ることになる。
──ルリボシカミキリの美しいブルーは、標本にしてしまうと儚く消える。

あの灰色には美が隠し持つ深い意味があったようだ。
私は、あのときの哀しい灰色が好きになっている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?